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第七章『黒い竜との遭遇』

4(挿絵あり)

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第十四層から第三層へ――

スピードリフターは、チューブを降りたり曲がったりしながら、

ホテル前まで一気に移動した。


ターミナル下部に集まる厚いプレート層のなかには、ハルトの読み通り、

いろんな商業施設がモール街のように立ちならんでいた。

ここ第三層もまさにそれで、

おもに旅客むけのホテルやサポート施設が集中しているのだ。


オハコビ・インは、近くで見上げてみるとびっくり仰天だった。

赤青黄色のスポット模様が入った白い卵のような建物で、

まるで第四層から第七層までのプレートを突きやぶって落ちてきたかのように、

どんとそびえ立っているのだ。


「「「いらっしゃいませ、お待ちしておりました!」」」


大きな正面玄関の前で、空色のホテル従業員服を着たオハコビ竜たちが、

子どもたちをうやうやしく出迎えてくれた。

メスのスタッフたちが首に巻いている、レモン色のスカーフが爽やかだ。


正面玄関をくぐると、驚くほど美しいエントランスが待っていた。

宇宙のように幻想的な模様の壁と、

天井に浮かぶ土星のような形をした大照明が見事だ。

ホテルなのに、まるで宇宙博物館に来たようなワクワク感すらもおぼえる。


子どもたちがうっとりして声をもらしていると、奥から何かが近づいてきた。

すいーっと宙をすべるように飛んできたのは、犬のような耳を生やした、

一メートル半くらいの大きさがあるロボットだった。

正面の画面に犬の顔があって、なんとも愛らしい。

頭に角が生えているということは、オハコビ竜を模したロボットに違いない。

これの他にも、エントランスには同じようなのがいくつも動いていた。


『イラッシャイマセ。チェックインハ、ワタクシノホウデ受ケツケテオリマス』


きゃあ、かわいい!  女子からそんな声がいくつもわいて、少しうるさかった。


モニカさんはロボットの胸のパネルをいろいろ操作し、

手早くチェックインをすませた。


すると、ロボットの体から何枚かのカードキーとプリントが出てきたので、

モニカさんはそれらを受け取って戻ってきた。


「これから男女に分かれて、部屋にむかってもらいます。

ここに部屋ごとの名前リストがあるから、

どこが自分の部屋になるか確認をして、ルームメイトごとに集まってね。

そしたら、あとで部屋の代表者にカードキーをわたします。

そうそう、夜七時になったら、最上階のレストランに集まってね。

それまでに、みんなお風呂をすませておくといいかも」


        *


ハルトは、ケント、タスク、トキオ、

それから他の班のマサハルとシンと、おなじ部屋になった。

半数は当然いっしょになるとして、マサハルとシンとはあまりなじみがなかった。

ふたりは静岡県の出身で、別々の学校に通っており、ふたりとも四年生のようだ。

彼らは、とくにケントと仲よしになっていた。

どうやらちょっとしたアニキとして、したっているようだ。


「だって、ケントさんは『ドラスポ』の大先輩なんだもん」

「強いドラゴンいっぱい持ってるから、びっくりしちゃった」


ドラスポというのは、ハルトもハマっているスマホゲームだ。

ミニチュアサイズのドラゴンたちが、いろんなスポーツでバトルを繰り広げる、

要するにカワイイ感じのゲームだ。

ハルトもキャンプ場でケントと対戦してみたが、まったく歯が立たなかった。


それはともかく、部屋のカードキーはそのケントが管理することになった。

彼がどうしても持つと言い張って聞かなかったのだが、

タスクとトキオは、ケントがカードを失くしてしまわないか不安そうだった。


女子部屋のリーダーに選ばれたアカネが、ハルトにこっそりとこう教えた。


「リーダー気取りはいいけど、ケントはそそっかしいところがあるんだよねえ。

――うちの者が失礼をしますが、どうぞよろしくお願いしますね~」


すべての部屋のメンバーがそろったところで、

子どもたちは犬型ロボットに案内されて、エントランスの奥へやってきた。


そこは、左右に青く光る通路が伸びた広いトンネルの出発地点だった。

