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辺境の土地・ディトマス第六要塞
6
「しっかし、本当にどこにでもある普通の要塞ですよね」
カイルがぶつぶつと、馬の上から第6要塞の感想を口にする。
辺境の地に20ある要塞のどれと比べても、第6は本当に特徴のない普通の要塞だ。
強いて言えば、要塞の隣にリンゴの木の林がある事くらい。
だが、要塞中をかこむように夾竹桃の美しくも毒々しい茂みで囲まれているような第3要塞と比べると、ここのリンゴの林など、特徴は無いといって過言でもないものだろう。
第3要塞の夾竹桃は、魔獣除けに2代前の要塞の責任者が植えたのが始まりだが、今や第3要塞の名物で、開花の時期は見事なピンク色で要塞は囲まれる。
街並みも普通。人々も普通。どこまで言っても灰色の要塞と、茶色い断崖。
「本当に、一体この普通の要塞で何の魔法を使ったら死傷者が1年もの間ゼロだなどという偉業が達成できたのか本当に不思議だな」
マティアスは己の馬の傍らを楽しそうに走ってゆく大勢の子供を目で追いながら、つぶやいた。
元気に駆け回っている子供達はみな身なりもよく、栄養状態も良さそうだ。
暗くなっても子供が元気で走り回っているという事は、この辺りの地域の治安は悪くないのだろう。
「聖女がこの地から出ていないとしたら、後はどこからかの加護ですね。土地に加護が授けられるほどの神殿の高官がお忍びでこの地を訪れたとか」
ユールが答えた。
「加護? 冗談いうな、そんな高等魔術を要塞一体に付与できる人間など、大陸でも数えるほどだ。エベリン王女ですら、土地への加護の付与はとても難しいとおっしゃっていたぞ」
エベリン王女はなお、現王家の姫君の中で一番の光魔法の才を誇ると言われている。
「エベリン王女ですら土地への加護の付与が難しいとなれば、折角輿入れしていただいても、この辺境での魔獣の被害が全て消える事はない、という事ですね」
カイルがため息をついた。
「ああ。だが、少しでも被害が少なくなるのであれば、何としてでもこの地に輿入れしていただきたいし、他にもどんな方法でも被害を少なくする事ができる方法があれば、何でも知りたい。だからこそ今、私はこうしている。ちがうか」
マティアスは続けた。
「今、この砦の決算書を隈なく分析するよう指示を出している。決算書からの金の動きと、現場からの報告書、それから現場で実地調査を行えば、この砦の偉業の秘密が明らかになる。俺はもう、誰も失いたくないんだ」
そう言ってマティアスは、付け髭を触って、眼下に広がる魔の森を見た。
マティアスが要塞の防衛の責任者になる前から、魔の森から発生する魔獣の数は毎年少しずつ増えていた。近年はその増加の勢いが増しており、収まる様子はみられない。
魔獣が襲ってくる度に、マティアスは辺境を警備する大勢の大切な仲間を黄泉の彼方に見送ってきたのだ。
マティアスも事態をただ手をこまねいて眺めているだけではない。
近年の魔の森での魔獣増加の謎を探るために、辺境魔法軍と学者達で編成した調査団の一団も魔の森に送り出して調査を重ねている。
第一陣の報告では、魔の森の奥では瘴気の濃度が看過できないほど濃くなっているとの報告を受けた。
こちらの原因も不明だ。
今、馬上で第6要塞まで揺られているマティアス以下、ユールもそしてカイルも、みな、顔を覆う深いあごヒゲで顔を埋めた、北の隣国からの傭兵の恰好をして馬で移動している。
この第6要塞の成し遂げた偉業の謎を知るために、3人は式典後に中央から派遣された雇われ兵の振りをして、第6要塞の騎士として派遣された体で忍び込んだのだ。
第6の隊長ダンダップには、辺境伯家の文官から、戦力補強として第6に3人の下級騎士を派遣したと、通達した。
式典の後に中央から戦力補充の新兵が派遣される事はよくある事で、不自然はない。
おおよそマティアスの住む館のある第1要塞から、馬で3日の距離にある第6要塞にたどり着いたのは、日もとっぷり暮れてからだった。
