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四十話 【オフ】
しおりを挟む「……ん」
ゆっくりと目覚め、窓から差し込む太陽の眩しさに少しクラッとした。
ああ、そうか。ここ、彪世さんの家だ。あのまま寝ちゃったんだっけ。
昨日のことを何となく思い出しながら上を向いた。
「……あ」
頭がなんか固いなと思ったら、俺は彪世さんの膝を枕にして寝ていたみたいだ。
あれ。でも俺、普通にソファーに寄りかかって寝てたはず。そのまま倒れてしまったとしても、何でこういう状況になるんだ?
そのまま放っておけばいいのに、わざわざ頭乗せてくれたってことか。ちゃんとベッドで寝てればいいのに。この人、変なところで気を遣うんだよな。
「……」
眠る彪世さんの顔、初めて見た。
いつもは中性的な雰囲気だけど、寝顔は何となく男らしいと言うか。眉間に皺寄せてるせいかもしれない。
やっぱり彪世さんは男だよな。
確かに女っぽいところもあるし、てゆうか女よりも女らしいと思うときもあるけど。
彪世さん、前に自分は男か女のどっちに見えるかって聞いてたけど、気にしてんのかな。別にどっちでもいいと思うけどな。
いや、俺がこんなこと言うのも変か。彪世さんが女だったらあの店にもあんなに通ってなかったと思うし。
「……う、ん」
「あ」
「……ああ、暮凪君。起きてたの?」
「俺も起きたばかりで……あ、すみません」
俺は彪世さんの膝に頭を乗せたままだったことに気付き、慌てて体を起こした。
「うあっ」
「え?」
俺が起き上がった瞬間、彪世さんが気の抜けた声を上げた。
俺、何かしたか?
そう思って反射的に謝ろうとしたが、なんか様子が変だ。座り込んだまま手を床に付けて項垂れてる。
「……あ、彪世さん?」
「ご、ゴメンね。コーヒーでも入れてあげたかったんだけど……ちょっと、立てそうにない……」
「……? あ、ああ!」
そうか、俺がずっと頭乗せてたせいで足が痺れてしまったのか。
微妙に体を震わせながら、痺れが治まるまで耐えてる様子は申し訳ないけどちょっと笑える。いつもの冷静で落ち着いた姿からは想像できない格好だし、子供みたい。
「すみません、俺のせいで。大丈夫ですか?」
「へ、平気だけど……暮凪君、顔が笑ってるよ」
「え、いや……」
「もう……なんか情けないところ見られてて恥ずかしいな」
彪世さんは顔を赤らめて恥ずかしそうにした。
まぁ、なんて言うかさ。こういうときって、ちょっと悪戯したくなるというか、何て言うか。
俺は衝動に駆られ、痺れてる方の足をそっと突っついてみた。
「ひゃあ!」
「……」
もう一回、隙を見て突く。
「ちょ、ちょっと暮凪君!」
「ふはっ! あはは!」
「もう、やめてってば!」
彪世さんは俺の腕を掴んで制止するが、足の痺れのせいなのか手に力が入ってない。
こんな彪世さん、もう二度と見れないかもしれないし、今のうちに楽しんでおくのもいいかなと思った俺はもう少しからかってやろうと思った。
■ □ ■
「全くもう……」
「さーせん」
「悪いと思ってないでしょ」
数分して、痺れが治まった彪世さんはコーヒーを入れてくれた。
ちょっと怒ってるっぽいけど、それよりも恥ずかしかったんだろう。まだ顔が少し赤い。
「悪かったなとは思ってますよ」
「でも反省はしてないと」
「反省もしてます」
「……本当に?」
「ただ楽しかったです」
「……ったく」
呆れた表情で彪世さんは笑った。
まぁこれくらいのことで怒ったりはしないか。
「彪世さん、今日は随分ゆっくりなんですね」
「うん、お休みだからね」
「へぇ。なんか休んでるイメージなかった」
「さすがに年中無休って訳にはいかないよ。私にだってちゃんとオフの日くらいあるって」
そりゃそうか。
毎回店に行くと彪世さんがいるから、ずっと働いてると思ってた。定休日もないし。
普通に考えたらそんな訳ないのにな。
てか、俺が退院したときもオフだったとか言ってたっけ。
「今日は、なんか予定とかあるんですか?」
「特にないかな。暮凪君は?」
「俺も特に……てゆうか、予定があったことなんてそうないです」
俺の予定なんて、透把に誘われてどっか行くくらいだし。