なだらかな上り坂が左手に続いている――


プラットホームだ。子どもたちの前には、

デジタルな犬の顔がついた空飛ぶ車のようなロボットが、ずらりと並んでいた。

六人分のふかふかなシートまでついている。

スズカがこれを見たらなんと思うことだろう。


『ワタシタチ『オハコビムーバー』ガ、

ミナサマヲ、ソレゾレノオ部屋ヘトオ連レシマス。

班ゴトニ分カレテ、オ乗リクダサイ。

ソウソウ……面白ガッテユラシタラ、嫌デスヨ』


子どもたちはたまらない気分で、どんどんロボットに乗りこんでいった。




全員乗りこむと、オハコビムーバーたちは元気よく走り出した。


ロボットから流れる楽しげなオーケストラ音楽を聴きながら、

子どもたちはホテルの上階にむかってぐんぐん上がっていった。なんだか、

ジェットコースターの巻き上げ坂を昇っているような気分だったが、

さすがにこの後落下することはないだろう。

通路のむこう側からも、何台かのオハコビムーバーがやってきてすれ違った。

通路の両脇にはなだらかな階段もあるが、

これはロボットを使わずに上り下りしたい人のためのものだろう。


「そう言えば、フラップたちはあの後どこに行ったのかな。ねえ、分かる?」


ハルトはふと、そんなことをトキオに聞いてみた。

トキオぐらいしか分かりそうな子が近くにいなかった。


「うーむ、以前ぼくが聞いた話だと、このターミナルには、

オハコビ隊員が住むマンションがあるそうですよ。

きっとみんな、そこに帰ったんじゃないですかね」


そうこうしていると、トンネルの左手に丸いくぼみの列が見えはじめた。

それぞれのくぼみの奥にドアがあって、ドアの横には部屋の番号札がついている。

また、それぞれのくぼみの前だけ道が水平になっていて、

ロボットがくぼみの横を通るたび、

ゆうらりゆうらりと、メリーゴーランドの馬みたいに動くので、ちょっと面白い。


『708番ルームニナリマス』


ハルトたちを乗せたロボットが、そのドアのひとつにむかってクイッと曲がった。

ロボットは搭乗口をドアの前にゆっくりとつけて、停車した。

同時に、部屋のドアが左右にスライドして開く。


「うぉーい、まったお世話になりまあす!」


ケントが一足先に、部屋のベッドにむかっていき、どっとダイブした。

続いてタスクとトキオが入って、さすがは経験者たちらしく、

というよりまるで部屋の所有者みたいに得意げになって、

ハルトたちを中に招いた。


「ささ、どうぞどうぞ」

「くつろいでいってくださあい」


宿泊部屋も見事な未来感だった。とにかく、何から何までほぼ白い。

六人は平気で座れる横長のソファもあったし、

ふかふかなベッドも六人分そろっていた。

部屋の奥には、ターミナルの中をながめられる大きな窓と、丸いスツールが二つ。


「備えつけのリモコンを使えば、これ一本で空調やライトを操作できるんです。

あとね、空中モニターを呼び出して、テレビも見られるんですよ!」


「クローゼットには着がえとか、タオルとかも入ってるんだ。

冷蔵庫もレンジもあるし。

とにかく、なんでもバッチリそろってるのさ」


部屋のテーブルには、はじめて泊まる子のためか、

だれでも分かりやすい部屋の説明書が置いてあったが、

タスクとトキオのおかげで用ずみになりそうだ。


「なーなー、早いとこお風呂入りに行こうぜ。男子風呂に一番乗り!」


島の探検で、六人はわりとくたくたになっていた。

なので、ケントの提案に全員すぐに賛成した。


六人はワイワイはしゃぎながら、

手に手に宿泊用のシャツとズボン、そしてタオルをつかんで、

どかどかと再びオハコビムーバーに乗りこんだ。

ロボットは、行き先も何も聞かずに目的の場所へ連れて行ってくれた。


大浴場への入り口は、ホテルの中くらいの階層にあった。

入り口の前の広いロータリーに到着すると、

オハコビムーバーがしゃべってこう教えてくれた。


『脱衣場ハ、入ッテ右側ノ通路ガ男子用、左側ガ女子用ニナッテオリマス。

オ間違エノナイヨウ、オ気ヲツケクダサイ。


流レルオ風呂モアリマスカラ、

キットミナサンニ気ニ入ッテイタダケルト思イマスヨ。

――タダシ、オ湯ニツカル前ニハ体ヲ洗ッテネ』
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