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陸、月の世界
月の世界②
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発砲された弾は、透明な窓を貫き、亀裂を生んだ。俺は握った銃をそこに叩きつけて割り、中へと突入。いくらか上階までが吹き抜けとなっている空間に躍り出た。
即座に内部構造を確認。上も下も右も左も全て白。円形の内壁に沿うようにして、螺旋回廊が上へと伸びている。ここはちょうどその踊り場だ。
階下には天兎がわらわらとひしめいていた。どうやら街への出撃準備に追われているようだ。
しかし今この瞬間、揃って俺たちに視線が注がれる。そしてすぐに、下から延びる回廊を伝って天兎の群が迫り上がってきた。
こちらも上へ向かわなければ。
俺はすぐに回廊を駆け上がり始めたが、予想通り、上階からも天兎がぞろぞろ下りてくる。
止まって迎え撃つか、避けてすれ違うか迷ったとき、左肩からピンポン球くらいの水弾が一つ発射された。水弾は回廊に当たって爆ぜ、そこを走ってきていた天兎が数匹、衝撃でぽーんと吹っ飛んでいく。
「止まらないで、進んでください」
月見里が言い、俺はその指示に反射的に従って地を蹴り続けた。
「おい、あれって大丈夫なのか!?」
「平気ですよ。威力は抑えましたし、自重が軽いので、多少下に落ちても平気でしょう」
それを聞いて見やると、階下の回廊や途中の踊り場に着地する兎たちの姿が散見された。
けれどそうやって飛ばされたうちの一匹が、上手く勢いに乗って目の前に向かってきている。
すかさずアオが、俺の右肩から頭の上に移動し、閉じた傘でそいつを叩き伏せた。
「ちょっと、あんたはこっち側の心配してよ! 避けられそうなのは自分で避けて!」
「お、おお、悪い!」
ごもっともだ。俺たちにだって、敵の心配をできるほどの余裕はない。
俺はできるだけ速度を落とさず、天兎たちを踏んで転ばないよう気をつけながら走った。
銃はひとまず懐にしまう。俺が走りながら撃とうとしても、まともに狙いはつけられない。だったら、群がる兎たちの中で俺だけが人の姿であるという体躯の利を活かし、力押しで突き抜ける。槍や棒のような長物を持っている奴は優先的にかき分けて回廊から払い落とす。銃や弓のような飛び道具の処理はアオを信じて任せる。進路の確保と追手の阻止は月見里の担当だ。
相手が皆、白い毛玉なので危機感は薄いが、如何せん相対する数が多い。兎は兎でも単なる小動物ではないわけだし、武具や宝具で攻められれば当然、痛手を負う。勢いを失って足が止まればただでは済まない。今の俺の役目は、何はともあれ進むことだ。
「しゃおらー! 止まんな紫苑ー!」
頭の上でアオが傘を振り回して叫ぶ。いつのまにかパーカーのフードは脱げていた。
「おいアオお前、髪の毛掴むな! 痛いだろうが!」
「あの……とりあえず、あまり揺れないでもらえますか」
月見里もしれっと無茶を言う。そんな彼女は俺の首の後ろで踊るフードに収まっている。
駆けるうち、やがて正面からの敵影は減っていった。できるだけ無視し、受け流してきているので、後ろは増える一方だが、さすがに無限に増援が来るというわけでもないようだ。
前が消えれば走りやすくなる。俺はこの先ガス欠にならないように注意しながら、両足に最低限のユエを回した。ユエを使えばパフォーマンスは増す。でも疲労も増える。慎重な駆け引きを、自身の中で相談する。
そんなことをしていて、俺はふと思い当たった。
「月見里、さっきから結構ユエ使ってるように見えるけど、問題ないのか?」
見た感じ、アオの方はちゃんとセーブしていたようだし、傘で殴って多少の補給もできたのかもしれない。けれども、月見里が今も絶えず牽制に撃っている水弾は、突入時から数えてもう、かなりの数になるはずだ。こうして尋ねている間にも、左方階下で銃を構えている天兎に一発放っている。
「わかりません。ですが、これ以上手を緩めれば追いつかれます。突然気を失うかもしれませんので、そうなったら、あとをよろしくお願いします」
「倒れたら捨てるわ! 死ぬ気で気張りなさい!」
背後から俺たちに至ろうとしている長槍を薙ぎ払いながら、アオは強気に発破をかけた。
実際、捨てるまでもなく、月見里が倒れたら溢れ来る追手への対応が間に合わなくなって作戦終了だ。たぶん俺たちは背中から制圧される。
それでもどうにか追いかけてくる毛玉から逃れ、全員倒れずに回廊の終点まで辿り着いた。そこは、今見ている天井のさらに上へと入り込んでいく、いわば上階への入口だ。
ここまで上ったのはおそらく十五階層分くらいだろう。外観から考えても、最上階までは残り数フロア。この吹き抜けを上りきったのは大きい。
