対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士 ~この恋は、世界のほころびを繕う~

Moonshine

文字の大きさ
6 / 87
辺境の土地・ディトマス第六要塞

「しっかし、本当にどこにでもある普通の要塞ですよね」

カイルがぶつぶつと、馬の上から第6要塞の感想を口にする。
辺境の地に20ある要塞のどれと比べても、第6は本当に特徴のない普通の要塞だ。

強いて言えば、要塞の隣にリンゴの木の林がある事くらい。
だが、要塞中をかこむように夾竹桃の美しくも毒々しい茂みで囲まれているような第3要塞と比べると、ここのリンゴの林など、特徴は無いといって過言でもないものだろう。

第3要塞の夾竹桃は、魔獣除けに2代前の要塞の責任者が植えたのが始まりだが、今や第3要塞の名物で、開花の時期は見事なピンク色で要塞は囲まれる。

街並みも普通。人々も普通。どこまで言っても灰色の要塞と、茶色い断崖。

「本当に、一体この普通の要塞で何の魔法を使ったら死傷者が1年もの間ゼロだなどという偉業が達成できたのか本当に不思議だな」

マティアスは己の馬の傍らを楽しそうに走ってゆく大勢の子供を目で追いながら、つぶやいた。
元気に駆け回っている子供達はみな身なりもよく、栄養状態も良さそうだ。
暗くなっても子供が元気で走り回っているという事は、この辺りの地域の治安は悪くないのだろう。

「聖女がこの地から出ていないとしたら、後はどこからかの加護ですね。土地に加護が授けられるほどの神殿の高官がお忍びでこの地を訪れたとか」

ユールが答えた。

「加護? 冗談いうな、そんな高等魔術を要塞一体に付与できる人間など、大陸でも数えるほどだ。エベリン王女ですら、土地への加護の付与はとても難しいとおっしゃっていたぞ」

エベリン王女はなお、現王家の姫君の中で一番の光魔法の才を誇ると言われている。

「エベリン王女ですら土地への加護の付与が難しいとなれば、折角輿入れしていただいても、この辺境での魔獣の被害が全て消える事はない、という事ですね」

カイルがため息をついた。

「ああ。だが、少しでも被害が少なくなるのであれば、何としてでもこの地に輿入れしていただきたいし、他にもどんな方法でも被害を少なくする事ができる方法があれば、何でも知りたい。だからこそ今、私はこうしている。ちがうか」

マティアスは続けた。

「今、この砦の決算書を隈なく分析するよう指示を出している。決算書からの金の動きと、現場からの報告書、それから現場で実地調査を行えば、この砦の偉業の秘密が明らかになる。俺はもう、誰も失いたくないんだ」

そう言ってマティアスは、付け髭を触って、眼下に広がる魔の森を見た。

マティアスが要塞の防衛の責任者になる前から、魔の森から発生する魔獣の数は毎年少しずつ増えていた。近年はその増加の勢いが増しており、収まる様子はみられない。

魔獣が襲ってくる度に、マティアスは辺境を警備する大勢の大切な仲間を黄泉の彼方に見送ってきたのだ。

マティアスも事態をただ手をこまねいて眺めているだけではない。
近年の魔の森での魔獣増加の謎を探るために、辺境魔法軍と学者達で編成した調査団の一団も魔の森に送り出して調査を重ねている。
第一陣の報告では、魔の森の奥では瘴気の濃度が看過できないほど濃くなっているとの報告を受けた。

こちらの原因も不明だ。

今、馬上で第6要塞まで揺られているマティアス以下、ユールもそしてカイルも、みな、顔を覆う深いあごヒゲで顔を埋めた、北の隣国からの傭兵の恰好をして馬で移動している。

この第6要塞の成し遂げた偉業の謎を知るために、3人は式典後に中央から派遣された雇われ兵の振りをして、第6要塞の騎士として派遣された体で忍び込んだのだ。

第6の隊長ダンダップには、辺境伯家の文官から、戦力補強として第6に3人の下級騎士を派遣したと、通達した。
式典の後に中央から戦力補充の新兵が派遣される事はよくある事で、不自然はない。

おおよそマティアスの住む館のある第1要塞から、馬で3日の距離にある第6要塞にたどり着いたのは、日もとっぷり暮れてからだった。

感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。