追憶のリコリス

のがみさんちのはろさん

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1章

1章 26話「掃除」

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――――
――

「ノア、本読んでないで手ぇ動かせ」
「お嬢様、それはこっちですよ」
「おい、ノア」
「お嬢様!」

 普段掃除を全くしないノアールは、二人に注意されながら少しずつ作業を進めていった。
 しかし溜め込んだ本の数だけ誘惑がある部屋。ノアールは何度も手が止まっては怒られてを繰り返している。

「そ、掃除ってこんなに難しいんだ……」
「難しいことなんかねぇよ。よそ見してないで手を動かしてればいいんだから」
「それが難しいんじゃん。本があったら読みたくなるものでしょう?」
「ならん」
「うっそ」
「おれはさっさと終わらせて好きなことをしたい。よそ見をすればするほど、その時間が減るんだぞ。無駄だろ」
「うう……正論……」

 中々作業が進まないノアールに、グリーゼオは段々と痺れを切らしてきた。
 ノアールの気分転換のために始めた掃除だったが、あまりにも遅すぎて口が悪くなりつつあった。すぐに気付いて冷静になろうとひと呼吸おくが、目を離すとまた本を読んでいるノアールについ怒鳴り声をあげてしまう。
 その様子を、ミリエリは微笑ましく見ていた。

「だーかーらー、読んでたら終わらんだろって!」
「だ、だって! 何を書斎に戻すか選別しないと駄目じゃん!」
「一度読んだことあるだろ! また一から読んでたらキリねーから! そんなだと朝になるぞ!」
「わ、わかってるけど!! 気になっちゃうんだもん!」
「まずは終わらせることを優先させろ! じゃないと、おれ帰るぞ!」
「やだ!」
「ぷっ、ふふ、あはは!」

 二人のやりとりに、思わず吹き出して笑ってしまったミリエリ。その笑い声に、ノアールとグリーゼオは驚いて手を止めた。

「ご、ごめんなさい、笑っちゃって。なんか、普段のお嬢様とは違う一面が見れたなぁって」
「そ、そう、かな?」
「ええ。学校でのお嬢様が見れて、嬉しいですよ」
「別にゼオだからって何か変えてるつもりはないよ?」
「家族や私たちと、お友達に対する接し方が違うのは普通ですよ」
「へぇ……」

 ノアールはチラッとグリーゼオのことを見た。
 意識して対応を変えた気はないが、傍から見るとそんなに違うのかと少しだけ恥ずかしくなった。

「私、なんか違う?」
「それをおれに聞くなよ」
「じゃあゼオは他の人と私とで態度違うの?」
「え、えー……それは他の友達とってこと?」
「うん」

 ノアールが頷くと、グリーゼオは頬を赤らめて話しにくそうに目を泳がせた。
 グリーゼオの場合、態度の違いがあること自覚がある。むしろ完全に意識していると言っても間違いない。
 家族ほどではないが、グリーゼオもノアールに対しては過保護気味だ。それは友達に対するものと露骨に違う。
 そもそも前世のことや魔力のこと、ノアールに関する様々なことを知っていて、周りと同じように接するのは無理な話だ。
 もちろん、秘密を知ったからという理由だけではないが、グリーゼオにとってノアールは色んな意味で気になる女の子であることに変わりない。

「ねぇ、ゼオ?」
「……内緒」
「えー、なんで?」
「うっせぇ、ほら掃除!」

 誤魔化すように、グリーゼオは積み上げた本を書斎へと運んだ。
 これで他と違うと答えて、それが何でなのか理由を聞かれても答えられない。なんでなんでと後ろから聞いてくるノアールを無視して、グリーゼオは掃除に集中した。


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