異世界占い師・ミシェルのよもやま話

Moonshine

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これが噂の異世界転移か

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トラックの光が未知得とおばあさんをギラギラと照らして、未知得はおばあさんを抱き抱えて、近くの道路に放り投げた、その瞬間、ぐきっと、ハイヒールの折れる音。

(あ、まにあわんわ、これ)

未知得は、親戚のおばさんが、いつも未知得にいっていた言葉が、頭を掠める。

「みちちゃん、何か行動する前には、少し考えなさい」

ありがたくも鬱陶しい、常識が服をきたようなおばさんの顔を思い出す。
きちんと短大を卒業したあとに、きちんと見合いして、きちんと公務員の旦那をつかまえて、きちんと男女の子供2人産んで、きちんと姑と同居して、きちんと親を無くした姉の子供の未知得までひきとって、田舎にふさわしい子供としてよく教育した、何もかも正しい、おばさん。

(今までありがとうおばさん、でも私、あなたみたいには、なれないわ)

そこで未知得は、おおきなクラクションと、迫り来る鉄の塊に、身をまかせた。

あたりがぐわん、ぐわんと歪み出す。ひどい二日酔いの気分だ。未知得は、めまいが落ち着くのをなんとか待つと、重い頭をあげた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(なんだ・・これ)

(たしか、信号で立ち往生してたおばあちゃんを助けてたら、ハイヒールが折れて、トラックから逃げそびれてたはずだよね・・)

足を挫いたらしい。ずきずきといたむ足首の先には、ヒールがプラプラしている赤いヒールがあった。
夢をみていた訳ではないらしい。

ぐらぐらする頭を起こしてあたりを見ると、なにやら石の床に、直接座っている様子。

未知得は、痛みをこらえてあたりを見渡して、心臓が止まりそうなほど、おどろいた。

そこには、見知らぬ、この世の生き物とは思われないほどの美貌の男が、絶望を隠さない顔をして、未知をみおろしていたのだ。

銀色の少しうねりのある、もつれた長髪。アメジストのような紫の瞳。
疲労の極みなのだろう、瞳の奥は精彩を欠いて、肌は未知得が、アメリカ出張から帰ってきた次の日にシンガポール出張に飛ばされた後の飛行機の上のような肌の乾きっぷりだが、漂う疲労感すらも、非常に色っぽい。

20代の後半くらいだろうか、あまりに整いすぎて、現実の生き物として、目の前の男を脳が認識しない。

(あ、やった、めっちゃイケメン見つけた)

未知得のあまり高性能ではない頭は、ぼんやりとぐらぐらと重い頭を起こして、だが何が起こったかを考えるまえに、ほぼ反射神経でそんなことを考えていた。

なにせ未知得は面食いだ。

男はとりあえず顔が良ければ反射的に付き合うので、今の所未知得の恋愛遍歴は、良好とはいえない。
言い寄ってくる男たちの中身を取り合えず見てみようとも思うのだが、美しい顔の男がいると、いけないと分かっていながらも、ふらふらいってしまうのが未知得の悪い癖なのだ。
おばさんあたりが未知得の歴代彼氏を見たら、卒倒するようなセレクションだ。


「失敗だ・・」

え?

いたむ頭を抱えて入るが、ほぼ脊髄反射的に見知らぬのイケメンに対し、それなりの笑顔を作って見せた未知得に、イケメンは吐き捨てるように、そう言った。

「ちがう!このような醜い生き物がベアトリーチェのはずがあるか!」

良く見ると、火花でもちったのか、あちこちから煙のでている、焼け跡のあるマントを纏ったイケメンは、口角に泡を飛ばして未知得を指差して、近くの若い子に怒鳴り声をあげている。

「ああ、ベアトリーチェ様では、ない、ようですね・・」

ちらちらとこちらを見遣りながら、若い男は、この激昂しているイケメンを宥めすかしている。

ていうか。ちょとまて。

「ちょ・・ちょっと、だれが醜い生き物だって??」

未知得は出たがりな性格で、自称クラスの上から三番目くらいには、整った顔をしている上に、自治体やらのミスコンに自らエントリーするくらいには図々しい性格でもある。(なお、大学のミスコンにも出たのだが、五位に入賞という絶妙にどうでもいい結果だったあたりが未知得なのだが)

