5 / 80
第一部
5話 「魔王としての新生活」
しおりを挟むまず優先順位を決めよう。
第一に記憶をどうにかする。俺が目覚める前の魔王の記憶を思い出して、今の俺がどうなるかは分からないけど、せめて魔力の制御とやらが出来ないことにはいつまでもこの幼い姿のままだ。
それから勇者。俺は勇者と戦いたくない。だから勇者とだけ戦わない方法を見つけたい。さすがにこれは無理な気がしないでもないけど。
そもそもプレイヤー視点で考えて、勇者が魔王に負ける展開はただのゲームオーバーだ。魔族サイドからすればハッピーエンドだけど。勇者が魔族側の味方になるって展開も相当な無理ゲーだし。闇落ちエンド的になるのかな、それって。
ゲーム的に考えたら色んなエンディングが用意されてるからそういう終わり方も悪くないかもしれないけど、セーブデーターを分けられるゲームと違って今はここが現実だ。セーブもロードも出来ない。一つの結末を選んだら、もう戻ることはできないんだ。ちゃんと考えて進めていかなきゃいけない。
「あっれー。なんかちっこいのがいるー」
魔王の部屋のドアが開き、ツインテールの可愛い女の子が顔を覗き込ませてきた。
ドアの開く音しましたっけ。全然気づかなかったから驚いた。
「メアドール。ドアをノックしろと何度言えば分かるんだ」
「魔王様はいつでもおいでって言ってくれてるもん」
この子、確か四魔軍の一人でサキュバスのメアドール。露出度の高い服で人気あったっけ。実際に見るとかなりヤバいな。幼い顔立ちに大きな胸。ボディーラインを強調した衣装。思春期の男子には目に毒ですよ。
「それで、その魔王様はどうしちゃったの?」
「……仕方ない。四魔軍のお前には話しておこう。このことは他言無用で頼むぞ」
リドは俺の記憶がないことと魔力を制御できずにこの姿になっていることを説明した。
メアドールも最初は信じられないというような顔をしていたが、この体は中身が違うだけで魔王本人の物。信じるより他ない。
というか転生、生まれ変わり説で話を進めるとなると、中身が別人っていうのも違うのか。俺はこの世界で最初から魔王、クラッドとして生まれてきてるはずなんだから。どういう理屈でそうなってるのかは分からないけど。
「ふーん。魔王様でもそういうことになるんだねぇ。でも小さいのも可愛いー」
「メア、魔王様に馴れ馴れしいぞ。全く……魔王様が甘やかすからこうなるんですよ」
「俺、覚えてないけど……何かごめんなさい」
「いいのいいの。優しい魔王様のままで」
仲良いな、みんな。もしこのゲームのアナザーストーリーとかあったら、こういう魔王サイドの話とかも作られたりしてたんだろうか。
読みたかったな。これからコミカライズやノベライズもされて、いずれはアニメ化するんじゃないかって思ってたから、そういうのを拝むことも出来ずに死んじゃうなんてな。まぁこれはこれで貴重な体験出来てるんだけど。
「でも、何が原因なのかな。何か魔法や呪いがかけられたような形跡はないけど」
「ああ。私にも原因が分からなくてな……悪魔神官に相談したいのだが、今どこにいる?」
「フォルグなら今いないよ? いつものやーつ」
「ああ。また廃墟探索か」
そういえばフォルグってそんな設定あったな。プレイヤーと初めて遭遇したのも闇狼の住処になってる廃墟の中でだった。野生の魔物の管理をしてるとかだったっけ。
「仕方ない。奴が戻ってきたら私の所に来るように伝えておけ」
「り」
「返事を略すんじゃない」
魔王城にいるっていうのに、ほのぼのしてるな。
元の世界でこんな風に落ち着けた時間ってあまりなかったから、なんか変な感じ。魔王城で心休まる時間を味わうってどういうことだよ。
「そうだー。ねぇ魔王様、その格好どうにかしたら? 服、ブカブカじゃん」
「あー、そういえば。でも着替えって、どうしたら……」
この城に小さい子用の服があるのかな。それとも魔法で衣装チェンジみたいな?
ゲーム的な考えだと装備品は街とかで買わないといけないけど。
「問題ありません。私が用意しましょう」
「リド、服作れるの?」
「人間に出来ることが私に出来ないわけありません」
そう言ってリドはどこからともなく布地を用意して裁縫し始めた。
高速で腕を動かして器用に服を仕立てていく。凄いな、瞬く間に衣装が出来上がっていく。今俺が来ているようなローブに、背丈に合わせたマント。センスの良い服があっという間に出来上がった。
「おー、リドすごーい」
「お褒めに預かり光栄です」
そう言ってリドがパチンと指を鳴らすと、俺の服が一瞬で今出来上がったばかりの服に変わった。魔法本当に凄い。これも瞬間移動の一種か。
さっきまでブカブカだった服が俺の体にピッタリのカッコいい衣装になった。
「どうですか? どこかキツイ場所などありませんか?」
「うん、大丈夫。ピッタリだよ。ありがとう、リド」
「いえ、魔王様の身の回りのお世話は私の役目ですから」
「リードのはただのオカンじゃーん」
「やかましい」
俺は腕を伸ばしてみたり、マントをヒラヒラさせてみたりした。なんかいいな、こういうの。普段絶対に着ない格好だから、コスプレしてるような気分だ。
今の俺の姿、身長的に12歳前後とかそれくらいなのかな。俺の中学生の時がこれくらいだった気がする。魔族の基準は分からないけど、人間の見た目だけで言うと多分それくらいだと思う。
実際の俺、というか生前の俺と言うべきなのか。前の俺が高1だったから年齢的にはそんなに差もないけど。てゆうか、魔王って何歳なんだろう。少なくとも百歳以上ではあるんだよな。俺、さっきまで人間だったから魔族の年齢の感覚が分からない。
「魔王様、今日はもうお疲れでしょう? お休みになられますか?」
「ん? ああ、そうしようかな」
「では、私達は失礼致します。いつも通り6時間後に起こしに来ますので」
「あ、ありがとう」
6時間睡眠なのか。なんかちゃんとした生活してるな。魔王城は空の上だから朝も夜も関係ないもんな。
リドとメアドールが部屋を出て、俺は一人になる。
知らない場所で一人になると、なんか急に心細くなるな。さっき着せてもらったばかりのマントを取り、俺は大きなベッドに体を埋めた。さすが王様なだけあって立派なベッドだ。今まで使っていた安いマットレスとは感触が全然違う。
俺、この先ちゃんと魔王としてやっていけるのかな。部下達がしっかりしてるから大丈夫だとは思うけど、さすがに魔王の俺が皆に頼ってばかりじゃ示しがつかないよな。
「……でもやっぱり、会いたいな……勇者に」
俺は大きな枕をギュッと抱きしめ、眠りについた。
10
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました
陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。
しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。
それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。
ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。
小説家になろうにも掲載中です。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる