異世界占い師・ミシェルのよもやま話

Moonshine

文字の大きさ
81 / 113
創造するって事は

しおりを挟む
乗合馬車には、大勢の老若男女がひしめいていた。
皆薄着の白い服を着ており、寒い寒いといいながらも実に楽しげだ。

「おやお嬢さんは初めてなのか?」

乗合馬車は、20人くらい乗りの幌馬車に各自勝手に乗り込むだけの簡素な作りだ。
適当にミシェルもたくさん並ぶ馬車の一つに乗り込んで、隣に乗り合わせたおばあさんとちょっと世間話を楽しんでいた。

おばあさんによるとこのイベントはなんと参加は人気につき抽選で、今回おばあさんは4年ぶりに当選して、いい年の始まりだわ、ありがたいと喜んでいた。
冬の海なんかに飛び込むなんぞ絶対いやだとダンテにミシェルはごねていたと言うのに、人によっちゃ価値観は様々だ。

もひとつ横にいたおじさんによると、この儀式を終えた後は金運だのなんだのがグッと上がるらしい。

「今年は次代の大神官様の成人の祝福があるだろう、聖女様から大きな祝福があるはずだから今年は倍率がいつもの倍だったというぜ、お姉ちゃんついてたな」

「ああ、カロン様のご成人だろう?あの方、今はダンテ様の元で魔法の鍛錬を積まれているというぜ。ダンテ様との鍛錬が終わったらどれほどの素晴らしい大神官になられるのか、見ものだな」

「ダンテ様のお手図からの鍛錬であれば間違いがない。次代の神殿の未来の先行きは明るいな」

そんな事まで言うではないか。
確かにカロンの成人だと聞いていたが、こんなにカロンの成人が下々にまで知れ渡っているのは驚きだ。

昨日もミシェルの洗濯物を洗ってくれたのはこのカロン様だし、ミシェルに作った朝ご飯のパンケーキがあまり甘くないとダメ出しされたのは他でもない、目下話題のカロン様なのだと思うと、ちょっとカロンといい、ダンテといい、ミシェルは距離感を間違えているのかもしれないと今更ちょっと怖くなる。

ここからおおよそ1時間ほど馬車に揺れるらしい。

そんな折、馬車の奥から小さな喝采と美しい歌声が響いてきた。

「お、吟遊詩人と乗り合わせるなんて今年は乗り合わせからついてるな」

おじさんはいそいそと酒の瓶を持って、奥の方に移動して行った。
ミシェルもなんとなく奥から聞こえる美しい歌声のする方向に目をやると・・

(カロン。ダンテ。ありがとう。心のそこから本当に)

ミシェルは心からの感謝を、今頃ぬくぬく聖女様のそばで火に当たってるだろうダンテと、今頃一人で冷たい神殿で祈りを捧げているはずのカロンに捧げた。

馬車の奥にいたのは、ミシェルの好みど真ん中の、非常に線の細い美しい若い男。
ミシェルと同じ儀式の為の白い薄着のその男が、ギターのような楽器を弾きながら、若い男と女の悲恋の歌を歌い奏でていたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

ついてない日に異世界へ

波間柏
恋愛
残業し帰る為にドアを開ければ…。 ここ数日ついてない日を送っていた夏は、これからも厄日が続くのか? それとも…。 心身共に疲れている会社員と俺様な領主の話。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

気がつけば異世界

波間柏
恋愛
 芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。  それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。  その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。 これは現実なのだろうか?  私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

捕まり癒やされし異世界

波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。 飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。 異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。 「これ、売れる」と。 自分の中では砂糖多めなお話です。

処理中です...