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1章
1章 4話「昼休み」
しおりを挟むノアールの机に読み終わった分厚い本が山積みになった頃。昼休みを告げる鐘が鳴った。
グリーゼオは教科書を仕舞い、お弁当の入った小さなバッグを手に持ってまだ本に夢中になっているノアールの肩を軽く叩いた。
「ノア、行くぞ」
「……ん? ああ、もうそんな時間なの」
「待たせると悪いだろ。ほら、本はロッカーに突っ込んどけ」
机の上の本を片付け、お弁当を持って二人は中庭へと向かう。
先生に怒られない程度の早歩きで急いだつもりだったが、中庭に着くと既にカイラスが待っていた。
木々の間から差し込む太陽の光の下、噴水を囲むように置かれたベンチに腰をかけて小説を読む姿はまるで絵画のよう。カイラスが優秀だという噂は耳にしていたが、容姿までは知らなかったグリーゼオは思わず目を奪われてしまった。
だが少し考えればそれも分かったはず。隣にいるノアールをチラッと見て、小さく溜息を吐いた。
普段の行動のせいで気にしていなかったが、ノアールは普通に美少女に部類される容姿だ。陶器の肌にプラチナのような白く輝く髪、琥珀色の瞳。黙って本を読む姿は確かに美しいのだが、机に積んである分厚い本の山と、あまりに真剣すぎる目が怖くて正しい評価が出来ずにいた。
「お兄様!」
「ノアール」
「お待たせしてごめんなさい。彼がグリーゼオだよ」
駆け足でカイラスに飛びつき、少し遅れて歩み寄るグリーゼオを紹介した。
「初めまして。急に呼び出して申し訳ない。僕はカイラス・ディセンヴィオ」
「あ、は、はじめまして。お、おれ……あの、ぼくはグリーゼオ・フロイズです。よろしくお願いします」
「ふふ。いいよ、緊張しなくても。こっちの都合で呼び出してしまったんだから」
カイラスは立ち上がり、テラス席に移動しようと提案した。
ノアールは兄にくっついたまま、グリーゼオも首を縦に振って付いていった。
中庭に設置されたテラス席は昼時で天気が良いこともあり、そこそこ人が集まっていた。
ノアールはキョロキョロと見渡し、空いてるテーブルを見つけて走って確保しに行った。
「お兄様ー!」
「はいはい、ありがとう」
「……お前、走るなよ。転ぶぞ」
「大丈夫だって」
「この前、階段で転びかけただろうが」
「あ、あれは本を読んでたから……」
「だから歩きながら読むなって何度も言ってんだろ」
二人のやり取りにカイラスは小さく微笑んだ。
学園でノアールが浮いているというのは知っていた。だがら、そんな妹が家族以外に打ち解けているのは兄として嬉しく思う。
「ほら、二人とも。早く食べないと休憩時間が終わってしまうよ」
「あ、すみません」
「はーい」
それぞれ弁当を出し、昼食を取る。
当然だが中身が全く同じ弁当のノアールとカイラス。グリーゼオは見目美しい兄妹の前に座り、遠くから聞こえる小さな黄色い声と視線を感じながら何となくいたたまれない気持ちでサンドイッチを口にした。
「えーっと……それで、おれは何で呼ばれたんでしょうか」
「うん? ああ、そうだよね。理由……うーん、ちょっと恥ずかしいんだけど、うちの父が心配してて」
「心配、ですか?」
「ああ。ノアールが友達の家に行くなんて初めてだし、それも相手が男の子。最初は僕も一緒に君の家に行けって言われちゃったんだけど、それだと君も気まずいだろう? だから先に僕がどんな子か会って確かめるからって話をつけたんだ」
「なるほど。まぁ、正直そんなところかなと思ってました」
ノアールは家でもこの調子なのだろう。家族の苦労が目に浮かび、グリーゼオは乾いた笑いを零した。ノアールは自分の話をされているというのに気にせず黙々と弁当を食べ続けている。
「僕も少し心配していたんだけど、二人の様子を見てたら安心したよ」
「そ、そうですか……」
「……ところで、ノアールは自分のこと何か話した?」
カイラスは直接的な言葉は使わず、探りを入れるように聞いてきた。グリーゼオもすぐに彼女の前世の話だと察して、小さく頷いた。
「えっと……ノアの、えーっと昔の話のことなら聞きました」
「そっか。困らせてしまったかな」
「いいえ、驚きはしたけど……えーっと、何て言えばいいんだろう。彼女の手伝いになるかは分からないけど、おれは父の仕事を見てきたこともあって古い遺跡とか過去の遺物を調べるの好きで……だからノアの話は興味がある、とか言ったら失礼になるかもしれないんですけど、何かしらの手伝いは出来るのかなって……」
「なるほどね。ノアのこと、馬鹿にしたりしないでくれてありがとう」
「馬鹿になんて……そういう話はごく稀ってだけで決してゼロじゃないですから」
カイラスは真っ直ぐ目を見て話すグリーゼオの言葉に嘘はないと判断した。
魔法のことは話していないようだが、彼にならいずれ教えても問題ないだろう。兄として、彼になら妹を任せても問題と素直にそう思った。
「色々と扱いの難しい妹だけど、これからも仲良くしてくれると助かるよ」
「は、はい。えっと、こちらこそ……?」
「……それはそうとノア。君の話をしているんだからもう少し興味を持ってくれないか?」
「ん? 私が口を挟むようなことあった?」
「はぁ……今回はグリーゼオ君が良い子だったから良かったけど、自分のことをあまり軽く話すものじゃないよ」
「そんな気にする必要ないと思うけど……」
「お前はそういう子だよな……」
呆れた表情を浮かべるカイラスに、グリーゼオは同情した。
「……あの、お兄さん」
「うん?」
「ちょっと、思ったことがあって……」
ご飯を食べ終え、教室に戻ろうと中庭を歩いてる途中。グリーゼオは小声でカイラスに話しかけた。
ノアールに聞かれたくないことなのだろうと察し、気付かず先に進むノアールから距離を取るようにカイラスは歩く速度を落とした。
「なに?」
「あの……ノアって、頭良いしいずれは飛び級とか出来ちゃいそうなんですけど……そうなったら、早いうちに旅に出ちゃったりするんですか?」
「ああ……それは僕たちも思ってたよ。でも、ノアールには悪いと思うけど、それはさせないつもりだ。あまり先を急いでほしくないんだよ」
「そうですか。なら良かった……おれとしても、ノアとはこれからもクラスメイトでいたいと思ったので」
「うん。僕もノアは君と一緒に卒業してほしいと思うよ」
互いに顔を見合わせて笑い合う。
いつの間にか後ろについてきていないことに気付いたノアールが、二人のことを呼ぶ。
「お兄様ー! ゼーオー!」
「はいはい、今行くよ」
「大声で人の名前呼ぶなー」
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