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番外編
「彼が魔王と呼ばれるまでの話」④
しおりを挟む私たちは一先ず姿を隠すためにオーファスの森にやってきた。
ここは死者の森とも呼ばれ、昼間でもゴーストやアンデッドが出てくることもあり、人間が来ることは滅多にない。ここなら天使の私がいても目立つことはないだろう。
大昔、ここには変わり者の賢者が住んでいたという話も聞いたことがあるので、もしかしたら寝床に出来そうな場所でもないかと思ったが、すでに無くなっているようだ。
「ここなら獣もいますし、果実も探せばあるでしょう。あとは寝床ですね……」
「うん……あ、あの洞穴みたいなところは?」
「少し狭いですけど、二人ならどうにかなりますかね」
岩場に空いた小さな洞穴。あそこなら雨風も凌げるし、掘り進めばもう少し空間を広くできるかもしれない。
ちゃんとした住居を確保できるまではあの場所を拠点としよう。
「クラッド、背中は大丈夫ですか?」
「うん、リドのおかげで」
「そうですか。ですが、あれは表面の傷を塞いだに過ぎません。体内の傷付いた組織を修復するには時間がかかります。なので暫くは大人しくしているのですよ」
「わかった」
クラッドは洞穴の中に入り、ちょこんと座った。
さすがに疲れたのか、表情は少し暗い。色々あったし無理もないか。まずは心の整理が必要だ。
彼はまだ幼い。色んなものを抱えて生きるには小さすぎる。
とにかく今は休息が大事だ。心も体も休ませなければ。
「クラッド。今は少し横になっては?」
「眠くないよ?」
「そうではなく、疲れたでしょう? 少し休んでください」
「……でも」
「大丈夫。ここなら人間は来ませんから」
「……うん」
クラッドは横になり、体を丸めた。
もう少し楽な姿勢を取った方がいいと思いますが、これが落ち着くのかもしれない。暫くしたら小さな寝息が聞こえてきた。やっぱり疲れていたんでしょうね。
私は音を立てないようにその場を離れ、食べられそうなものを探しに出た。
果物や木の実なら私にも取ってこれる。殺生を許されていない天使は獣などは殺すことが出来ない。だからクラッドに狩りを教えなければ。きちんと肉も食べないと栄養が偏ってしまう。
「まるで子供の親にでもなった気分ですね」
天使である私に子供など出来ませんが、もし下界の者のように子を成す機能があれば家庭を築くこともあったかもしれないけれど。
まぁ無い物強請りしても意味のないこと。
今の私は天に戻れず、下界の者にもなれない半端者。何かを望んだって、手に入るわけもない。
それでいい。私は自分の意志でここにいる。クラッドのそばにいることを選んだ。
だから今は、それでいいんだ。
ーーー
食べ物を集め、私はクラッドの元へと戻ってきた。
いつの間に起きていたのか、クラッドは私を見つけるなり駆け寄って足に抱き着いてきた。
「どうしました?」
「……っ」
「そんなにくっつかれたら歩けませんよ?」
「……」
黙ったまま動かない。
これは一体どういうことなんでしょうか。下界の人はどういう時にこういった行動をとるのでしょうか。
私もまだまだ勉強が足りないようだ。もっと感情を知っていかないと、彼の気持ちを汲み取ってあげられない。
そういえば、人間はよく挨拶を交わしてますね。出かけるとき、帰ってきたときに言う言葉があったはず。
「クラッド、ただいま」
「っ! お、おかえりなさい、リド」
クラッドが顔を上げて、泣きそうな顔で笑った。
ああ、そうか。寂しかったんだ。起きた時に私がいなくて、悲しかったんだ。
せめて一声かけていけばよかった。そうすれば寂しい思いをさせなかったかもしれない。どうやら私の配慮が足らなかったみたいだ。
「お腹は空いてませんか? 向こうに果物がたくさん生っていたので取ってきましたよ」
「う、うん。食べる」
少しずつ、君を知っていきましょう。
君の成長を見届けるのが、今の私の望みです。
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