男装オメガと獣人アルファ~純白の聖女と漆黒の暗殺者は何色の花を咲かす~

のがみさんちのはろさん

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第67話「動揺」

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 暗闇の中から聞こえてきたのは、あまりにもこの場には不釣り合いなほど優しくて穏やかな声色をしていた。
 その声がクルクスの神経を逆なでしたのか、鬼のような形相で声のした方へ光源を放つ。

「やっと会えたね……くそ狼」

 クルクスが声を掛けた光源の先、自分達から少し離れた場所で、ガラクタの山の上に座る男が一人いた。
 どれほど闇の中に身を置いていたのか、恐ろしいほど白い肌に長い黒髪を一つに結っていた。アンジュは口にこそしなかったが、目の前の彼がフローガにどことなく似ていると思った。
 優しい顔で自分達を見下ろす彼、ここにいるアンジュ達全員の仇である男、バレック・アインザムカイト。
 アンジュはそっとフローガの顔を見るが、彼が何を考えているのか分からない。怖いほど無表情で、バレックよりも彼に対して恐怖心を抱いてしまう。
 そんな彼をよそに、クルクスは両手に魔力を溜めて魔法を放とうとしている。

「なぁにー、そこの魔女はどこのどなたぁ?」
「忘れたとは言わせない! 私はアルクス国の生き残り、リーヴェの親友だ!」
「リーヴェの?」

 ずっとヘラヘラとした表情を浮かべていたバレックから笑みが消える。
 バレックの口からリーヴェの名前が出てきたことに、クルクスはピクっと反応する。その口ぶりは知らない言葉を口にしたのとは違う。明らかに言い慣れた風だった。

「君が、親友? 本当に?」
「何が言いたい」
「だってあの国にリーヴェの望みを叶えてあげようとしてる人は一人もいなかったじゃない」
「はぁ?」

 何を言っているのか。クルクスは訳が分からず、魔法を放とうとしていた手を下げた。
 適当な嘘でこちらの心を乱そうとしているのかとも思ったが、バレックの表情や声からその雰囲気は感じられなかった。

「お前……あの子の何を知っているって言うんだ」
「そういう君は彼女の何を知っていたの? リーヴェの幸せって何だったの?」
「何って……リーヴェの幸せを奪ったのはお前だろう! リーヴェはあの国の女王として、オリビアの母として、アルクス国の未来を……」
「それ、本当にリーヴェの幸せなの?」
「え……」
「最初からあの国の女王として生まれた彼女は、聖女としてあの国に尽くさなきゃいけない運命だった。それ以外の選択があった? 外に出ることすら許されなかった彼女に、聖女として国に搾取されることが幸せだと思い込ませていただけじゃないの? 一度でも聞いてみた? 彼女の本当の願い。何をしたいか。君は知っているの? リーヴェの本音も聞いたことがないのに親友だなんて言ってたの? ねぇ、もう一度聞くけど……君こそ彼女の何を知ってるの?」
「な、っ……」

 思ってもみなかったバレックの発言に、クルクスは返す言葉をなくす。
 リーヴェの命を奪った本人に何故責められているのかも分からない。だけど、バレックの問いにクルクスは答えられなかった。
 アルクス国の女王として生まれた彼女は、聖女として誰からも愛され、慕われて、いつも笑顔だった。国のために生きること、それが幸せなのだと疑いもしなかった。
 リーヴェ自身もそれに対して何も言わなかった。女王として即位したときだって、結婚が決まったときだって、何一つ不満を漏らすことはなかった。
 それが彼女にとっての当たり前で、誰が見ても幸せな人だと思っていた。
 それが違うというのだろうか。クルクスは完全に心を乱された。自分が信じていたものが、分からなくなってしまった。

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