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第6話 再会
しおりを挟む翌朝。
ルーカスはいつものように身支度をし、お祈りを済ませた。
そしてドアの前に置かれた朝食を食べ、ドアノブにおまじないをする。
「よし」
いつもと同じ行動。だけどいつもより少しだけ浮き足立っていた。
また森で彼に逢えるだろうか。
今日はどんな話をできるだろうか。
ルーカスの頭の中はヴァイスのことでいっぱいだった。
「……そうだ」
ルーカスは昨日のようなことが起こらないように、先に抑制剤を飲んだ。原因が何なのか分からないが、またヴァイスに迷惑をかけるようなことはしたくない。
だが、数にも限りがある。今まで手を付けていなかった抑制剤を飲み始めたと知ったら、主人に怪しまれるかもしれない。
手持ちの薬が無くなる前に何か対策をしないと、ヴァイスに会えなくなる。
昨日のがたまたま発情期《ヒート》を起こしただけで、もしかしたら今日は平気かもしれない。
明日は飲まずに行こうと、ルーカスは薬のケースを胸ポケットに仕舞った。
準備も整い、ルーカスは素材を入れるカゴを手に持って森の中へと入った。
昨日と同じ道を進み、花畑を探す。道は覚えたので、目的の場所にはすぐ着いた。
だが、ヴァイスの姿は見えない。
「……今日は、いないのかな」
残念に思いながら、ルーカスは花を摘んでいく。
青い花がもっと欲しい。
薄い青の花。濃い色の青い花。色んな種類の花を一つ一つ摘んで、カゴの中へと入れていく。
何故この場所だけこんなに様々な花が咲いているのだろう。不思議に思いながら、ルーカスはその場に寝転んでみた。
「……良い香り」
ほのかに香る花の匂いに、ルーカスは目を閉じた。
外は落ち着く。肌に触れる風の感触も自然の匂いも全て、あの屋敷に拾われる前まで当たり前にあったもの。
孤児院に居た時は友達と普通に遊んでいた。
外で駆け回って、皆で食事を囲って、貧しくはあったが幸せだった。
それが今の主人に買われ、生活は一変した。
最初は逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。でも孤児院に帰る訳にもいかない。
少年は高額の値段で買われた。そのお金はボロボロの孤児院を建て直してもお釣りが来るほどの額だった。みんなのため、お世話になった先生たちのため、耐えるしかなかった。
心の殺し方はすぐに覚えることが出来た。
無心でいれば、主人が望む言葉を吐けば、嫌なこともすぐ終わる。
主人が望む大人しくて良い子でいればいい。
そうすれば、衣食住は与えてもらえる。
あの主人の目的は分からないけど、今はもうそれでいい。もう慣れてしまったから。
「……それにしても、来ないなぁ」
ルーカスは拗ねたように頬を膨らませた。
獣人の嗅覚ならきっと気付いているはず。今は人間の血の方が濃いとはいえ、それでも人並み以上の鼻が利くはず。
もう会うつもりはないのだろうか。ルーカスの胸に、ほんの少しだけ寂しさが募る。
「ヴァイスさーん」
どうせ返事もないだろうと思いながら名前を呼んだ。
そういえば、こうして人の名前を呼ぶのは久しぶりだと言うことにルーカスは気付いた。
主人の名前も聞いたことがないから知らない。孤児院にいた頃は名前を呼ぶことも呼ばれることも当たり前だったのに。
何も考えないようにしていたから、忘れていた。
気付けば、自分の中の当たり前がこんなにも消えていたことに。
「いつまで此処に居る気だ」
不機嫌そうな声音が聞こえ、ルーカスはふふっと笑みを零した。
「貴方に会えるまで、かな」
そう言うと、彼の頭に生えた耳がピクリと動いた。
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