50 / 78
第50話「正体」
しおりを挟む「……アイツは、先代の兄さ。調べるのに苦労はしたが、間違いない」
「兄、だと……」
「聞いたことがないか? アイツの名はバレック・アインザムカイト。問題を起こして一族を追放された男だ」
「そんなはずがない! そ、そもそも……先代が気付かないはずないだろう!」
「……女王の心臓を食ったおかげだろうな。きっと体が若返って、魔力も多少変化したのかもしれない。あとは顔さえ変えれば簡単に里に戻れる。狼族であることに変わりはないんだからな」
フローガは目を見開き、体を震わせた。
嘘だと信じたい。そんなはずがないと。先代頭領、すなわちフローガにとって祖父に当たる人物の兄。つまり、血縁者だ。
バレック・アインザムカイトのことは先代や親からも聞いていたが、それが血縁者だとは聞いていなかった。誰の手にも負えない問題児で、同族を殺してその体を商人に高値で売り付けていた。
それを知った先代が、彼を追放した。何故殺さなかったのか言われたが、先代は何も語らなかった。きっと自分の兄だから情が湧いたのだろうと、フローガの父は話していた。
そして月日が流れ、彼は戻ってきてしまった。姿を変え、都合をよく魔力も変化したおかげで誰にもバレずに。
「そんな奴を……俺は……」
「随分と信用してしまったらしいね。お前ら暗殺者集団が簡単に油断してしまうほどに」
「え?」
クルクスが口にした言葉に、アンジュが反応した。
暗殺者集団。聞き馴染みのない言葉に理解が遅れてしまった。狼族がそういう集団だということなのだろうか。アンジュの顔が一気に青褪め、体は震え出した。
優しく触れる彼の手は、どれだけの人の命を奪ってきたのだろうか。
フローガの優しさを知っている。だけど、頭が正常に働かない。何を信じていいのか、分からなくなってしまった。
「…………すまない」
それに気付いたフローガは、すぐにアンジュのことを離した。
生まれたときから暗殺者として過ごしてきた。元々命を狙われる立場だった狼族が、身を守るために殺しの術を覚え、それがいつしか暗殺を生業とする一族へとなっていった。恐れられることで身を守ろうとした結果であり、殺しの依頼を受けるようになったのも、その強さを主張するため。
そのおかげで、狼族は決して相手にしてはいけないと言われるようにまでなった。
だが、人を殺していることに変わりはない。
「……ああ、アンジュは知らなかったのか。そいつは申し訳ないことをしたね……」
「それは、いい。そんなことより、アイツは何をしようとしてる」
「……だから知らんよ、アイツの考えてることなんて。私はあくまで予想で動いてる。そしてあくまで正体を知ったというだけのこと。というか、アイツの目的なんてどうでもいい。私はリーヴェを殺したアイツを許さないだけ。言っただろう、復讐だと。悪いけど、バレックを殺すのは私だ。アンタには譲れない。正直、狼族ってだけで私はお前らが嫌いだ。ああは言ったけど、本気でアンジュと番になってほしいとも思ってない。もしアンジュと番になって、アンジュの身代わりになってくれると言うなら、百歩譲って許してもいい。もしアイツを殺した後でお前がまだ生きてたら、今度はお前を殺せばいいだけのことだ」
クルクスが喋れば喋るほど、部屋の空気が重くなっていく。
これは彼女の殺意だ。フローガが気圧されるほどの強い威圧感。しかし、フローガとて肉親を殺されている。譲れない思いがあるのは彼だって同じだ。
「アイツを始末するのは、俺だ……」
「はっ、笑わせるな。お前は私にだって勝てないよ」
「てめぇ……」
「お前に出来るのはアンジュの身代わりになって死ぬことだけだ。精々、その子の壁になってやることだな」
クルクスは立ち上がり、足元に魔法陣を発動させた。
横目で体を丸くして怯えるアンジュを見て、悲しそうに顔を歪ませる。
「……ごめんね、アンジュ」
そう言って、クルクスはその場から消えた。
黙ったまま動かない二人。
自分を拒絶するアンジュに、フローガは掛ける言葉が見つからない。
一言も話さず、フローガも窓から部屋を出ていった。
一人残されたアンジュは、ただ膝を抱えて声を押し殺して泣いた。
0
あなたにおすすめの小説
絶対、離婚してみせます!! 皇子に利用される日々は終わりなんですからね
迷い人
恋愛
命を助けてもらう事と引き換えに、皇家に嫁ぐ事を約束されたラシーヌ公爵令嬢ラケシスは、10歳を迎えた年に5歳年上の第五皇子サリオンに嫁いだ。
愛されていると疑う事無く8年が過ぎた頃、夫の本心を知ることとなったが、ラケシスから離縁を申し出る事が出来ないのが現実。 悩むラケシスを横目に、サリオンは愛妾を向かえる準備をしていた。
「ダグラス兄様、助けて、助けて助けて助けて」
兄妹のように育った幼馴染であり、命の恩人である第四皇子にラケシスは助けを求めれば、ようやく愛しい子が自分の手の中に戻ってくるのだと、ダグラスは動き出す。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】イケオジ王様の頭上の猫耳が私にだけ見えている
植野あい
恋愛
長年の敵対国に輿入れしたセヴィッツ国の王女、リミュア。
政略結婚の相手は遥かに年上ながら、輝く銀髪に金色の瞳を持つ渋さのある美貌の国王マディウス。だが、どう見ても頭に猫耳が生えていた。
三角の耳はとてもかわいらしかった。嫌なことがあるときはへにょりと後ろ向きになり、嬉しいときはピクッと相手に向いている。
(獣人って絶滅したんじゃなかった?というか、おとぎ話だと思ってた)
侍女や専属騎士に聞いてみても、やはり猫耳に気づいていない。肖像画にも描かれていない。誰にも見えないものが、リュミアにだけ見えていた。
頭がおかしいと思われないよう口をつぐむリュミアだが、触れば確かめられるのではと初夜を楽しみにしてしまう。
無事に婚儀を済ませたあとは、ついに二人っきりの夜が訪れて……?!
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる