男装オメガと獣人アルファ~純白の聖女と漆黒の暗殺者は何色の花を咲かす~

のがみさんちのはろさん

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第50話「正体」

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「……アイツは、先代の兄さ。調べるのに苦労はしたが、間違いない」
「兄、だと……」
「聞いたことがないか? アイツの名はバレック・アインザムカイト。問題を起こして一族を追放された男だ」
「そんなはずがない! そ、そもそも……先代が気付かないはずないだろう!」
「……女王の心臓を食ったおかげだろうな。きっと体が若返って、魔力も多少変化したのかもしれない。あとは顔さえ変えれば簡単に里に戻れる。狼族であることに変わりはないんだからな」

 フローガは目を見開き、体を震わせた。
 嘘だと信じたい。そんなはずがないと。先代頭領、すなわちフローガにとって祖父に当たる人物の兄。つまり、血縁者だ。
 バレック・アインザムカイトのことは先代や親からも聞いていたが、それが血縁者だとは聞いていなかった。誰の手にも負えない問題児で、同族を殺してその体を商人に高値で売り付けていた。
 それを知った先代が、彼を追放した。何故殺さなかったのか言われたが、先代は何も語らなかった。きっと自分の兄だから情が湧いたのだろうと、フローガの父は話していた。
 そして月日が流れ、彼は戻ってきてしまった。姿を変え、都合をよく魔力も変化したおかげで誰にもバレずに。

「そんな奴を……俺は……」
「随分と信用してしまったらしいね。お前ら暗殺者集団が簡単に油断してしまうほどに」
「え?」

 クルクスが口にした言葉に、アンジュが反応した。
 暗殺者集団。聞き馴染みのない言葉に理解が遅れてしまった。狼族がそういう集団だということなのだろうか。アンジュの顔が一気に青褪め、体は震え出した。
 優しく触れる彼の手は、どれだけの人の命を奪ってきたのだろうか。
 フローガの優しさを知っている。だけど、頭が正常に働かない。何を信じていいのか、分からなくなってしまった。

「…………すまない」

 それに気付いたフローガは、すぐにアンジュのことを離した。
 生まれたときから暗殺者として過ごしてきた。元々命を狙われる立場だった狼族が、身を守るために殺しの術を覚え、それがいつしか暗殺を生業とする一族へとなっていった。恐れられることで身を守ろうとした結果であり、殺しの依頼を受けるようになったのも、その強さを主張するため。
 そのおかげで、狼族は決して相手にしてはいけないと言われるようにまでなった。
 だが、人を殺していることに変わりはない。

「……ああ、アンジュは知らなかったのか。そいつは申し訳ないことをしたね……」
「それは、いい。そんなことより、アイツは何をしようとしてる」
「……だから知らんよ、アイツの考えてることなんて。私はあくまで予想で動いてる。そしてあくまで正体を知ったというだけのこと。というか、アイツの目的なんてどうでもいい。私はリーヴェを殺したアイツを許さないだけ。言っただろう、復讐だと。悪いけど、バレックを殺すのは私だ。アンタには譲れない。正直、狼族ってだけで私はお前らが嫌いだ。ああは言ったけど、本気でアンジュと番になってほしいとも思ってない。もしアンジュと番になって、アンジュの身代わりになってくれると言うなら、百歩譲って許してもいい。もしアイツを殺した後でお前がまだ生きてたら、今度はお前を殺せばいいだけのことだ」

 クルクスが喋れば喋るほど、部屋の空気が重くなっていく。
 これは彼女の殺意だ。フローガが気圧されるほどの強い威圧感。しかし、フローガとて肉親を殺されている。譲れない思いがあるのは彼だって同じだ。

「アイツを始末するのは、俺だ……」
「はっ、笑わせるな。お前は私にだって勝てないよ」
「てめぇ……」
「お前に出来るのはアンジュの身代わりになって死ぬことだけだ。精々、その子の壁になってやることだな」

 クルクスは立ち上がり、足元に魔法陣を発動させた。
 横目で体を丸くして怯えるアンジュを見て、悲しそうに顔を歪ませる。

「……ごめんね、アンジュ」

 そう言って、クルクスはその場から消えた。
 黙ったまま動かない二人。
 自分を拒絶するアンジュに、フローガは掛ける言葉が見つからない。
 一言も話さず、フローガも窓から部屋を出ていった。

 一人残されたアンジュは、ただ膝を抱えて声を押し殺して泣いた。


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