隣の席のオッドアイギャルは俺の心の声が聞こえるらしい

夕凪けい

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第40話 ぶりっ子教師が見せた素顔と、豚扱いされた俺

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そんな朝倉華恋に熱狂する信者たちを横目に、俺は思った。

(……お前らの気持ち、痛いほどわかるぞ。推しがいると灰色の世界が一気にピンクに染まるよな? 推し活ってやつは、人生を――いや、魂を変えるんだよ。よし……これを機にファンクラブでも立ち上げてみようか。“安城可愛い委員会”とか?)

もちろんその心の声は、隣にいた本家・安城恵梨香にもダダ漏れである。

安城(心の声)
(はぁ!? 何言ってるのこの男!? あと、その名前のセンス、終わってる却下よ!!却下!!)

安城は呆れたように軽くため息を吐くと、無言で掃除用具を手に取り、すたすたと体育館の隅へ向かっていった。

俺も椅子を片付けに体育倉庫へ向かおうと一歩踏み出したが――
ふと、とある妄想が頭をよぎった。

(……いや、待てよ。今ここで誰もいないと思われて体育倉庫の扉が閉められて……まさかの安城と二人きりっていうラブコメ展開になったりしないか?)

……なんて都合のいい展開、現実に起きるわけ――

安城(心の声)
(……体育倉庫には近づかない方がよさそうね。変なフラグ立ててるし)

もちろん彼女には全部聞こえている。

それでも俺たちは黙々と準備をこなし、夕焼けが差し込む頃には、保護者会の会場準備は無事完了していた。

俺は体育館を出ようとした、その時だった。

(あっ……やべ)

ポケットを探る手が止まる。あるはずの“ソレ”が、ない。

(……自転車の鍵、忘れた!?)

思い返す。さっき、体育倉庫の中でハンカチを取り出したとき……たぶんそのとき、無意識にポケットから落ちたんだ。

(くっそ、よりによってあの体育倉庫か……)

沈む夕日。誰もいない校舎。
そして、汗ばむ手のひらを握りしめて――

俺は、体育倉庫へと走り出した。

俺が体育倉庫へと駆け出した、その瞬間――
遠くからその様子を、ひとりの少女が見ていた。
体育館の裏手。
ほんの偶然、通りかかった窓からその姿を目にしたのは、**朝倉 華恋(あさくら かれん)**だった。

(……あれは、神田ゆういち?)

彼女の視線が無意識に追いかけたその背中。
夕暮れの光に照らされて、影は長く伸びていた。

その瞬間――
華恋の胸の奥に、“あの日の記憶”が、フラッシュバックする。

──数日前。
階段の踊り場で、バランスを崩したあの瞬間。
彼の腕に支えられ、抱きかかえられた、自分。

(――っ!)

赤面。
自分の顔が、信じられないくらい熱くなる。

(な、なんで……!)

完璧主義の仮面がひび割れたような感覚に、華恋はぎゅっと下唇を噛み締めた。

(……違う。あれは……“何かの間違い”よ。そうに決まってる。あんなの、ただの事故。偶然。錯覚。――でなきゃ、私じゃない!)

彼女は一歩、前へと足を踏み出した。

(よし……今からあいつに話しかけて、証明してやるんだから)

(――あんなの、ぜんっぜんトキめかなかったって!)

心の中で何度も繰り返す。これは実験。検証。感情なんて絡んでない。
ただの“勘違い”を自分の中で潰しておくだけ。

(どうせ、なにも感じないに決まってる。あいつなんて、有象無象のただの“豚”なんだから……)

自分で自分にそう言い聞かせる。
だがその目は、ゆういちが入っていった体育倉庫を、真っすぐに追っていた。

華恋の足が、静かに、しかし確かに動く。

――証明するために。
――トキめきなんて、なかったと否定するために。

夕焼けに染まる校舎で、二つの鼓動が交錯する予感が、静かに幕を上げようとしていた

「……あれ? どこだ、自転車の鍵は?」

夕暮れの体育倉庫に、俺――神田ゆういちの声だけが虚しく響いた。

「たまに自転車で通学したら、これだもんな……まったく、嫌になるぜ……」

俺は額の汗をぬぐいながら、暗がりの中を手探りで探していた。

そのときだった。

ギィ……と、わずかに扉が開く音。

(ん? 風か?)

そう思った矢先――その体育倉庫の入口から、誰かが忍び足で入り込む。

それは――朝倉 華恋だった。

(……気づいてないわね)

彼女はそっと息をひそめる。
今にも声をかけようとした、まさにその瞬間――

ガチャ。

「――えっ」

静かな倉庫に響いたのは、錠がかかる音。

(……いやな予感……!)

「ちょっと待って!!」

思わず声を上げた。

「誰かいるのか?」
俺が反応した。
その声を聞いた瞬間、華恋の心臓はバクンと跳ねた。

(ど、どうしよう……!)
(今さら「間違って入った」なんて言い訳、信じてもらえるはずないじゃない……!)

それでも、彼女は覚悟を決めた。

「……私よ、神田くん」

「あっ、先生!? どうしたんですか? こんなところで……」

――“あなたが気になって追いかけた”なんて、口が裂けても言えない。

「もうすぐ下校時間なのに、体育倉庫に入る君を見かけたから……ちょっと、注意しに来たのよ!」

だが、その声には、いつもの“ぶりっ子アイドル教師”のような甘さはなかった。

「ていうか、そんなことより――今、鍵が!」

「え、マジ!?」
俺は華恋のほうへと駆け寄ろうとした。

――その瞬間だった。

「うわっ――!?」

何かにつまずいた。
見えない何かに足を取られ、俺の体はバランスを崩し――

「きゃっ!?」

ドンッ!

俺の体は、華恋にそのまま突っ込む形で――
床に敷かれたマットの上へと、二人一緒に転倒した。

「いってて……なんだ今の……」

目を開けると、俺の下には――

「……せ、先生……?」

俺の腕の中には、華恋がいた。

四つん這いの状態で、完全に上に覆いかぶさってしまっている。

(ち、近い近い近い! なにこれ!? なにこの体勢!?)

華恋の顔は火が出そうなほど赤く染まり、目を逸らすこともできない。

その鼓動は、彼女自身も止められなかった。

(こ、こんなの……トキめくわけないって思ってたのに……!この私が!この世界で一番可愛い私が、こんな奴なんかに…認めないわ、男なんて…男なんて…)

そして次の瞬間――

――ズキン。

左目の奥が、ふいに熱を帯びたような感覚が走る。

「……なんだ? 今の……前にも似たような感覚があったような」

まるで何かが――無意識に、勝手に発動しているような……そんな感覚がした。
心の奥底から、彼女の**“本音”**が、零れ落ちる。

「男の子なんて……全員豚っちゃん!!」

「――え?ぶ、豚!?」

――体育倉庫の窓から差し込む月光が、
静かに、二人の姿を照らしていた。
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