頭が痛くて吐きそうだし、フラフラするし、足はズキズキするし、ここが何処かすらわからないけど、未知得は持ち前の「考えないで行動する」を発揮してしまった。
一応未知得はクラスで三番目くらいには可愛い自負があるのだ。聞き捨てならない。

ゆっくりと立ち上がった未知得に、名も知らぬマントのイケメンは、氷の様に冷たい目をむけた。

「お前だ!こんな醜い生き物を召喚するために私はこの歳月を捧げたのではない!なぜお前はベアトリーチェではない!ベアトリーチェを何処へやった、ああ、ベアトリーチェ!」

激昂のあげく、いきなりイケメンは未知得の胸ぐらをつかんでそう言い捨てると、今度は石造りの地面に倒れ込んで、大いに嗚咽しはじめた。

「ダンテ様、ダンテ様、そうですね、失敗でしたね、少しおちつきましょう」

ズルズルとこのイケメンのローブをひっぱって、若い男は何か言いたげな、申し訳なさそうな顔を未知得にみせながら、扉の向こうに退場していった。


「はああ?? 何あいつ!!」

未知得は、そうやって、たった一人知らない部屋に、残されたのだ。一体何が、おこっている。

まだふらふらする上に、あまり皺の多いとはいえない未知得の脳みそは、それでもフル回転で考えてみた。

(一体何なの、何が起こっているのかしら・・確かおばあさんを庇って、トラックに轢かれるところだったはずだ。だというのに、なんで知らないイケメンに醜い扱いされて、一人でこんなところにいるのだろう・・)

ぐるりと周りをみわたしてみる。

どうやら地下室かなにかなのだろう。石造の部屋はなんとなく湿っぽくて、壁には電灯ではなく、ガラスでできた、細工の細かいランプのような照明具。おしゃれだ。さっきイケメンがでていった扉は、鉄と、古い松の木材でつくられた、まるで映画のセットのよう。

部屋はそう広くない。扉と同じように古い松の木らしい木材でできている、あらっぽい作りの本棚と、ピクニックテーブルのような、大きなテーブルが部屋の片隅においてある。テーブルの上には、夕食の前だったのだろうか、実にうまそうな食事が用意されていた。

未知得は、折れたハイヒールを片手に、とりあえず、痛む足をひきずって、椅子に腰掛ける事にした。

本棚には、外国語らしき重厚な作りの本がぎっしり。
今は頭も足首も痛くて、本など手にとる気にもならないが、あとでみせてもらおう。とても綺麗だ。

おそらくここは、誰か外国人の家で、トラックに轢かれた様子がみられないという事は、多分、なんらかの形で保護されているのだろう。と思う。

(飲み物でも飲んで、おちついてみよ)

未知得は、大きく息を吸うと、テーブルの上に載っていた、金属製のワイングラスに手をのばした。

知らない人の家で、勝手に飲食するなどさすがに失礼だとはおもったが、何せ喉が乾カラカラなのだ。
ちょっと飲み物でものんで、落ち着いてから、ここの家主らしき男が帰ってくるのをまとう。そう思ったのだ。

未知得は中身も確認せずに、ぐびぐびとグラスを空ける。
中身はワインだった。

そういえばお腹も空いていた。晩御飯まだだった。

(もう人様の家の飲み物勝手に飲んじゃったし、今更よね)

テーブルには、こってりとした肉料理、紫色や、黄色など、あまり見ない綺麗な色のゼリーや、緑色の冷たいスープ、窯出しのパンもある。未知得のお腹の虫がなる。

(流石にまだ頭が痛いし、肉は遠慮しとこかな・・あ、これなんか丁度いいかも。なんだろう、柘榴?かな?)

テーブルに載っていた、フルーツボウルには鮮やかな色の赤い実があった。
おそらくヨーグルトのパッケージに描いていたものと同じにみえるから、柘榴だと思われる。こんな洒落たもの、近所のスーパーには売っていないので、おそらくここはどこかの高級住宅地なのだろう。

プチプチした実を取り出して、未知得は少し食べながら、非常に不愉快なイケメンの事を、思い出していた。





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