隣の席のオッドアイギャルは俺の心の声が聞こえるらしい

夕凪けい

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第74話 先生、一緒に学校サボっちゃいませんか?

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歓声がステージに響き渡る。
私たち――**Honey Elaris(ハニー・エラリス)**は光に包まれて姿を現した。

「ああ……またこの夢か」

もう何度も繰り返してきた夢。
今では、夢の中にいることさえ自覚できてしまう。
それでも私は、この夢に干渉できない。
ただ再生される記憶を、観客のように眺めるしかない。
まるでこの悪夢こそが運命だと、誰かに言われているみたいに。

「早く……早く歌わなきゃ……」
心臓が激しく鳴る。頭の奥で、警報のような音がこだまする。

(もう嫌や……何回も、何回も同じ夢ば……)

そして――また、あの惨劇が始まった。
罵声。飛び交う物。割れるライト。崩れる音。
次の瞬間、私は息を荒げて目を覚ます。

「はぁ……はぁ……また、この夢かい……」
(博多弁で呟く声は、どこか掠れていた)

忘れたいのに、忘れられない。
一日に一度は必ず甦る。
ふとした音や光がトリガーになって、胸の奥から記憶が溢れ出す。
――もう、この運命から逃げられんと。そんな気がしてならん。

「早く準備して……学校行かんとね」

本当はズル休みしたかった。
けど、“教師”である私が休むわけにはいかない。

私は鏡の前で、ゆっくりと笑顔の仮面をかぶった。
社会人として、教師として――
あの日、ステージで壊れた“華恋”を隠すように。

重たい腰を上げ、私は朝の光の中へ歩き出し学校へと向かった。そして私は職員室で授業の準備を終え、教室へと向かう。

「英語のプリントは……ちゃんとあるわね?」

歩きながら確認していると、前方の廊下から何か叫び声が聞こえてきた。
それを耳にした瞬間、胸の奥で何かがふっと軽くなる。
まるで、長い夢の中に差し込んだ朝日のように――。

その声の主は、間違いなく"あの男"だった。

(……この声は――)

耳が、その主を覚えていた。

――そして、世界がゆっくりと別の景色に切り替わる。

「正解は……全部可愛いの、Eでしたぁぁぁあああ!!!」

叫びながら、俺は廊下を全力疾走していた。
(やべぇ……推しに嫌われた!! 何が“全部可愛い”だよ!? ちくしょう!!)

(よし、1時間目はサボろう! 授業終わったら荷物取って即帰宅だ! こんな“心の声ダダ漏れモード”で誰かと話したら不愉快にさせちまう! あの銀髪天才発明家め……ゆるせねぇ!!)

廊下を駆け抜けていると――

「あっ、すみません!」

誰かとぶつかりそうになって、慌てて立ち止まった。

(いくらこんな状態でも、人に怪我させたらダメだよな。反省しよう……)

振り返ると、そこに立っていたのは――朝倉華恋先生だった。

あの“スカート誤解事件”以来、ちょっと気まずい相手。
……だけど、その表情を見た瞬間、胸の奥がひやりとした。

彼女は、"ほんの一瞬"まるで何かに押し潰されそうなほど――苦しそうな顔をしていた。

「か、神田君……!?」

思わず声が漏れた。
朝の夢がまだ胸の奥に残っているせいか、目の前に“彼”が立っているだけで、心が重く沈んでいく。

「先生、なんかあったんですか? すごく……苦しそうですよ?」

彼の真っ直ぐな瞳が、心の奥を照らす。
その瞬間、私の中で何かの糸が緩んだ。

――完璧美人教師・朝倉華恋。
そう呼ばれてきた仮面が、音もなくズレていくのが自分でもわかった。

(恋って……本当に恐ろしいものね)

私は慌てて、崩れかけた“教師の顔”をかぶり直した。

「……なんにもないわよ。神田君、移動教室でしょ? 早く行きなさい」

「す、すいません! すぐ行きます!!」

彼が背を向ける。
その後ろ姿を見た瞬間――心の奥から声が零れた。

(ねぇ……行かないで。私を――助けてよ、神田君)

ズキン――。

頭の奥が、急に軋む。
まるで何かが壊れたように、激しい痛みが襲ってくる。

(あの時と……同じ……? なに、これ……)

視界が滲み、息が乱れる。
止めようとしても止まらない。
心の奥から溢れ出す“感情”が、暴走するように広がっていく。

――感情の共有化が始まった。

その瞬間、俺の中にも衝撃が走った。
胸が締めつけられ、息が詰まる。
まるで誰かの痛み、後悔、孤独、悲しみ――そんな全てが一気に流れ込んでくるような感覚。

(な、なんだこれ……!? 俺……苦しい……)

自分でも理解できない。
だけど確かに、今――
俺と彼女の“心”が、どこかで繋がっていた。

俺は直感的に悟った。
この胸の奥を締めつけるような感情は――彼女のものだと。

(どういう現象だよ?これ……)

けど最近の俺は本音が漏れるという奇妙な現象を経験してるため、これに関してもある程度理解できた。世の中は奇妙な現象に溢れかえってるようだ。

俺はふと目の前の朝倉先生を見ると驚くべきことに彼女はいつも通りの笑顔を浮かべていた。
その表情は、まるで何事もなかったかのように完璧で。

……だからこそ、違和感があった。

心の奥に届くのは、まるで“悲痛な叫び”のような痛み。
助けを求める声。血の匂いが混じったような黒い衝動。こんなに"いつも通り"の表情をしてるのに、こんな苦しんでる。

(俺の勘違いなのか?でも実際はなんともなさそうだし……)

――そう思って、背を向けようとしたその瞬間だった。

左目の奥が、スッと熱を帯びた。
瞳孔が、勝手に開いていく。

「……朝倉先生!」

気づけば、言葉が勝手に口を突いていた。

「俺と……一緒に学校サボっちゃいませんか?」

(は!?俺なんて言った今??友達に言うんじゃなくよりにもよって先生に!?)

一瞬、時間が止まったように感じた。
驚いたように目を見開く先生。
その奥に宿っていた暗い闇が、ほんのわずかに――光を取り戻した気がした。

まるで、曇り空の向こうから差し込む朝日のように。
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