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第14話 テミストとの再会
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北方の辺境警護の視察。
近衛師団に王の勅命が下されたのは、18歳の誕生日まで半月というところに迫った、秋の日だった。
北方の夷狄の様子に変化はないか、実際に赴いて確認してくる。それが、今回近衛師団に与えられた勅命だった。
早速フェリクス近衛師団から、エドガルド、ティナを含めた十名足らずが遠征隊を組み、北方に向かった。
行きの馬車では、エドガルド、ティナ、ルカの3人が乗り合わせた。
「ルカ、もう具合はいいの?」
「へっちゃらっすよ!なんてことないっす!」
ルカと会うのは、男たちに捕まった日以来だった。
ルカは、軽傷とはいえ、気絶するほと痛めつけられたのは確かなので、大事をとってしばらく訓練を休んでいたのだった。思ったより元気そうなルカの様子に、ティナはほっと胸をなでおろした。
「申し訳なかったわね、わたしのせいで…」
「何言ってるんですか、姐さん!謝らないでください!」
頭を下げるティナに、ルカは慌てて首を振る。
「それより、姐さん、ボクのために土下座までしてくれたんでしょう。それでそのあと怒って、悪党どもをけちょんけちょんにしてくれたって。ボク、なんか嬉しかったっす…」
「そ、そう…」
純粋に尊敬のまなざしを向けてくるルカに、まさか怒りに我を忘れて暴れまくっただけだとは言えず、ティナはそっと目線を外した。
そっとエドガルドの方を盗み見ると、目がばちんと合った。こちらもまた、慌てて視線を外す。
(き、きまずい…)
あの後、エドガルドとは極力会わないようにしてきた。なぜなら、気まずすぎるから。
いいだけ暴れた後の興奮が残っていたとはいえ、あんなことを言い、キスまでした。
(王太子の婚約者でありながら、近衛師団長のエドガルドに「私を愛して」って…どれだけ欲求不満なのよ、わたしは!)
今、冷静に振り返ってみると、自分の発言が恥ずかしすぎて、頭を抱えたくなる。
「姐さん、どうしたっすか?馬車酔いっすか?窓開けますか?」
事情を知らないルカが、馬車の小窓を少し開けた。
嗅ぎなれた北方の秋風が、ティナの髪を撫でた。
◆◆◆
近衛師団は、辺境伯領の南端の町に到着した。
ティナが馬車から降り立つや、満面の笑みを浮かべて、まっすぐ向かってくる男が一人。
父宰相の弟、つまりティナにとっては叔父にあたる、テミストだった。
「やあ、ティナ、いつの間に近衛師団に入ったんだ?」
今回のループではまだ会っていなかったが、基本的に独身貴族であるテミストは、姪っ子のティナを可愛がってくれる。一方ティナの方では、レイピアの師匠として、勝手に尊敬の念を寄せていた。
「叔父様、ご無沙汰しております。わざわざお出迎えいただいたんですか?」
「そりゃ可愛い姪っ子がこんなところまで来てくれるんだ、お出迎えくらいさせていただくよ。」
「…あら?どうしてわたくしが参ることをご存じなのです?」
ティナが素朴な疑問に首をかしげると、テミストは笑って上空を指した。
「あれだよ、あれ。」
ティナとエドガルドが揃って空を見上げると、一羽の鷹が、弧を描くように北方の空を飛んでいた。
「伝書鳩ならぬ、伝書鷹さ…兄上とはあれで、よく手紙のやり取りをしているんだ。」
「そうなんですか…存じ上げませんでした。鷹って、そんなに賢いのですね。」
鷹を間近で見たことなどないティナは、純粋に興味をもった。
テミストは、そんな姪っ子に微笑んでから、改めてエドガルドの方に向き直る。
「それにしても、北方夷狄の動向については毎月使いを立てて王都に報告しているはずだよ…最近は目立った動きもないし。」
「いえ、おそらくそれは表向きの任務です。王からテミスト様宛に、書簡をお預かりしています。」
エドガルドが小声で答え、王が使う特別な書簡の筒を懐から取り出して見せると、テミストは頷いた。
「きっとそんなことだろうと思った。国王の懐刀である君が直々に来るからにはね…詳しくは、着いてから聞こう。」
◆◆◆
テミストの館は、北方の首都の異名をとる街の、外れにあった。ほとんどの団員が、街のなかに宿をとっている。任務とはいえ、夜は街に繰り出して飲んだり、遊んだりするようだ。
「たまの気晴らしくらい、いいだろう。」
と、団長のエドガルドは鷹揚に言った。エドガルドとティナは、テミストの館に滞在することになっている。宰相令嬢の世話係として、という名目で、ルカも一緒だ。
テミストの館に着くと、山から吹き下ろす風が身に沁みた。
「こちらはもうすぐ、冬ですね…」
「北方の秋は駆け足だからね。さあ、お入り。」
館に着くとすぐ、夕食が供された。北方では羊肉を食べる風習がある。臭みを消すために独特の香草と一緒に焼くのだが、これが絶品だった。ティナがこちらの世界に来て、一番美味しいと思える料理がこれだ。
(だから80年近く、叔父様のところで修行した、というのもあるのよね…)
つらい修行の日々のなかで、この羊肉料理のごちそうが、ティナの数少ない楽しみだった。
そんな、ティナにとっては懐かしい北方のグルメを4人で堪能した後、テミストがエドガルドとティナを書斎に誘った。今回の任務の「裏向き」の用件について話そう、ということらしい。
「大切なお話でしたら、わたくしはいない方が…」
