異世界占い師・ミシェルのよもやま話

Moonshine

文字の大きさ
91 / 113
創造するって事は

13

しおりを挟む
そうこうしている内に、一緒にスープを楽しんでいた、カロンの神殿からのおつきの人たちもスープを飲み干して団子をあけてみて、お互いの小物を確かめて、離れた所から聞こえる会話がとても楽しそうだ。

「あ、今年は笛だ!」

「笛ならきっといい知らせがくるのね、私のはウサギだわ!やっとモテキがくるのね!やった!」

「いいな!私のはスプーンよ。食べ物に困らなさそうだけど、ウサギの方がよかったな!」

きゃっきゃと楽しそうだ。
そうこうしている内に、ミシェルも熱い熱いとふうふういいながら、おいしいスープを飲み干して、ようやく団子にたどりつく。

もちもちした団子を、ドキドキしながら不格好に割ってみる。

「可愛い!!これめっちゃ可愛い!!嬉しい!所でこれ、どういう意味!!」

ミシェルの団子の中にあったのは、めちゃくちゃかわいい小さな小鳥。
体は水色の彩色がされていて、このままブローチにしたいくらいの可愛さだ。

「ああ、鳥のくちばしに赤い実があるだろう、なにか、お前にとっていい事が運ばれてくるという象徴だ」

良い事が何かはよくわからないが、実際この小鳥の小物が激カワだったので、ミシェルのご機嫌が大変よくなったあたり、結構当たるものなのかもしれない。

「で、ダンテは? ダンテは何だった?」

うるさいな、ちょっとまってろと、無駄に優雅に団子をつまむその姿は、腹が立つくらい美しい。
おもわず見惚れていると、ダンテが「お」といそいそと割った団子の中身をつまみあげた。

「人魚だ」

「人魚?」

そこには小さな美しい人魚の陶器が、ダンテの手の中にあった。

「きれいね。で、これは一体どういう意味なの?」

ダンテは、うーん。と考えると、

「これは解釈が割れるな。人魚は空想上の生き物だから、存在しない。だから、存在しないような存在が手にはいる、という意味にも解釈できるし、存在しないものだからそんなものは手に入らない、とも解釈はできる。まあ、受け取り手次第のものだが、珍しいな」

おみくじの小吉、みたいなもんだろうか。この世界には蛇女が普通にいるのに、人魚はいないらしい。それはさておいて、ダンテがご機嫌なあたり、人魚は結構なレアアイテムらしい。

「で、カロンは?カロンはなに?」

ダンテの人魚はやはりレアアイテムだったらしく、周りの人々が珍しそうに、ダンテの周りに人魚を見にわらわらと集まってくる。
がやがやしてきたダンテの傍をはなれて、一人でニンマリと手元を眺めているカロンに近づいた。

「いいものだよ」

そうしてカロンが大切そうに手のひらの中に入っているものを見せてくれた。
手のひらの中にあったものは、赤いハートの形の陶器。これもかわいい。

「あら!これもとってもかわいいじゃない。いい意味なの?」

カロンは意味深な笑顔を浮かべて、言った。

「うん。とてもいい意味だよ。私の新年の願いは、どうやら叶いそうだ」

「ああ、そっか。飛び込む時に何かお願いしたのよね。カロンは何をお願いしたの?」

ミシェルはちなみに、なんもお願いしていない。
だって神も仏も、あんまりミシェルの事は好きではなさそうなんだもの。

「ミシェル、願いは誰にもいってはいけないんだよ。願いは神様と、君だけの間の秘密だ」

そしてふいに、真剣な顔をして、ミシェルの手にこの小さな赤い陶器を握らせた。

「ミシェル、これを君にあげる。受け取ってくれる?」

「いいの? こんな可愛いの」

「うん。君にもらってほしいんだ」

「そう? くれるっていうなら貰うけど」

可愛いのが出たらミシェルにあげると最初から言っていたので、特になにも思わなかったが、

「ミシェル」

カロンは随分真剣な顔をしている。
いつもの可愛いカロンの顔ではない。成人した大人の男性の真剣な顔だ。

「言葉にして、私に何が欲しいのか、言ってくれないか?」

急に真剣な顔をして、大人の表情でそんな事を言い出すものだから、ミシェルはちょっとドキドキしてしまったのだが、お願い自体はどうという事はない。

「え?これが欲しいっていう事を言えばいいって事?」

カロンは言葉もなく頷いた。

「えっといいわよ。カロン、このハートの小物をミシェルに頂戴」

するとぱああ!とばかりにカロンは見た事もないような大きな笑顔をみせて、うん、といってきゅ、とミシェルの手の平に、ハートの小さな陶器をにぎらせてくれた。

(一体なんだったんだろう)

随分ご機嫌でカロンはミシェルの元を離れた。
この後にもいくつも行事があるそうで、実家の侯爵家にも成人の挨拶にいかなくちゃだとかで、カロンは中々大変そうだ。

「いやー、ダンテ様は今年はよい事がありそうですね、こんな珍しいものが年明けから神より与えられるとは」

上機嫌な神官が親しげにダンテに話かけていた。
ダンテの周りはまだガヤガヤと、いろんな人が人魚の小物の話で盛り上がっている様子だ。

「いや、人魚ですからね。珍しいですが良い事かどうかは。どこに生息しているかもわからない空想上の生き物ですから」

ダンテはそう言って苦笑いをすると、遠くの海を見つめながらため息をついていた。

(どうせ、ベアトリーチェ様の事を考えてるのでしょ)

ミシェルはなんとなく泣きたくなった。
ダンテは今のこの楽しい時間も、この世に存在しない存在に心を向けている。
正月くらいベアトリーチェ様の事を忘れて、この世に存在する、目の前の私と楽しい気持ちでいよう。

私を見て。

白い服を着ている楽しい人々に囲まれているダンテは、一人だけ黒いローブを纏って、心は遠くの世界に揺蕩っている。ダンテはまるで、白い羊の群れの中にいる黒い羊みたいだ。

「みちちゃん、行動する前に考えましょうね」

いつも正しいおばさんの声が頭の中に聞こえた気がする。

(ダンテ)

ミシェルは気がつくと、ダンテの元に走り出していた。遠くを見つめて思いに暮れているダンテの腕をグイッと強い力でつかむと、

「じゃあさ!私と探しに行こうよ!人魚をさ!」

「おい、こら、何を・・」

そのまましっかり戸惑うダンテの腕を組んで、ずんずん天幕の外の崖っぷちまで連れて行った。そして。

「それ!!!」

「おいこら!何をする!気でも狂ったか!おい待て!私は高い所は苦手なんだ!ちょ、ミシェル!」

しっかり腕を組んだまま、ダンテと二人、一緒に真っ逆さまに、崖から、凍てつく冬の海に飛び込んでやった。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

気がつけば異世界

波間柏
恋愛
 芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。  それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。  その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。 これは現実なのだろうか?  私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

捕まり癒やされし異世界

波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。 飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。 異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。 「これ、売れる」と。 自分の中では砂糖多めなお話です。

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。 十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に… 無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。 周囲は国王の命令だと我慢する日々。 だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に… 行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる… 「おぉー聖女様ぁ」 眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた… タイトル変更しました 召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です

処理中です...