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第37話「眠り」
しおりを挟むそれから数日、毎日のように何かに狙われるアンジュは心身ともに疲弊していった。
精神は勿論、夜も寝付けない日が続いていた。
「……暫く、夜の練習はやめよう」
アンジュが狙われるようになった翌日、フローガはそう言った。いつも通りの生活が出来ないことに返答を渋っていたが、フローガの手を必要以上に煩わせたくない。
そう思っていつもの笑顔を浮かべて頷いてみせたが、明らかに無理をしているのは誰が見ても分かった。
アンジュのことを思っての提案ではあったが、その日から夜眠れなくなってしまった彼女に、フローガは選択を誤ってしまたのかと頭を抱えた。
だが、誰もいないグラウンドは敵にとって好都合なシチュエーション。なるべく人の多いところに居てくれた方が、敵も大胆な手を使ってこない。無関係を巻き込みたくないという感情を相手は持ち合わせてはいないだろうが、今のところは大事にしたくない様子。
だったらこっちも、それを利用する他ない。
アンジュもそれは分かっている。だけど不安は消えない。フローガを信用はしているが、自分が狙われているという事実は変わらない。
死ぬような怪我を負わせようとしていないとはいえ、それは明らかに悪意を持っている。そういったものを無縁の生活をしていたアンジュに今の状況は相当なストレスでしかない。
アンジュも眠れるように色々努力をしているが、どれもあまり効果は出ていない。今日もお風呂で体を温めて、ホットミルクを飲んでからベッドに入ったが、眠気が全く来ない。
「……はぁ」
「寝れないのか」
枕に顔を埋めていると、フローガの声がしてアンジュは視線を上に向ける。
深夜になるといつもなら部屋にいない彼が、心配して戻ってきた。それだけで気持ちが少し落ち着いた気がして、アンジュは安堵の笑みを浮かべた。
「すみません……寝なきゃって思うと、余計に寝れなくて……でも、何も考えないのも、無理で……」
「無理もない……悪いな、時間がかかって……」
「いいえ……フローガさんのせいじゃないですし、私は大丈夫ですから……」
弱々しく笑うアンジュに、フローガは胸が痛んだ。
元々細かったが、より痩せたように思える。目の下にもクマが出来て、肌が白いせいで痛々しい印象を受ける。
フローガはアンジュのベッドに腰を下ろし、頭を撫でた。
「……嫌か」
「いいえ……嬉しいです」
触れることに不快感がないか問うと、アンジュは小さく首を振って、フローガの近くにそっと寄った。
一人の方がいいのかと勝手に思い込んでしまったが、アンジュの様子からして全く無意味だったと気付く。この状態では何かあったとき即座に動くことが出来なくなるが、今の彼女を放ってはおけない。
フローガはそのままアンジュの頭を撫で続けた。
「……ありがとう、ございます……」
「気にしなくていい。お前は、自分のことだけ考えてろ」
「ふふ……はぁい」
段々と眠気がきたのか、アンジュはゆっくりと目を閉じる。
それから数分、静かな寝息が聞こえてきた。一旦離れようかと思ったが、服の裾を掴まれていて動けなかった。
いや、起こさずに振り解くことも出来た。だけど、そうしたくないと思ってしまった。
フローガは彼女の長い髪を漉くように自分の指を絡め、そっと口付けた。
「…………おやすみ」
眠るアンジュには届かない声。だけどその言葉に反応するように、アンジュはふわりと微笑んだ。
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