「いや、ティナにも聞いてほしい話なんだ。ですよね、テミスト様。」
真剣な面持ちで、エドガルドとテミストは頷き合った。
近衛師団に王の勅命が下されたのは、18歳の誕生日まで半月というところに迫った、秋の日だった。
北方の夷狄の様子に変化はないか、実際に赴いて確認してくる。それが、今回近衛師団に与えられた勅命だった。
早速フェリクス近衛師団から、エドガルド、ティナを含めた十名足らずが遠征隊を組み、北方に向かった。
行きの馬車では、エドガルド、ティナ、ルカの3人が乗り合わせた。
「ルカ、もう具合はいいの?」
「へっちゃらっすよ!なんてことないっす!」
ルカと会うのは、男たちに捕まった日以来だった。
ルカは、軽傷とはいえ、気絶するほと痛めつけられたのは確かなので、大事をとってしばらく訓練を休んでいたのだった。思ったより元気そうなルカの様子に、ティナはほっと胸をなでおろした。
「申し訳なかったわね、わたしのせいで…」
「何言ってるんですか、姐さん!謝らないでください!」
頭を下げるティナに、ルカは慌てて首を振る。
「それより、姐さん、ボクのために土下座までしてくれたんでしょう。それでそのあと怒って、悪党どもをけちょんけちょんにしてくれたって。ボク、なんか嬉しかったっす…」
「そ、そう…」
純粋に尊敬のまなざしを向けてくるルカに、まさか怒りに我を忘れて暴れまくっただけだとは言えず、ティナはそっと目線を外した。
そっとエドガルドの方を盗み見ると、目がばちんと合った。こちらもまた、慌てて視線を外す。
(き、きまずい…)
あの後、エドガルドとは極力会わないようにしてきた。なぜなら、気まずすぎるから。
いいだけ暴れた後の興奮が残っていたとはいえ、あんなことを言い、キスまでした。
(王太子の婚約者でありながら、近衛師団長のエドガルドに「私を愛して」って…どれだけ欲求不満なのよ、わたしは!)
今、冷静に振り返ってみると、自分の発言が恥ずかしすぎて、頭を抱えたくなる。
「姐さん、どうしたっすか?馬車酔いっすか?窓開けますか?」
事情を知らないルカが、馬車の小窓を少し開けた。
嗅ぎなれた北方の秋風が、ティナの髪を撫でた。
◆◆◆
近衛師団は、辺境伯領の南端の町に到着した。
ティナが馬車から降り立つや、満面の笑みを浮かべて、まっすぐ向かってくる男が一人。
父宰相の弟、つまりティナにとっては叔父にあたる、テミストだった。
「やあ、ティナ、いつの間に近衛師団に入ったんだ?」
今回のループではまだ会っていなかったが、基本的に独身貴族であるテミストは、姪っ子のティナを可愛がってくれる。一方ティナの方では、レイピアの師匠として、勝手に尊敬の念を寄せていた。
「叔父様、ご無沙汰しております。わざわざお出迎えいただいたんですか?」
「そりゃ可愛い姪っ子がこんなところまで来てくれるんだ、お出迎えくらいさせていただくよ。」
「…あら?どうしてわたくしが参ることをご存じなのです?」
ティナが素朴な疑問に首をかしげると、テミストは笑って上空を指した。
「あれだよ、あれ。」
ティナとエドガルドが揃って空を見上げると、一羽の鷹が、弧を描くように北方の空を飛んでいた。
「伝書鳩ならぬ、伝書鷹さ…兄上とはあれで、よく手紙のやり取りをしているんだ。」
「そうなんですか…存じ上げませんでした。鷹って、そんなに賢いのですね。」
鷹を間近で見たことなどないティナは、純粋に興味をもった。
テミストは、そんな姪っ子に微笑んでから、改めてエドガルドの方に向き直る。
「それにしても、北方夷狄の動向については毎月使いを立てて王都に報告しているはずだよ…最近は目立った動きもないし。」
「いえ、おそらくそれは表向きの任務です。王からテミスト様宛に、書簡をお預かりしています。」
エドガルドが小声で答え、王が使う特別な書簡の筒を懐から取り出して見せると、テミストは頷いた。
「きっとそんなことだろうと思った。国王の懐刀である君が直々に来るからにはね…詳しくは、着いてから聞こう。」
◆◆◆
テミストの館は、北方の首都の異名をとる街の、外れにあった。ほとんどの団員が、街のなかに宿をとっている。任務とはいえ、夜は街に繰り出して飲んだり、遊んだりするようだ。
「たまの気晴らしくらい、いいだろう。」
と、団長のエドガルドは鷹揚に言った。エドガルドとティナは、テミストの館に滞在することになっている。宰相令嬢の世話係として、という名目で、ルカも一緒だ。
テミストの館に着くと、山から吹き下ろす風が身に沁みた。
「こちらはもうすぐ、冬ですね…」
「北方の秋は駆け足だからね。さあ、お入り。」
館に着くとすぐ、夕食が供された。北方では羊肉を食べる風習がある。臭みを消すために独特の香草と一緒に焼くのだが、これが絶品だった。ティナがこちらの世界に来て、一番美味しいと思える料理がこれだ。
(だから80年近く、叔父様のところで修行した、というのもあるのよね…)
つらい修行の日々のなかで、この羊肉料理のごちそうが、ティナの数少ない楽しみだった。
そんな、ティナにとっては懐かしい北方のグルメを4人で堪能した後、テミストがエドガルドとティナを書斎に誘った。今回の任務の「裏向き」の用件について話そう、ということらしい。
「大切なお話でしたら、わたくしはいない方が…」
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