102 / 113
ここは獣人の国
6
しおりを挟む
「あ、私の名前ですか?ニーケです」
見知らぬ他人のいる見知らぬ部屋でも、ニーケは臆することなく、淡々とひとことだけ、そう自己紹介だ。
現代っ子は感情が淡白だとは聞いていたが、本当だ。
同じような年代だろうカロンもニコニコと淡々と自己紹介をし、そしてすんなりとお茶なんか用意してくれている。
現代っ子の感覚ってそんなものらしい。
ちょっとこの温度感にマゴマゴしているダンテに親近感を感じてしまったあたり、世代が同じもの同士の悲哀なのだろう。ミシェルは自分がまだ若いと思っていたのて、ちょっと認めたくない。
そういえばミシェルはこのカロンの小間使いという名目でこの国に来たような気がするが、こんな使いっ走りみたいにミシェルのお客さんにお茶なんか入れてもらってもいいのだろうか。
ニーケはさも当然のようにカロンからお茶を受け取ると、早速前置きなしで、質問を投げてくれた。
「ディーテ王国のようなヒトばかりの国ですと私のような異形は目立ちますので、静かに暮らせる仕事を探すのが難しいし、だからと言って獣人の国に滞在していては、おそらく番いもいないでしょうし、一生恋人が見つかる事はないでしょう。とりあえず手に職をつけて、父の所から独立しないとと思っているのですけれど、鳥族用の学校に入るには、建物の入口まで飛んで入れるようにならないといけないのですが、そこから既に話にもならなくて。そうするとディーテに戻らないといけないのですが、どうしたものか」
そう、ニーケはため息をついた。
感情のタンパクな現代っ子らしく悲壮感はないが、これは切実な問題だ。
何せさっさと独り立ちしないと、居心地の悪い母親の元か父親の元で養われていなくちゃいけない。
田舎のおばさんの家にいるのが嫌すぎて、死ぬほど勉強して都会に出てきて一人暮らしを始めたミシェルには、身につまされるものがある。
ニーケはしょんぼりと、つぶやいた。
「こちらでもあちらでも居場所がないのはさすがに辛いですが、やっぱり目下の問題はどうやってこれから生きていけばいいのかなんです。鳥にもなれない人にもなれない中途半端な存在では、やはり就ける仕事は限られていて。ミシェルさん、どうやったら私は一人で静かに生きていける事ができるのか、良い方法を見てもらえませんか」
もうミシェルは大急ぎでディーテから持ってきた、いろんなおやつだのなんだのをテーブルに並べて、一生懸命おもてなしの準備だ。
「ちょっと、ミシェルさん、そんなに泣かないで・・」
当のニーケときたら淡々としているというのに、ミシェルはもう涙を止める事ができない。ミシェルは考える前に行動するほど、感情がやたらに多いのだ。
何一つ悪い事をしていない、こんなまだうら若い可愛い女の子が一人で苦しみ悩まなくてはいけない世界なんて、一体この子が何をしたのだと、エグエグとミシェルは涙が止まらない。
だというのに現代っ子のこのニーケ、恨みつらみや怒りで身を満たしているのではなく、ただ、淡々と悲しんで、淡々と一人で困っている。
この世界の誰もが、この子の親ですらこの子の苦しみに寄り添ってやらないのであれば、異世界人のミシェルが、世界の最後の一人になったって、必ず寄り添ってやろうじゃないか。
ミシェルは汚くくしゃみをすると、エグエグと泣きながらサイコロを手にした。
「ミシェル、お前は本当に品がない・・」
ダンテはいつも通りそうつぶやいていたが、そこには非難めいた響きはなかった。
見知らぬ他人のいる見知らぬ部屋でも、ニーケは臆することなく、淡々とひとことだけ、そう自己紹介だ。
現代っ子は感情が淡白だとは聞いていたが、本当だ。
同じような年代だろうカロンもニコニコと淡々と自己紹介をし、そしてすんなりとお茶なんか用意してくれている。
現代っ子の感覚ってそんなものらしい。
ちょっとこの温度感にマゴマゴしているダンテに親近感を感じてしまったあたり、世代が同じもの同士の悲哀なのだろう。ミシェルは自分がまだ若いと思っていたのて、ちょっと認めたくない。
そういえばミシェルはこのカロンの小間使いという名目でこの国に来たような気がするが、こんな使いっ走りみたいにミシェルのお客さんにお茶なんか入れてもらってもいいのだろうか。
ニーケはさも当然のようにカロンからお茶を受け取ると、早速前置きなしで、質問を投げてくれた。
「ディーテ王国のようなヒトばかりの国ですと私のような異形は目立ちますので、静かに暮らせる仕事を探すのが難しいし、だからと言って獣人の国に滞在していては、おそらく番いもいないでしょうし、一生恋人が見つかる事はないでしょう。とりあえず手に職をつけて、父の所から独立しないとと思っているのですけれど、鳥族用の学校に入るには、建物の入口まで飛んで入れるようにならないといけないのですが、そこから既に話にもならなくて。そうするとディーテに戻らないといけないのですが、どうしたものか」
そう、ニーケはため息をついた。
感情のタンパクな現代っ子らしく悲壮感はないが、これは切実な問題だ。
何せさっさと独り立ちしないと、居心地の悪い母親の元か父親の元で養われていなくちゃいけない。
田舎のおばさんの家にいるのが嫌すぎて、死ぬほど勉強して都会に出てきて一人暮らしを始めたミシェルには、身につまされるものがある。
ニーケはしょんぼりと、つぶやいた。
「こちらでもあちらでも居場所がないのはさすがに辛いですが、やっぱり目下の問題はどうやってこれから生きていけばいいのかなんです。鳥にもなれない人にもなれない中途半端な存在では、やはり就ける仕事は限られていて。ミシェルさん、どうやったら私は一人で静かに生きていける事ができるのか、良い方法を見てもらえませんか」
もうミシェルは大急ぎでディーテから持ってきた、いろんなおやつだのなんだのをテーブルに並べて、一生懸命おもてなしの準備だ。
「ちょっと、ミシェルさん、そんなに泣かないで・・」
当のニーケときたら淡々としているというのに、ミシェルはもう涙を止める事ができない。ミシェルは考える前に行動するほど、感情がやたらに多いのだ。
何一つ悪い事をしていない、こんなまだうら若い可愛い女の子が一人で苦しみ悩まなくてはいけない世界なんて、一体この子が何をしたのだと、エグエグとミシェルは涙が止まらない。
だというのに現代っ子のこのニーケ、恨みつらみや怒りで身を満たしているのではなく、ただ、淡々と悲しんで、淡々と一人で困っている。
この世界の誰もが、この子の親ですらこの子の苦しみに寄り添ってやらないのであれば、異世界人のミシェルが、世界の最後の一人になったって、必ず寄り添ってやろうじゃないか。
ミシェルは汚くくしゃみをすると、エグエグと泣きながらサイコロを手にした。
「ミシェル、お前は本当に品がない・・」
ダンテはいつも通りそうつぶやいていたが、そこには非難めいた響きはなかった。
21
あなたにおすすめの小説
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
気がつけば異世界
波間柏
恋愛
芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。
それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。
その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。
これは現実なのだろうか?
私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。
【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?
きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。
捕まり癒やされし異世界
波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。
飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。
異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。
「これ、売れる」と。
自分の中では砂糖多めなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる