隣の席のオッドアイギャルは俺の心の声が聞こえるらしい

夕凪けい

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第84話 嫉妬の視線と、白銀の出会い

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ゲームセンターの喧騒を後にし、俺は帰路についた。

 どこか懐かしさの残る空気の中、家にたどり着き、玄関の扉を開ける。靴を脱ぎながら、ふとさっきのことを思い出す。

(あの香水……愛理と同じ匂い……なんで蜂須賀からあの香りがしたんだ?)

 鼻をくすぐったのは、忘れもしない過去の記憶を呼び覚ます“あの匂い”。思い出すには十分すぎる刺激だった。

(懐かしい場所に行ったから、脳が勝手に錯覚でも起こしたのか……?)

 そうやって自分に言い聞かせようとしても、モヤモヤは晴れない。まるで、過去が「逃がさない」と囁いてくるように、日常の些細なきっかけが、容赦なく俺をあの苦しみへと連れ戻そうとする。

(……俺はいつまで、あいつに囚われたままなんだよ)

 そんな前に進めていない自分の未練さに嫌気がさし、苛立ち混じりの吐息が漏れそうになった、そのときだった。

 脳裏にふと浮かんだのは、安城恵梨香の凛とした横顔だった。

「私はあなたを笑わない……」

 金髪に揺れるオッドアイ、鋭い言葉の奥にある優しさ。どこか影を宿しながらも前を向こうとする姿。あの情けなかった俺をを思い出すだけで、少しだけ胸のざわつきが和らいでいく。

 彼女のその真っ直ぐな一言で俺のあの情けない過去に意味を見出せる事ができた。

(いや…ちょっとずつ、俺はちゃんと前に進めてるんだな……)

「やっぱ、推し活って偉大だな……今日安城にlimeでもしようかな……既読無視されそうだけど」

 誰にも聞かれないように、小さく呟く。

 言葉だけで、ここまで心が救われることがあるなんて──推しの力って、マジで侮れない。そんな想いを胸に、俺はリビングのドアを開けた。

「ただいま~。……さて、今日の晩飯は何かな?」

 思わず口角が緩む。姫花の料理は、ガチでうまい。和洋中なんでもござれのレパートリーに、毎日飽きることがない。

 ぶっちゃけ、俺の胃袋も心も、世界一あの妹に支えられている気がする。

(……ほんと、大事な存在だよな。俺の、世界一の妹……よし今日も沢山褒めてあげよう…)

 俺はねっとりとした笑みを浮かべ、ほんのり漂う夕飯の香りに包まれながら、リビングに入った瞬間――

「……ん?なんだこれ?」

 俺は、思わず目を疑った。

 食卓に並んでいたのは――
 白ごはんと、梅干しひとつ。
 それだけ。

「えっ……うそだろ? これ、冗談……だよな?」

 今まで生きた中で最も質素すぎる晩飯に、想像を盛大に裏切られ、俺の思考は一瞬で停止した。

「姫花? ど、どうしたんだ? 体調でも悪いのか?」

 普段はSNSにアップしてもいいくらいの見栄えと味の夕飯を作ってくれる妹が、まさかの“米+酸味の暴力”だけってどういうことだよ。

 すると、キッチンに立つ妹――姫花は、明らかにむすっとした顔で、ツンとした態度をとった。

「……別に。いつも通りだけど? 文句あるなら、食べなくていいよ?」

「いやいやいやいやいや! さすがにこれは“いつも通り”とは言えねぇだろ!?」

「ふーん……じゃあ文句あるなら――新しい妹さんにでも作ってもらえば?」

 ……え?

「……新しい妹? な、何の話だ?」

 言ってる意味がガチでわからない。てか誰? 新しい妹って。俺、義妹フラグなんか立てた覚えないぞ?

 「……まさかとは思うけどさ、もしかして隠し子がいて、新しい妹がこれからウチにくるのか……?いや、待て、まさかもう家にいるパターン?あのカーテンの向こうとか……」

カーテンの方向をチラッと見ながら、俺はごくりと唾を飲み込む。

「だとしたら……親父、再婚……?いやでも俺の妹は姫花だけなんだよな?
てか姫花より可愛い妹なんてこの世界に存在するか?するはずが――」

自分でもわけのわからない妄想をこじらせていると、

「……馬鹿じゃないの?もういい…」

姫花がスッと立ち上がった。頬がぷくっと膨れ、明らかに“むぅモード”。

「私、先に二階行くから」

(今更私の好感度あげようだなんて駄目なんだから……ふんっだ!ふん!ふん!)

ぷいっと俺に背中を向け、階段を上がっていく。
足取りは軽いのに、どこか怒りの熱を残して。

(……ん?なんで怒られた?俺なんかした??)

ぽつんと残された俺は、梅干し入り(俺の唯一の嫌いな食べ物)白米を前に呆然と固まるのであった。

 そう言って、姫花はぷいっと背を向け、スタスタと階段を上がっていった。

(なんだよ、マジで……どうしたんだ、あいつ……?)

