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LGBTは親の罪なわけねえだろ
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ミシェルの目に飛び込んできたのは、この女が身をもだえるように苦しんでいる姿。
黒い道に、体を投げだして、苦しみ嘆いている。
内臓を捻って、血を吐いて、道に体を引きずって、空を仰いでいる。
(え、息子さんは幸せだし、なんでこんなに苦しんでるの?)
黒い道に体を投げうって、痛みに悶絶して苦しみもがいている、この優雅な女の映像に、心を合わせてみる。
声がきこえた。
(一体、私がどんな罪を犯して、この子を望む体に産んであげられなかったのだろう)
そして、映像が切りかわる。
心と合わない体に苦しむ、彼女の、女の子の姿をした息子に、心を痛めている女の姿。
心と体が合わない息子の事を受け入れられない、愛する夫の姿。
自分の体の事で、父親と断絶した、息子、子供が受け入れられず、大切な子供一人失った、父。
魔女の魔法は、大変な苦痛を伴う。肉体改造、それも性別を変更するものなら、いわずもがな。
そんな魔法を受けに、たった一人で魔女の元を訪れて、痛みで転がりながら、家に帰ってきた息子。
この決断に、息子は母を頼る事はなかった。
何週間も、部屋で一人で苦痛に耐えて、涙を流し、食べたものを痛みで吐きだし、もんどりを打つ息子の横で、ただただ何もできずに泣くしかない女の姿。
そしてまた、強い女の心の声がひびく。
(なぜ、私はこの子をこんなに苦しませる体に、産んでしまったのだろう)
(私は、どんな罪を犯して、この子を苦しませているのだろう)
女は悲しみに身をもだえ、苦しみ、そして砂の影になって、黒い道の中に消えていった。
ミシェルは、はっと、正気にもどって、目の前の女を見る。
優雅な仕草で女は佇んでいる。美しい人だ。
その心の中に、こんな嵐のような、大きな苦しみが、あったなんて。
そしてこの苦しみは、利己的な苦しみではない。
ただただ、息子の痛みを思っての、不純物の一切ない、苦しみだ。
(黒い、水晶のようだわ)
ミシェルは、その痛みの美しさに、涙をおさえられない。
「・・あなた、自分のせいで、息子さんが女の体で生まれた、そう思っているのね」
優雅な仕草で、でも女は、震える声を抑えて、ミシェルに答えた。
「・・ええ、こんな不必要な苦しみを息子に与えてしまったのは、私が何か、罪を犯したからに違いありません。先生、だから私は、あんな体に息子を産んでしまった。先生、私はなんと、罪深い母なのか、そればかり、そればかり毎日思い、苦しんでおります。私さえ、息子の望む性別に産んであげていれば、息子はこんなに、苦しまずにすんだのに」
女はそう、魂の奥から絞り出すように、声を出すと、音もなく、ほたほたと、涙をその拳に落とした。
ミシェルは、おもわず立ち上がった。
そして、自分でもおさえられない衝動と怒りに、拳を握って、叫んだ。
「そんなわけ、あるかーーー!!!!!!」
黒い道に、体を投げだして、苦しみ嘆いている。
内臓を捻って、血を吐いて、道に体を引きずって、空を仰いでいる。
(え、息子さんは幸せだし、なんでこんなに苦しんでるの?)
黒い道に体を投げうって、痛みに悶絶して苦しみもがいている、この優雅な女の映像に、心を合わせてみる。
声がきこえた。
(一体、私がどんな罪を犯して、この子を望む体に産んであげられなかったのだろう)
そして、映像が切りかわる。
心と合わない体に苦しむ、彼女の、女の子の姿をした息子に、心を痛めている女の姿。
心と体が合わない息子の事を受け入れられない、愛する夫の姿。
自分の体の事で、父親と断絶した、息子、子供が受け入れられず、大切な子供一人失った、父。
魔女の魔法は、大変な苦痛を伴う。肉体改造、それも性別を変更するものなら、いわずもがな。
そんな魔法を受けに、たった一人で魔女の元を訪れて、痛みで転がりながら、家に帰ってきた息子。
この決断に、息子は母を頼る事はなかった。
何週間も、部屋で一人で苦痛に耐えて、涙を流し、食べたものを痛みで吐きだし、もんどりを打つ息子の横で、ただただ何もできずに泣くしかない女の姿。
そしてまた、強い女の心の声がひびく。
(なぜ、私はこの子をこんなに苦しませる体に、産んでしまったのだろう)
(私は、どんな罪を犯して、この子を苦しませているのだろう)
女は悲しみに身をもだえ、苦しみ、そして砂の影になって、黒い道の中に消えていった。
ミシェルは、はっと、正気にもどって、目の前の女を見る。
優雅な仕草で女は佇んでいる。美しい人だ。
その心の中に、こんな嵐のような、大きな苦しみが、あったなんて。
そしてこの苦しみは、利己的な苦しみではない。
ただただ、息子の痛みを思っての、不純物の一切ない、苦しみだ。
(黒い、水晶のようだわ)
ミシェルは、その痛みの美しさに、涙をおさえられない。
「・・あなた、自分のせいで、息子さんが女の体で生まれた、そう思っているのね」
優雅な仕草で、でも女は、震える声を抑えて、ミシェルに答えた。
「・・ええ、こんな不必要な苦しみを息子に与えてしまったのは、私が何か、罪を犯したからに違いありません。先生、だから私は、あんな体に息子を産んでしまった。先生、私はなんと、罪深い母なのか、そればかり、そればかり毎日思い、苦しんでおります。私さえ、息子の望む性別に産んであげていれば、息子はこんなに、苦しまずにすんだのに」
女はそう、魂の奥から絞り出すように、声を出すと、音もなく、ほたほたと、涙をその拳に落とした。
ミシェルは、おもわず立ち上がった。
そして、自分でもおさえられない衝動と怒りに、拳を握って、叫んだ。
「そんなわけ、あるかーーー!!!!!!」
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