カイルがぶつぶつと、馬の上から第6要塞の感想を口にする。
辺境の地に20ある要塞のどれと比べても、第6は本当に特徴のない普通の要塞だ。
強いて言えば、要塞の隣にリンゴの木の林がある事くらい。
だが、要塞中をかこむように夾竹桃の美しくも毒々しい茂みで囲まれているような第3要塞と比べると、ここのリンゴの林など、特徴は無いといって過言でもないものだろう。
第3要塞の夾竹桃は、魔獣除けに2代前の要塞の責任者が植えたのが始まりだが、今や第3要塞の名物で、開花の時期は見事なピンク色で要塞は囲まれる。
街並みも普通。人々も普通。どこまで言っても灰色の要塞と、茶色い断崖。
「本当に、一体この普通の要塞で何の魔法を使ったら死傷者が1年もの間ゼロだなどという偉業が達成できたのか本当に不思議だな」
マティアスは己の馬の傍らを楽しそうに走ってゆく大勢の子供を目で追いながら、つぶやいた。
元気に駆け回っている子供達はみな身なりもよく、栄養状態も良さそうだ。
暗くなっても子供が元気で走り回っているという事は、この辺りの地域の治安は悪くないのだろう。
「聖女がこの地から出ていないとしたら、後はどこからかの加護ですね。土地に加護が授けられるほどの神殿の高官がお忍びでこの地を訪れたとか」
ユールが答えた。
「加護? 冗談いうな、そんな高等魔術を要塞一体に付与できる人間など、大陸でも数えるほどだ。エベリン王女ですら、土地への加護の付与はとても難しいとおっしゃっていたぞ」
エベリン王女はなお、現王家の姫君の中で一番の光魔法の才を誇ると言われている。
「エベリン王女ですら土地への加護の付与が難しいとなれば、折角輿入れしていただいても、この辺境での魔獣の被害が全て消える事はない、という事ですね」
カイルがため息をついた。
「ああ。だが、少しでも被害が少なくなるのであれば、何としてでもこの地に輿入れしていただきたいし、他にもどんな方法でも被害を少なくする事ができる方法があれば、何でも知りたい。だからこそ今、私はこうしている。ちがうか」
マティアスは続けた。
「今、この砦の決算書を隈なく分析するよう指示を出している。決算書からの金の動きと、現場からの報告書、それから現場で実地調査を行えば、この砦の偉業の秘密が明らかになる。俺はもう、誰も失いたくないんだ」
そう言ってマティアスは、付け髭を触って、眼下に広がる魔の森を見た。
マティアスが要塞の防衛の責任者になる前から、魔の森から発生する魔獣の数は毎年少しずつ増えていた。近年はその増加の勢いが増しており、収まる様子はみられない。
魔獣が襲ってくる度に、マティアスは辺境を警備する大勢の大切な仲間を黄泉の彼方に見送ってきたのだ。
マティアスも事態をただ手をこまねいて眺めているだけではない。
近年の魔の森での魔獣増加の謎を探るために、辺境魔法軍と学者達で編成した調査団の一団も魔の森に送り出して調査を重ねている。
第一陣の報告では、魔の森の奥では瘴気の濃度が看過できないほど濃くなっているとの報告を受けた。
こちらの原因も不明だ。
今、馬上で第6要塞まで揺られているマティアス以下、ユールもそしてカイルも、みな、顔を覆う深いあごヒゲで顔を埋めた、北の隣国からの傭兵の恰好をして馬で移動している。
この第6要塞の成し遂げた偉業の謎を知るために、3人は式典後に中央から派遣された雇われ兵の振りをして、第6要塞の騎士として派遣された体で忍び込んだのだ。
第6の隊長ダンダップには、辺境伯家の文官から、戦力補強として第6に3人の下級騎士を派遣したと、通達した。
式典の後に中央から戦力補充の新兵が派遣される事はよくある事で、不自然はない。
おおよそマティアスの住む館のある第1要塞から、馬で3日の距離にある第6要塞にたどり着いたのは、日もとっぷり暮れてからだった。
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