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パワハラ男には、言い分があるのだそうだ
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(ぎええええ!こわい!こわいダンテ!)
(おちつけミシェル、俺もこわい!あいつあんな奴だったのか!)
(あんた古い知り合いなんでしょ、なんで知らないのよ!)
(俺もこんなやばい事になってるなんか、知らんかった!おいカロン、入ってくるな!やばいぞこいつ!)
カロンの姿をサンルームの扉の外に認めたダンテは、何か表情をつくって、カロンをそのまま追い返す。
察しの良いカロンはそのままコクコクと頷くと、そっと占いグッズを部屋の片隅に置いて、そのままくるりと、踵を返してどっかいってしまった。本当に賢い子だ。
対外的には、静かな空間で、外には小鳥のさえずりが聞こえ、サンルームに和やかな光がこぼれる、そんな午前。
しかしミシェルとダンテは、二人して恐怖のどん底。
涼しい顔をしているが、ダンテとミシェルは、テーブルの下でお互いの手を握り合って、豹変したイケメン・セイの狂気の恐怖に耐えている。
ミシェルの目の前には、般若と化したイケメン。
下手に顔の作りが完璧なだけに、醜い般若の表情は、迫力、そのものだ。狂人だ。やばい。
ミシェルは平静を保っている振りをして、こほん、と咳を払うと、できるだけニュートラルな笑顔を浮かべて、話をうながした。
「お父様を恨んでいるのですね。少し訳を伺っても? 随分と長い間、苦しまれている様子ですね」
恨みの歴史が古いのだ。古い恨みのエネルギーだけでなく、最近になって反芻したのだろう、新しいエネルギーも加わって、非常に重量の感じる、不愉快なエネルギーの層が見える。
かなり重症だ。
そこで、ダンテが少し考えてから、ある疑問を口にした。
「おい、セイ、お前のお父上は、3年ほど前に亡くなっただろう。お前の妹君から葬式の案内を頂いて、なぜ息子のお前からではないのかと不思議に思ったが、お前は従軍中だったと聞いて、納得していた。あの従軍は、希望しての事なのか?」
この国は穏やかな国ではあるが、国境地帯は時々異教徒からの侵略があるという。
重大な犯罪を犯すと、みなこの国境地帯の辺境の地に送られて、要塞を作る強制労働に従事させられる。つまりは、かなり危険な地域だ。
般若のごとき表情をうかべていたセイは、絶望したような、そして馬鹿にしたような歪んだせせら笑いの笑顔を浮かべて、言った。
「ああ、そうさ。あいつは最後の最後まで、俺を苦しめた。あいつの葬式を俺の名前で出して、魂の安寧を祈る振りなどしてるくらいなら、辺境で異教徒相手に戦っているさ」
随分と恨みは深い様子だ。苦悶の表情を浮かべるセイは、苦しみの最中に、未だ生きている。
(あれ・・?)
そして、重要な事にミシェルは気がついた。
「あなたのお父様、亡くなっているのに、なぜあなたはそんなにも、重く深い恨みを、現在進行形で抱えて生きておられるの?」
ミシェルは理解ができなかった。
この男の恨みの根源である、父親はもう亡くなっているというではないか。
なぜこの男は、恨みから解放されていない?
振り上げた拳を下す先は、もう存在しないではないか。
なぜ恨みの心を、現在進行形で持ち続けるのだろう。
(おちつけミシェル、俺もこわい!あいつあんな奴だったのか!)
(あんた古い知り合いなんでしょ、なんで知らないのよ!)
(俺もこんなやばい事になってるなんか、知らんかった!おいカロン、入ってくるな!やばいぞこいつ!)
カロンの姿をサンルームの扉の外に認めたダンテは、何か表情をつくって、カロンをそのまま追い返す。
察しの良いカロンはそのままコクコクと頷くと、そっと占いグッズを部屋の片隅に置いて、そのままくるりと、踵を返してどっかいってしまった。本当に賢い子だ。
対外的には、静かな空間で、外には小鳥のさえずりが聞こえ、サンルームに和やかな光がこぼれる、そんな午前。
しかしミシェルとダンテは、二人して恐怖のどん底。
涼しい顔をしているが、ダンテとミシェルは、テーブルの下でお互いの手を握り合って、豹変したイケメン・セイの狂気の恐怖に耐えている。
ミシェルの目の前には、般若と化したイケメン。
下手に顔の作りが完璧なだけに、醜い般若の表情は、迫力、そのものだ。狂人だ。やばい。
ミシェルは平静を保っている振りをして、こほん、と咳を払うと、できるだけニュートラルな笑顔を浮かべて、話をうながした。
「お父様を恨んでいるのですね。少し訳を伺っても? 随分と長い間、苦しまれている様子ですね」
恨みの歴史が古いのだ。古い恨みのエネルギーだけでなく、最近になって反芻したのだろう、新しいエネルギーも加わって、非常に重量の感じる、不愉快なエネルギーの層が見える。
かなり重症だ。
そこで、ダンテが少し考えてから、ある疑問を口にした。
「おい、セイ、お前のお父上は、3年ほど前に亡くなっただろう。お前の妹君から葬式の案内を頂いて、なぜ息子のお前からではないのかと不思議に思ったが、お前は従軍中だったと聞いて、納得していた。あの従軍は、希望しての事なのか?」
この国は穏やかな国ではあるが、国境地帯は時々異教徒からの侵略があるという。
重大な犯罪を犯すと、みなこの国境地帯の辺境の地に送られて、要塞を作る強制労働に従事させられる。つまりは、かなり危険な地域だ。
般若のごとき表情をうかべていたセイは、絶望したような、そして馬鹿にしたような歪んだせせら笑いの笑顔を浮かべて、言った。
「ああ、そうさ。あいつは最後の最後まで、俺を苦しめた。あいつの葬式を俺の名前で出して、魂の安寧を祈る振りなどしてるくらいなら、辺境で異教徒相手に戦っているさ」
随分と恨みは深い様子だ。苦悶の表情を浮かべるセイは、苦しみの最中に、未だ生きている。
(あれ・・?)
そして、重要な事にミシェルは気がついた。
「あなたのお父様、亡くなっているのに、なぜあなたはそんなにも、重く深い恨みを、現在進行形で抱えて生きておられるの?」
ミシェルは理解ができなかった。
この男の恨みの根源である、父親はもう亡くなっているというではないか。
なぜこの男は、恨みから解放されていない?
振り上げた拳を下す先は、もう存在しないではないか。
なぜ恨みの心を、現在進行形で持ち続けるのだろう。
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