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第15話「聖女」
しおりを挟む「そもそも聖女は、とある国の姫君にしか使えない力なんだ」
「お姫様、ですか?」
「ああ。かつて西の大陸にあった国、アルクス……その王家に生まれる姫だけに宿る特別な力だ」
遠い昔、当時の姫が天使の寵愛を受けてその力が宿ったと言われているが、詳しい文献は残されていない。
しかしその力は何代にも渡って引き継がれ、聖女の力を求めてあらゆる国の人々が訪れていた。どんな難病も治すことが出来る、まるで神のような力。その力を求めるのは、当然善人ばかりではない。
姫を守るための厳重な警備、優秀な騎士や魔法使いを揃え、どの国よりも強固な防壁により、誰もがアルクス国には手を出そうと思わなかった。
「……はず、だった」
「え?」
「世界で戦争になったとしても、あの国には誰も勝てない。そう思っていたが、30年くらい前にアルクス国は滅んだんだ。魔物の大群に襲われてな」
「……そんな」
「そもそも、魔物が国を滅ぼすなんて今までになかった。何者かが魔物を使役していたんじゃないかという噂もある」
真相は分からないが、そうして国は滅んでしまった。国民だけでなく王族も全て虐殺され、生き残りはいないといないと言われていた。
だが、ここに聖女の力を持った少女がいる。
フリードは右手の甲を見て、確かにそこにあった傷を思い出す。深くはなかったとはいえ、ほんの一瞬で治してしまった。あれは疑いようもない治癒の力。
「……お前の親、名前は?」
「え? えっと、父はクロウリー。母はオリビアです」
「クロウリー……お前、クロードってまさか」
「あー、はい。父の名前から……もしかして、駄目でした?」
「いや、そのくらいで勘づくやつはいないだろう。だが、確か当時のアルクス国の第一王女の名前がオリビアだったはずだ。間違いないな……クロウリーという名前に覚えはないが……まぁ、同じ生き残りなんだろう」
「そうなんですね……私、両親のこと何も知らなかった……」
少し寂しそうにアンジュは笑う。
誰も近付かないような山の麓に住んでいたのも、誰とも関わるなと言われてきたのも、その身を守るためだった。
もし知っていたら、兄もあの家を出ていこうとは思わなかったかもしれないと、アンジュは思う。
「……そういえば、お前の親は亡くなったと言ってたが……理由は、話せるか?」
「あ……」
フローガが聞くと、アンジュは表情を曇らせた。
当時のことを思い出したのか、微かに手が震えている。
「話しにくいなら無理にとは」
「……いえ。両親は……獣に、襲われたと……」
「獣?」
「両親はたまに、森の方へ獣を狩りに行くのですが……そのとき、二人とも襲われてしまったらしく……ボロボロの父がすでに亡くなった母を抱えて戻ってきて、そのあと父も……」
アンジュの瞳から零れ落ちるように、涙が溢れた。
聖女である母親が先にやられてしまったせいで、父の傷を癒すことが出来ず、医者を呼ぶことも出来ず、幼い子供だけでは手当も満足に出来るはずもなく、そのまま父を看取ることになった。
二人のお墓を作るために兄と一緒に穴を掘ったことも、二人の亡骸を埋めたことも、今でも覚えている。
アンジュは声を押し殺しながら、静かに泣いた。
「……っ」
その様子に、フローガは無意識に伸ばそうとしていた手を引っ込めた。
何をしようとしたのだろうか。可哀想だと思ったのか。フローガは拳を握りしめ、頭を軽く振る。
「話しにくいことを、話させて悪かった」
「い、いえ……私も、両親のこと、知れて、良かったです……」
「そうか……」
「ありがとうございます、フローガさん」
涙でボロボロになった顔で微笑むアンジュに、フローガは頭の中で何かが弾けたような気がした。
「――……っ」
気付けばベッドから立ち上がり、アンジュの頭を抱えるように腕の中へ閉じ込めていた。
何故抱きしめたのだろう。フローガ自身も無意識で分からない。だけど、無性にそうしたいと体が勝手に動いてしまった。彼女と似たような境遇から、同情でも抱いたというのか。
何も分からない。分からないけど、離れようとも思わなかった。
「フローガさん……?」
「…………」
名前を呼んでも返事はない。
なぜ彼がこんなことをするのかアンジュにも分からない。だけどフローガの腕の温もりや、聞こえてくる胸の鼓動に、ずっと我慢してきたものが込み上げてきた。
アンジュは小さな子供のように、声を上げて泣いた。
小さな頃、両親に縋り付いて泣いていたときのように。
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