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第一部

35話 「こんなことになるならググっておけばよかった」

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 それにしても、先代の魔王はこうして記録を残してるのにクラッドは何も書いてないんだな。筆不精だったのかな。
 せっかくだし、俺も何か書いておこうかな。でも何を書けばいい。この世界に転生してからのことでも書けばいいのかな。でも、そんなの残して誰のためになるんだ。
 もし俺みたいに転生したら魔王になった人のために、何か書く?
 でもそんな展開、そう何度もあるとは思えないし、残せるような内容も別にない。エルとのことなんか書けるわけないし。
 うん、俺にも書けることなかった。書くとしたら、勇者を倒した後だな。神剣を封じて、俺が死んだ後も残された魔族たちに守ってもらわないといけない。万が一のために封印方法とかも記録した方がいいよな。

「とりあえず、こんなものかな」

 書斎で調べられそうなものは、もうなさそうだ。
 クラッドの記憶は戻ったとはいえ、生まれた時から俺と入れ替わるまでの記憶が全部思い出せるわけじゃない。所々忘れてるところは俺にも分からない。色々と抜けてるところもある。
 まぁ俺も自分の記憶を全て覚えてるかと言われたら、覚えてませんってなるからな。一昨日の夕飯何食べたかって聞かれたらすぐに思い出せなかったりするし。
 だからこそ、クラッドの日記とかなんかそういうのがあったら見たかったんだけどな。

「……とりあえず、リドに相談しようかな」

 神剣のこと、伝えておかないと。
 俺は本棚に本を戻して、リドを探しに行った。

ーーー


 リドの魔力を察知して、俺は中庭に来た。珍しいな、いつも部屋で仕事してることが多いのに。

「リードー」
「魔王様、どうなさいました?」
「うん、ちょっと。それより、珍しいな。リドが外出てるなんて」
「いつも部屋に籠ってるわけではないんですよ」

 そりゃそうだな。これは俺の勝手な思い込みだった。
 いつも忙しいんだから、息抜きも必要だよな。

「……この場所は、私のためにクラッド様が作ってくださった場所なんですよ」
「俺が?」
「ええ。昔のことですので、覚えていませんよね」
「ご、ごめん」
「いえ、責めているわけではないので」

 真ん中に噴水のある綺麗な中庭。ゲームできた時も思ったけど、禍々しい雰囲気の魔王城の中で、この庭だけ神秘的で印象的だったな。
 そうか。ここはリドのための場所だったんだ。なんでそんな場所の思い出をクラッドは覚えてないんだろう。

「……綺麗な場所だよな」
「ええ。私の生まれ故郷の木々や草花を置いてくださってるんです」
「リドの?」
「ええ。私は堕天使です。羽を黒に染め、堕ちた身ですが……それでも生まれた場所が恋しくなる時があります。そんな私のために、この場所を作ってくださいました」

 そっと水に触れるリドの横顔は、とても優しい表情をしてた。今までに見たことないくらい、穏やかな笑みだ。
 リドにとってここは特別な場所なんだな。
 というか、リドって元々は天使だったのか。どんな理由で悪魔になっちゃったのかは分からないし、ゲーム内でその情報はなかったな。やっぱりガイドブック読んでから死にたかった。それかネタバレになってもいいからググっておけばよかった。
 クラッドの記憶にないってことは、二人が出会う前の出来事なのかな。
 ちょっと気にはなるけど、堕天するなんて俺なんかには想像もできないようなことがあったんだろうし、こういうデリケートな話題には簡単に触れられないな。

「……俺も、この場所好きだよ」
「ありがとうございます、魔王様。そういえば、私を探していたのでは?」
「あ、そうだ。俺、リドに相談したことがあったんだ」
「相談ですか?」

 俺は書斎で見つけた本の内容について話した。
 リドも先代魔王の記録を知らなかったみたいで、神剣のことを話したら驚いていた。

「神剣にそんな効果があったとは……私もその書物は目にしたことがありませんでした。書斎の本は殆ど読んだと思っていたのですが……」
「それで、剣を封印する方法とかってあるかな」
「そうですね……普通の封印で効くかどうか……色々と試してみる必要がありそうですね。なんせ神の加護を受けた剣ですから」
「そうだよな……でも、この剣を手に入れれば……」
「ええ。この長き戦いに終止符を打てるでしょう。私も封印方法を調べておきますね」
「うん、頼んだ」

 まだここに残るというリドに背を向け、俺は自室へと戻った。
 アイツが、エルが来る前に準備をしっかり整えておかないとな。


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