18 / 24
第18話 本音
しおりを挟む翌朝。
昨日と同じようにヴァイスはルーカスの絵のモデルになっていた。
ルーカスはヴァイスが用意してくれた薬草を煎じて薬湯にし、それを飲みながら絵を描いている。
黙々と絵を描く彼を横目に見ながら、ヴァイスは昨日調べたことを伝えるべきか悩んでいた。
ルーカスは知りたがってはいない。むしろ知りたくなさそうにも思えた。神に愛されている、という意味が気になって調べたのはヴァイスの都合だ。彼の意志ではない。
だったら、言わない方がいいのだろうか。
しかし、彼には知る権利があるのではないだろうか。
わからない。
何が正しいのか、分からない。
「……昨日のこと、気にしてますか?」
「何……?」
先に口を開いたのはルーカスだった。
ヴァイスの表情から何かを察したのか、少し困ったような笑みを浮かべている。
「僕のことなんか気にかける必要ないのに、優しいですね」
「そんなんじゃない。ジジイが言ってた言葉が気になっただけだ」
「そうですか。そう、ですよね」
寂しげな笑顔。そんな顔をさせたいわけじゃない。
ヴァイスはどうすれば、どう伝えればいいのか、自分の中での正解を導けずにいた。
「…………もし、俺が何か知ったとして、お前はそれを知りたいと思うか?」
「……いいえ。僕は、現状を変えたいとは思ってないです」
「そうか」
「あのお屋敷に引き取られたばかりの頃だったら、逃げ出したいと思っていたかもしれないけど……今の僕は、もう諦めちゃいました」
笑いながらそう言う少年に、ヴァイスは少し引っかかった。
本当に、そうなのだろうか。
彼は、何もかもを諦めているのだろうか。
「……だったら、なんで俺の絵を描きたいと思ったんだ」
「え?」
「何も変える気がないのなら、なんで俺と会うことを選んだ。誰にも会うなと主人に言われてるなら、俺とこうして会うことだってリスクのあることだろ」
「……それは、そうですけど」
ルーカスの瞳が揺れる。
ヴァイスの言ってることは尤もだ。バレたら怒られる。何をされるか分からない。そんなこと、最初から分かっていた。何も変えるつもりがないのなら、彼と会うという選択肢を選ぶべきではなかった。
分かっていた。分かっていたのに、彼に会いたいという気持ちが強かった。
「…………僕だって、本当は嫌ですよ。あんな場所……」
ルーカスは絵を描く手を止めて、顔を俯かせた。
「でも、仕方ないじゃないですか。僕には逃げ場所もない。逃げ出して、孤児院の皆に何かあったら、死ぬまで後悔する……だから僕一人が我慢するしかないじゃないですか。気持ち悪いおっさんの慰め物にされたって、沢山の男たちに犯されたって、耐えるしかないじゃないですか」
少年の目から涙が零れ落ちた。
ずっと我慢していたものが、溢れ出しているのだろう。大粒の涙がスケッチブックの上にポタポタと落ちていく。
ヴァイスも、口にはしないだけで気付いてはいた。ルーカスからは彼以外の臭いが異常なほどしていた。半獣人である彼の鼻が分からない訳ない。ルーカスだって分かっていた。黙っていても気付かれるだろうと。
「悪かった。お前の気持ちも考えないで、無神経なことを言って」
「いいえ……ヴァイスさんが悪いわけじゃないです」
ヴァイスは立ち上がり、ルーカスの前へと移動した。
彼の前に膝を付き、琥珀色の瞳から零れる涙をそっと拭う。
「お前を見てると母さんを思い出す」
「僕はお母さんにはなれないですよ」
「そうだな。母さん相手に、こんな風には思わないだろうし」
「どんな風、ですか?」
涙で潤んだ瞳に、惹き込まれる。
二人はそうなるのが当たり前だとでも言うように、唇を重ねた。
カチリと、何かが嚙み合うような感覚。
一度触れた熱は、離れることを許してくれない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される
水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。
絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。
長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。
「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」
有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。
追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる