隣の席のオッドアイギャルは俺の心の声が聞こえるらしい

夕凪けい

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第12話 推し爆誕。その瞳は俺の過去を肯定した

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「お手洗いっ!」
聖がパンを置いて勢いよく立ち上がる。

「俺も……ついて行こうか?」

「なっ、なんでよ!? ひとりで行けるもん!」

「そうよ。レディのトイレについて行こうだなんて……とんだ変態ね」

悪戯っぽい無表情で、安城がさらりと毒を吐く。

「もう、安城さんまで!? 僕は男だよ!!」

わかってる。聖は男じゃない、けど男だ。
いや、性別じゃない。そういうやつなんだ。だから俺はあえてツッコまない。

拗ねた背中を見送り――
気づけば教室には、俺と安城だけが取り残されていた。

静かな空気。どこか、春の風が通り抜けるような優しい静寂だった。

そしてその中で、安城はふと真剣な声で切り出す。

「ねえ、もう……バスケ、やらないの? 中学で相当頑張ってたって聞いたけど」

――まただ。
この胸の奥を刺すような痛み。忘れたはずの記憶が、また暴れ出す。

初対面に近い女の子に、こんな話をするなんて――正直、ちょっと躊躇った。

けど。

あのときの安城の言葉が、まるで心に真っ直ぐ差し込んできて。
あの眼差しを思い出すたび、胸の奥がざわつく。

……もしかしたら、彼女なら。
俺のこのどうしようもない過去も、笑わずに受け止めてくれるんじゃないかって、そんな淡い期待が、知らず知らずのうちに芽生えていた。

「……実はさ」

心臓が早鐘のように鳴る。語っていいのか、わからない。
でも俺は――語り出した。

「……好きな子がいたんだ」
「幼なじみで、すげぇ可愛くて、優しくて……俺、気づいたらずっと目で追っててさ」

「その子に見せたくて頑張ってたんだよ。
バスケ、毎日放課後まで残って、泥だらけになってさ……
“いつか振り向いてくれる”って――本気で、思ってたんだ」

苦い感情が、喉の奥にひっかかる。

「でも……勇気出して、告白したんだよ」
「ずっと想ってた。ずっと努力してきた。その全部を、言葉にした」

「……でも、振られた。“そんなつもりじゃなかった”って」

「しかもそのとき――」
「……その子、笑ってたんだ」

あの瞬間が、忘れられない。

「……何時間も、何日も迷ったんだ」
「寝る前も、授業中も、ずっと。何度も何度もシミュレーションして……それでも怖くて、言えなくて」

「それでも、やっと……震える手で、言葉にした」
「俺の全部を、たった一言に込めて――告白したんだ」

「……でも、笑われた気がした」

「本当は違ったのかもしれない。
ショックで記憶がねじ曲がったのかもしれない。
でも……俺には、そう見えたんだ」

「“そんなつもりじゃなかった”って、
俺の努力も、想いも、全部が独りよがりだったって――」

「……そう思わされた」

「しかも次の日には、その子……俺の親友と付き合ってた」
「笑うだろ? ドラマかよ、って。でもこれ、現実だったんだ」

「――それで、終わった」
「俺の青春も、努力も、夢も……全部、そこで止まった」

ふっ、と笑う。

「努力ってさ、結局……才能があるやつしか報われないんだなって。俺は“努力できる器”すらなかったんだよ。――卑屈だろ?」

そう言って笑った俺は、安城の顔を直視する勇気がなかった。
もし、彼女が少しでも笑っていたら――俺は、もう立ち直れなかったかもしれない。

……だけど、彼女は。

「……いいえ、笑わないわ」

その静かな声に、俺は目を見開いた。

彼女の瞳が、真っ直ぐに俺を見ていた。
澄んだ空のように、何ひとつ濁りのない目で――

その瞬間だった。

春の風が、窓からふわりと吹き込んでくる。
レースのカーテンが揺れて、桜の花びらが教室に舞い込んだ。

金色の髪がそよぎ、花びらとともに揺れる。

そして、安城恵梨香は――言葉を紡いだ。

「あなたが、その子のために努力してきたこと。それは、誇りに思っていいことよ」

「……!」

「……たとえ、報われなかったとしても」
「私は――あなたのことを、絶対に笑わない」

彼女の瞳は、まっすぐだった。
誰の目も気にしない、けれどちゃんと俺を見てくれている。
その光が、ほんの少しだけ心に刺さった。

「あなたが……覚悟を決めて、告白したこと」
「それは、とても尊いことよ」

「ほとんどの人はね、想ってるだけで終わるの。
気持ちを伝える前に、諦めちゃうの。
傷つくのが……怖いから」

「でもあなたは、それでも前に進んだ」
「震えながら、それでも言葉にした。
――そんなあなたが、かっこ悪いわけないじゃない」

その言葉に、心の奥で黒いモヤモヤした何かが――音を立てて、砕けた。そしてその隙間から温かい何かが流れてきた

「あなたの真っ直ぐな行動に、きっと勇気をもらった人もいるわ」

肩に、ひとひらの桜が舞い落ちる。
けれど彼女はそれに気づく様子もなく、まっすぐ俺を見つめていた。

オッドアイ――
瑠璃と琥珀の双つの光が、春の陽に照らされて、きらめいている。

その目は、どんな武器よりも強く、どんな剣よりも優しかった。

「卑屈なんかじゃないわ。あなたの"心"は、誰よりも真っ直ぐな人間よ」

その一言が――俺の心に温かく染み渡っていく。

胸の奥、ずっと冷たくなっていた場所に、春が来たみたいに。

(……こんなの、落ちないわけがない)

この瞬間、俺の心は決まっていた。

彼女が“推し”だって。
どんなアイドルより、どんなヒロインより――
この人が、俺の中で一番輝いてるって。
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