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 ○教室 中3・2学期-
 数学の授業中、蒼葉未來(15)机の前。
先生「コラーッ!」
 何度も未來を怒鳴り怒っている先生。
先生「なにやってるんだーッ!!」
未來「……」
 真っ赤なipodで大好きな音楽を大音量で聴いている來來。
先生「おいっ!!聞いてるのか?!」
 イヤホンをしたままボーっと窓越しの空を眺めている未來。
先生「なんなんだ!その態度は!!」
未來「……」
先生「おいっ いい加減にしろ」
未來の両耳からイヤホンをシュッと引っぱり取り上げる先生。
未來「イッテーよ」
 先生を2つの鋭い目で睨みつける未來。
未來「うるせぇな、ちゃんと聞えてるよ。それ、返せ。」
先生「聞えてるなら、返事ぐらいしろ」
未來「それ返せよっ」
シュッと先生からイヤホンを取り返す。
未來「真面目に授業出てんだから、これくらい、いいじゃん」
 小さく呟く未來。
先生「どこが真面目にだ!(即答)」
未來「あー……じゃあもう帰る。あんたの授業なんかこれ以上聞いてらんねーよ。」
 真っ赤なipodでもう一度、曲を大音量で流し席を立つ
先生「待ちなさーーい!!」
  怒鳴る先生の言葉をまた無視したまま
 颯爽と教室から出て行く未來。
男子生徒A「あいつ何がしたいの?そのまま廊下にでも立ってろ!」
男子生徒B「バーカッ」
男子生徒C「帰れっ帰れっ!!」
全生徒「あはは」
 授業を邪魔された生徒たちで教室がざわつく。

○廊下(昼)
 ため息をつく未來。
未來「(ハァー)またやっちゃってる……おとなしくしてんだからいいじゃん。もぉー今、帰ったら美月に怒られるだけだし……。屋上で時間つぶして帰ろ」
  チラッと明日の給食のメニューを廊下の掲示板で確かめる。
未來「明日、カレーじゃん」
 そして屋上に続く階段をのぼる未來。

○屋上(昼)
  立ち入り禁止と書かれたA4用紙の紙が貼られている扉を悪びれもなく開ける。
未來「やっぱ、屋上はキッモチイイーー」
 両手を雲ひとつない空へ突き上げる未來。
未來「フゥー」
  深呼吸ひとつ、鞄を置き寝っ転がり寝る。

○屋上(夕方)2時間後
  最終下校のチャイムで目を覚ます未來。
未來「やっべ、爆睡しちゃった」
  屋上へ未來を探しに蒼葉美月(37)がやってくる。
美月「やっぱり、ここに居たのか」
  声の聞こえてくる方に目をやる未來。
  すぐに寝たフリをする。
美月「なにやってるんだ!」
未來「……」
未來は寝たフリを続ける。
美月「なにをしてるんだ!?授業はどうした?起きてるんだろ、未來っ!」
  ヨイショと起き上がりながら答える未來。
未來「ほんっと……どいつもこいつも、うるさいな。なんか俺に用でもあんの?」
美月「よっ……用はないが……」
 ウーンと背伸びをする未來。
未來「用がないなら職員室戻れよ」
美月「お前だって用もないのにここに居るだろがっ」
未來「えっ……まぁそうだけど……」
美月「なぁ未來、お前にとって屋上は楽しい思い出なんか一つもないだろ。一年の時は、上級生に目をつけられここでボコボコにされて、2年の時は担任の先生と……」
未來「もういいよ……それ以上言わなくて」
  悲しげな表情へ変わる未來。
  そして、口を大きく開き言い返す。
未來「なーんにも……」
  空を見上げる未來。
未來「なーんにもないけどさ、空が近くに見えるから……」
  ゆっくりと風が未來のサラサラな前髪を揺らす。
美月「……未來、大丈夫か?」
未來「また、なんだよいきなり。気持ち悪いなぁ」
美月「お前の両親が二人とも突然逝なくなった夏の終わり……この時期になるとお前はいつも悲しげな顔するだろ」
未來「えっ」
美月「お前は必死でそんな顔を見せないようにと強がって平気な顔してるけどな、バレバレなんだよ」
未來「そんな顔してねーよ」
美月「なー未來、もっと素直になれ。」
未來「だから、そんな顔……」
美月「悲しい時には悲しい顔して、寂しい時には寂しい顔を見せればいいだろ。」
未來「そんな事、簡単に言うなよ」
美月「簡単な事だろ」
未來「俺は男だぜ。誰かに弱音吐いて、おもいっきり人前で泣けるわけないだろ。そんなのダセーよ。」
美月「ダサくなんかない。」
未來「……だったら、だったら俺だってほんとは、そうなりたいって思ってるよ」
 小さな声で呟く未來。
美月「……そうか」
未來「なーんちゃって、ウソだよ。」
 ニヤリ笑う未來。
未來「そんな姿、誰にも見せたくない。」
美月「そうか」
未來「ってか、なんの話してんだよ。もう帰る。」
  鞄を持って歩き出す未來。
美月「わかった、もうなにも言わないし、なにも聞かない。ただ……」
未來「ただ……なんだよ」
美月「お前の母さんがまだ生きていた時、いつも優しい微笑みを浮かべながら、嬉しそうに俺に話してくれたぞ。」
未來「なにをだよ」
 立ち止まる未來。
美月「未來は人懐っこくて、よく笑い、よく泣く、音楽が大好きな子なのよ。って」
未來「……ふ~ん。」
  勢いよく話し続ける美月。
美月「音楽が好きなところだけは変わってないみたいだけどな」
未來「じゃあいいじゃん」
美月「良くないだろ。今のお前は」
未來「なんだよ」
美月「今のお前は音楽に逃げてるだけだ。」
未來「はっ」
美月「人の作った歌に都合の良いところだけ自分を重ね、共感し慰められて、現実から目を逸らして、安心してるだけだ。」
 また帰ろうとする未來の腕を掴む美月。
美月「そうだろ、俺が言ってること間違ってるか?」
未來「そんな……こと……」
美月「けどな、未來。お前が聴いてる歌の主人公は、お前じゃない。」
未來「あんたになにがわかんだよ」
美月「なにもわからないさ。」
 未來の腕を強く握る美月。
美月「お前、ほんとは誰よりも伝えたい事があるんじゃないのか?自分の事もっとわかって欲しいと思ってるんじゃないのか?」
 未來をガン見する美月。
美月「ちゃんと伝えろよ。」
 美月から目を逸らす未來。
未來「もういいよ……」
美月「なにがいいんだ?」
未來「もうわからないんだ。」
  美月から腕を払いのける未來。
未來「俺だって……自分の事がわからないんだよ」
美月「嘘つくな」
未來「はっ」
美月「お前はちゃんと自分の事、わかってるはずだ。」
  嫌がる未來の腕をギュっと掴み直す美月。
未來「なにすんだよ。」
美月「いいから、ちょっとこい。」
未來の教室へ向かう二人。
未來「嫌だよ、もう帰るんだっつーの」
美月「いいから」
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