俺たちが回廊を渡り終えたところで、月見里は下に向けて水弾を発射する。そこに雷撃を加えて爆発を起こし、回廊の終端を破壊して追手を彼岸に分断。勢い余って飛びかかってくる天兎もいたが、そうした数匹はアオが処理した。
俺たちは息つく暇もなく上を目指す。
即座に内部構造を確認。上も下も右も左も全て白。円形の内壁に沿うようにして、螺旋回廊が上へと伸びている。ここはちょうどその踊り場だ。
階下には天兎がわらわらとひしめいていた。どうやら街への出撃準備に追われているようだ。
しかし今この瞬間、揃って俺たちに視線が注がれる。そしてすぐに、下から延びる回廊を伝って天兎の群が迫り上がってきた。
こちらも上へ向かわなければ。
俺はすぐに回廊を駆け上がり始めたが、予想通り、上階からも天兎がぞろぞろ下りてくる。
止まって迎え撃つか、避けてすれ違うか迷ったとき、左肩からピンポン球くらいの水弾が一つ発射された。水弾は回廊に当たって爆ぜ、そこを走ってきていた天兎が数匹、衝撃でぽーんと吹っ飛んでいく。
「止まらないで、進んでください」
月見里が言い、俺はその指示に反射的に従って地を蹴り続けた。
「おい、あれって大丈夫なのか!?」
「平気ですよ。威力は抑えましたし、自重が軽いので、多少下に落ちても平気でしょう」
それを聞いて見やると、階下の回廊や途中の踊り場に着地する兎たちの姿が散見された。
けれどそうやって飛ばされたうちの一匹が、上手く勢いに乗って目の前に向かってきている。
すかさずアオが、俺の右肩から頭の上に移動し、閉じた傘でそいつを叩き伏せた。
「ちょっと、あんたはこっち側の心配してよ! 避けられそうなのは自分で避けて!」
「お、おお、悪い!」
ごもっともだ。俺たちにだって、敵の心配をできるほどの余裕はない。
俺はできるだけ速度を落とさず、天兎たちを踏んで転ばないよう気をつけながら走った。
銃はひとまず懐にしまう。俺が走りながら撃とうとしても、まともに狙いはつけられない。だったら、群がる兎たちの中で俺だけが人の姿であるという体躯の利を活かし、力押しで突き抜ける。槍や棒のような長物を持っている奴は優先的にかき分けて回廊から払い落とす。銃や弓のような飛び道具の処理はアオを信じて任せる。進路の確保と追手の阻止は月見里の担当だ。
相手が皆、白い毛玉なので危機感は薄いが、如何せん相対する数が多い。兎は兎でも単なる小動物ではないわけだし、武具や宝具で攻められれば当然、痛手を負う。勢いを失って足が止まればただでは済まない。今の俺の役目は、何はともあれ進むことだ。
「しゃおらー! 止まんな紫苑ー!」
頭の上でアオが傘を振り回して叫ぶ。いつのまにかパーカーのフードは脱げていた。
「おいアオお前、髪の毛掴むな! 痛いだろうが!」
「あの……とりあえず、あまり揺れないでもらえますか」
月見里もしれっと無茶を言う。そんな彼女は俺の首の後ろで踊るフードに収まっている。
駆けるうち、やがて正面からの敵影は減っていった。できるだけ無視し、受け流してきているので、後ろは増える一方だが、さすがに無限に増援が来るというわけでもないようだ。
前が消えれば走りやすくなる。俺はこの先ガス欠にならないように注意しながら、両足に最低限のユエを回した。ユエを使えばパフォーマンスは増す。でも疲労も増える。慎重な駆け引きを、自身の中で相談する。
そんなことをしていて、俺はふと思い当たった。
「月見里、さっきから結構ユエ使ってるように見えるけど、問題ないのか?」
見た感じ、アオの方はちゃんとセーブしていたようだし、傘で殴って多少の補給もできたのかもしれない。けれども、月見里が今も絶えず牽制に撃っている水弾は、突入時から数えてもう、かなりの数になるはずだ。こうして尋ねている間にも、左方階下で銃を構えている天兎に一発放っている。
「わかりません。ですが、これ以上手を緩めれば追いつかれます。突然気を失うかもしれませんので、そうなったら、あとをよろしくお願いします」
「倒れたら捨てるわ! 死ぬ気で気張りなさい!」
背後から俺たちに至ろうとしている長槍を薙ぎ払いながら、アオは強気に発破をかけた。
実際、捨てるまでもなく、月見里が倒れたら溢れ来る追手への対応が間に合わなくなって作戦終了だ。たぶん俺たちは背中から制圧される。
それでもどうにか追いかけてくる毛玉から逃れ、全員倒れずに回廊の終点まで辿り着いた。そこは、今見ている天井のさらに上へと入り込んでいく、いわば上階への入口だ。
ここまで上ったのはおそらく十五階層分くらいだろう。外観から考えても、最上階までは残り数フロア。この吹き抜けを上りきったのは大きい。
俺たちが回廊を渡り終えたところで、月見里は下に向けて水弾を発射する。そこに雷撃を加えて爆発を起こし、回廊の終端を破壊して追手を彼岸に分断。勢い余って飛びかかってくる天兎もいたが、そうした数匹はアオが処理した。
俺たちは息つく暇もなく上を目指す。
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