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第十章『サポートタワーの午後』

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ハルトたちのスピーダーは、迫りくる山のような雷雲から逃げるように、

ターミナルへの空路をひた進んでいた。

ハルトは、他のみんなを置いてきたことをまだ気に病んでいた。

空路を三分の一ほど進んだ頃、

どうしてフラップの言葉を鵜のみにしたのか、モニカさんにたずねていた。


「――あのね、ハルトくん」


ハルトの質問を受けたモニカさんが、レバーを手に前をむいたまま答えた。


「いずれ他の子たちも知ることになるだろうから、話しておくね。

このツアーのガイド役であるフラップくんや、他の十一頭の竜さんはね、

じつはとっても強いの。そこらの野蛮な竜に負けたりしない。

みんなエキスパートランクだからね」


「エキスパート?」


「オハコビ隊員には、部門ごとの役割とはべつに、隊員ごとにランクがあるの。

フラップくんたちは、上から三番目のランク。それが、エキスパートランク。

一番上はマスターランクといって、

組織全体の中核をになう仕事につくんだけど……あ、これは今関係ないか」


「そのエキスパートランクがなんだっていうのさ?」


「彼らは戦闘のプロ。警備部で、かなり実用的な戦闘訓練を受けているの。

お運び部門の一部の仕事では、

ああいう危険な種族と遭遇することもめずらしくないから、

戦う訓練がどうしても必要になってくるわけ」


「フラップたち、戦うと何をするの?」


「何をするって、格闘技を使ったり……火の玉を吐いたり」


やっぱり、オハコビ竜もそういうことをするのか。

ハルトは、自分がオハコビ竜にたいしていかに甘すぎる夢を見ていたか、

ようやく思い知らされた。


「……それにしても、オハコビ竜にまったく興味がないはずのオニ飛竜たちが、

どうしてこの空域に現れたのかな?

きっとフラップくんだけじゃなくて、フレッドくんやフリッタちゃん、

他のみんなも襲いに来てるはず。彼らの行動が不可解すぎるよ。

しかも、わたしたちのスピーダーも止められるなんて。

彼らにそんな技術的なテロ行為はできないはず――」


「なんだっていいよ!」


ハルトは、モニカさんの言葉をさえぎった。


「あそこには、ケントたちや他の子たちが残ってるんだ。

ぼくだけ先に逃がしてもらうなんて、あまりにもフコーヘイだよ!」


「うーん……でもハルトくん。

わたしたちがあそこに残って、できることなんてある?」


うっ。ハルトは言葉が詰まった。


「あのね、ハルトくん。わたしはオハコビ隊のサポーターだけど、

あくまでもオハコビ竜たちの活動の補助役。

竜たちがくり広げる激しい戦闘にかかわることなんて、できないの」


モニカさんはそっとふり返り、ゆっくりと噛んでふくむように言った。


「ハルトくんじゃ、なおさら危険だよ。

あなたは、オハコビ竜がいないと、この世界を移動することも……

もっといえば、元の世界に帰ることさえもできないでしょ?

今は、わたしがついているからスピーダーでターミナルに戻れるけれど」


モニカさんは、ハルトを不安にさせまいと、にっこり笑ってこう言った。


「フラップくん、というかオハコビ竜のみんなはね、

わたしたち人間の命が宝物のように見えているの。

だから、わたしたちが一人でも戻ったら、フラップくんはきっとてんてこまいだよ。

一番に最適なのは、フラップくんたちの力を信じて、

他の子たちを連れて帰ってくるのを待つことだよ」


「……それが、オハコビ竜への気づかい?」


「さっしがいいなあ、ハルトくんは。

でも、まあねえ、これだけの騒ぎになれば、

ターミナルの警備部隊も動いてくれるはずだし。

きっと心配いらないよ」


ハルトは、それ以上追求することはしなかった。

オハコビ竜たちの秘密がまた一つ分かって、少し誇らしかった。
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