まぁ、もう二度とアイツからの誘いなんか来ない。予定なんか入ることもないだろう。
「……じゃあ、どっか出掛ける?」
「え?」
「家でゴロゴロしてるだけじゃつまらないし、君が嫌じゃなければ」
「や、別に嫌なんてことはないけど……俺、邪魔じゃないですか?」
「そう思ってたら誘わないでしょ?」
コーヒー飲んだら帰るつもりだったんだけど、まさか彪世さんと出掛けることになるなんて。
でも、なんだろう。ちょっと楽しみかもしれない。
俺の中で彪世さんは兄貴的ポジションだからかも。
「じゃあ、はい。行きます」
「ありがとう。じゃあ私は朝食準備するから、その間にシャワーでも浴びてくる?」
「いいんですか?」
「ええ。着替え……私の服でも大丈夫かな」
「別にこのままでも平気ですよ」
「そう? タオルは脱衣所にあるから好きに使って」
「はい」
俺はお言葉に甘えることにした。
朝飯準備する音を背にしながら、浴室へと向かう。
彪世さんの部屋はどこもかしこも綺麗に片付けられてるな。さすがというか、何と言うか。
■ □ ■
「じゃあ映画でも観に行く?」
シャワーを浴び、朝食を取りながらこれからどこへ行こうかと話し合う。
映画か。透把がそんなに興味なかったから、あんまり行かなかったな。俺も人が集まる場所好きじゃないから、自分から行こうとも思わないし。
「良いですよ。何か観たいものでも?」
「どうしても観たいって程でもないけど、暇潰しにはなるでしょ?」
「そうですね。とりあえず映画館に行って決めますか」
「そうね」
俺はコートを羽織り、彪世さんも準備を済ませて一緒に家を出た。
私服の彪世さんって見る人によってはマジで女に見えそうなんだよな。服装もユニセックスなもの着てるし。女装しても違和感なさそう。
「ねぇ暮凪君。映画館でなんか食べたりする?」
「いや、飲み物くらいですかね」
「そうなんだ。私はいつもポップコーン食べちゃうな」
「あー、透把もそうでした」
「よく来たの?」
「いや、極稀に。アイツが友達に誘われたついでに俺も呼ばれたりして」
アイツから映画に誘うなんてことはまずなかった。
透把は大体ポップコーンとかお菓子食いまくって、終盤は寝ちゃってる。
「あ、これもう上映していたんだ」
「それにします?」
「いいの?」
俺が頷くと、彪世さんはチケットを買いに行ってくれた。
ついでに食べ物も買ってくると言っていたから、俺は端の方で戻ってくるのを待つ。
映画館、本気で久し振りだな。
今日は平日だから人も少ない。
毎回こうならもう少し頻繁に来てもいいかもしれない。アクションとかそういうのは大きなスクリーンで見てこそ面白いと感じるし。
「あのー」
横から女二人が話しかけてきた。
何だ、気安く声掛けやがって。
「お一人ですかぁ?」
「良かったら、私たちと一緒に映画観ませんか?」
猫撫で声で話しかけてくる。ウザい。
逆ナンかよ。てゆうか、もし俺一人だったらこんなことろで突っ立ってる訳ないだろ。馬鹿かよ。
イラついて怒鳴りつけてやろうとしたら、ポンと肩を叩かれた。
「彪世さん」
「おまたせ」
彪世さんはそのまま俺の腕を引っ張り、劇場の方へ歩いていった。
女たちは付いてこない。
もしかしたら彪世さんを女だと勘違いしたのかもしれない。
俺が息を吐き出すと、小さく肩を震わせながら彪世さんは笑った。
「あんな嫌そうな顔しなくてもいいんじゃない?」
「ウザいっすよ、ああいう女」
「だからって、ねぇ?」
何がそんなに面白かったのか、クスクスと小さく笑い続けてる。
まぁ、彪世さんのおかげで助かった。
俺、逆ナンしてきた女は大抵泣かせてるし。
「短気ね、君は」
「……よく言われます」
「もう少し耐えるようにしないとね?」
「……はい」
そうですね。
面倒事になっても困るし。
そういうときにフォローしてくれる人もいなくなったし。
そんなこんなで俺らは映画を観た。
前編観たことないけど、続編からでもまぁ普通に面白い。
その話をしたら、彪世さんがDVD持ってるから今度一緒に観ようかって。
彪世さんの家なら美味しい酒やらつまみが出るから喜んでいきますけど。
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