 理由もわからないまま、俺は黙ってその食卓に着く。白ごはんと、ポツンと中央に鎮座する梅干し。ちなみに俺、梅干しは嫌いだから実質“白飯オンリー”である。

 …………。

(……うん、白飯。)

 妹の不機嫌という名の隠し味に胃をキリキリさせながら、俺は箸を置いた。

 これは、放っておくわけにはいかない――。

 夕飯の後、俺は2階へ上がり、姫花の部屋の前で立ち止まる。そして、そっとノックをした。

「姫花~? なあ、学校でなんかあったのか? お兄ちゃんに話してみ?」

 できる限り優しい声で、ドア越しに問いかける。

 ――沈黙。

(なんだよ……マジでどうしたんだ、あいつ……)

 けど、それでも俺は、ノックをもう一度だけ、優しく打った。それでも沈黙。

(……しょうがねぇ。一晩、時間をおいて明日改めて聞いてみよう)

 そう思いながら、俺は静かにドアから離れ、自分の部屋へと戻った。

【*姫花side*】

 兄がノックしたあと、私は布団を頭からかぶったまま、返事をしなかった。

 だけど、眠れるわけなんてなかった。時計を見れば、まだ夜の7時を少し過ぎたばかり。

 ……ダメだ、落ち着かない。

 私はそっと布団から起き上がり、小さくつぶやいた。

「……ちょっと、コンビニ行こう……」

 誰に聞かせるでもない小さな独り言。

(さすがに、あれだけじゃ足りないよね……。でも、にぃにが悪いんだからっ!!)

 裸足に近い心で歩く夜道。
 私はジャージにパーカーという、いかにも深夜テンションの装いでコンビニへ向かっていた。

(あんなに2人で楽しそうにしちゃってさ……)

 もやもやと渦巻く感情を抑えるように、私は甘いものを手に取った。

 シュークリーム、ケーキ、チョコにアイス。
 完全なる“やけ食い”ラインナップ。

(……また太っちゃうよ……)

 ブツブツ言いながらコンビニの袋を握りしめて帰路につく。
 そのときだった。

 ――ピピッ、ピピッ。

 信号は赤信号。

 だけど、ぼんやりしていた私は、気づかぬまま横断歩道に足を踏み出してしまった。

 その瞬間――

「――君っ! 危ないよっ!!」

 誰かの声が、脳内にビリビリ響いて、意識が現実に引き戻された。ハッとして足を止めると、車のライトがすぐ目の前を横切った。

「っ……あ、危な……もう少しで私……」

 その先を考えたくもない。私は震える手で胸を押さえる。こわかった。でも、それ以上に――

(……誰?)

 助けてくれた声の主を振り返る。

 するとそこにいたのは――
 銀髪のポニーテールに、左右で色の違う“オッドアイ”を持つ少女だった。制服姿なのに、どこか異国のような雰囲気。けれど人懐っこい笑みで、こちらに手を振っていた。

「やぁやぁ! 危なかったね? 怪我はないかい?」

 まるで絵本から飛び出してきたみたいな口調と明るいテンションで、彼女は近づいてくる。

「あっ……い、いえ! 助かりました。ありがとうございます!」

「いいのいいの。けがしてなきゃそれでよし♪」

 彼女はにこにこしながら、私の顔をじっと見た。なぜかその笑顔に温かみがあり、どこか懐かしい気持ちになる

(なんだろ……この気持ち?どこかで会った事あるのかな?それとも誰かに似てる……?)

なぜか不思議な感覚に陥りながらも、目の前の銀髪美少女はニコッとしながら話す。

「……で、どうしたの? 赤信号が見えなくなるほどって、よほど悩んでたみたいだね?」

 その言葉に、私は思わずドキッとした。
「どうしたんだい? よかったら私が話でも聞こうかい?」

優しく語りかける声に、ほんの少しだけ心が緩む。

 ……だけど。

 次の瞬間、彼女はまるで名探偵のようなテンションで饒舌に続けた。

「ちなみにッ! “男の子がどうしたの?悩み聞こうか?”って言ってくるのは、ほぼ100%、下心だから気をつけてねッ!!」

「え……?」

 思わずフリーズする私をよそに、彼女は満面の笑みでグイグイと畳みかけてくる。

「君、めっちゃ可愛いからさ~? これから先、今みたいにちょっとでも悩んでる感じ出したら……もうね、まるで聖人のように君を救いたそうに颯爽に男達は現れるんだよ!」

「でもそれ、悩みを聞くんじゃなくて――君を口説く隙を探してるだけ!つまりはね?」

 彼女は人差し指をピンと立て、真顔になった。

「“悩み相談に見せかけた、よからぬことをしようとする人間の仮面をかぶった性獣”だってことッ!!」

「……えぇぇぇぇぇぇ!?せ、せい?」

 私は思わずその場でひとつ深呼吸する。

 ……この人、多分だけど変わってる。
いや、普通とかそういう枠に収まりきらないタイプだ。

まるで自分だけの地図で生きているみたいに、
他人の評価なんか一ミリも気にしてなさそうで、
世界のルールより、自分のルールで呼吸してる――

そんな、**“独自の世界観を持つ人”**だった。

でも、なんでだろう──。

初対面のはずなのに、この銀髪少女だけは不思議と**「大丈夫」**って、そう思えた。

警戒心も、疑念も、どこかへ消えていく。

「……ほんと、不思議な人だな……」

理由なんてわからない。
けど――そんな風に思わせてしまう女の子だった。
これが、私と“天才発明家の少女”との出会いだった。
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