傭兵魔術師は異世界で英雄を目指す

畑の神様

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プロローグ

序章

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――――俺を……俺をあなたみたいな英雄ヒーローにしてくれ!!


 彼女はそれを聞いて突然目を見開いたかと思うと大声で笑いだした。

 俺が突然笑い出した彼女に困惑していると、彼女は言った。


『ははは、面白いことを言う小僧だ。私が英雄ヒーローとはな。
 言っておくが私は断じて英雄ヒーローなどではないぞ? むしろ悪者ヒールと言っても過言ではない。
 生き残るためにはどんなことでもやってきたし、頼まれれば潜入、強盗、人殺しだってする。
 これを聞いてもまだ同じことが言えるかな?』


 試すように告げる彼女に俺は即答してやった。ああ、もちろんだ、と。

 すると、返ってきた答えが予想とは違ったからか、彼女は訝しんだ顔をすると、再び質問して来た。


『私は英雄ヒーローではないのに、それでもいいのかな?』
『ああ、もちろん。例えあなたがどんな人であろうと、この場において俺の命を救ったのは間違いなくあなただ。
 俺にとっての英雄ヒーローはあなた以外ありえない』


 すると、彼女はこれは面白いものを見つけたというような笑みを浮かべる。


『……私の名前はサーシャ、サーシャ・クロウリーだ。
 小僧、君の名は?』
『ゆうせい……御神みかみ 雄星ゆうせい
『――――いいだろう、ついて来なさい』


 そうしてその日、俺は彼女の弟子になった。



 それからは早い、俺は彼女の指導の下、ありとあらゆる技術、知識を徹底的に叩き込まれた。

 肉体を鍛えるために、壮絶なトレーニングを行った。
 あらゆる武器の扱い方からその対処方法。
 どんな状況下であろうと生き残る術。
 対象に気づかれずに接近する方法――――。

 彼女の訓練はまるで生き残れなければそれまでだ、とでも言うかのように常識を逸脱しており、それは例え俺が血反吐を吐こうとも終わることがなかった。

 時には戦場の中に一人取り残され、一人で生きて帰って来いと言われたこともあった。

 またある時はマフィアの基地を単独で壊滅させて来いなどと言われたり、またある時は人ごみの中、誰にも気づかれないように対象を暗殺して来いというものや、挙句の果てには奇怪な化け物の相手をさせられたこともある。

 流石に『あそこでバカスカやってる戦争あるだろ? 今からちょっと行ってあれを適当に終結させて来い、それまで帰ってくるなよ? じゃ、私はそこらへんでくつろいでるから頑張れよ~~』と言われた時は一発ぶん殴ってやろうとも思ったがどうせ当たらないので泣く泣く止めた。

 いつしか俺が彼女を呼ぶときは『あなた』から『クソ師匠サーシャ』に変わっていた。理由は言うまでもないだろう。

 そして、俺がサーシャから教わったものの中には魔術というものの存在もあった。

 どうやらこのクソ師匠、薄々思ってはいたが只者ではなかったらしい。

 さすがの俺も最初は疑ったが、事実目の前で炎や武器を生み出すのを目の前で見せられてしまったのではしょうがないだろう。

 彼女は魔術にはいろんな種類があると言っていた。
 召喚に始まり、強化、錬金、再生、神話を基にしたものなどと色々あるとかんとか……。

 正直この訓練が一番苦労した。
 何せ今まで自分が虚構だと思っていた存在の習得だ。
 やってみろと言われて簡単にできることでもない。

 だが、俺はこれを何とか会得しからこそ、クソ師匠の異常な訓練を生き残れたのだろう。
 実際、魔術が無ければ死んでいた場面などいくつもあった。

 まぁとは言っても、完璧に会得できたかと言われるとかなり怪しいものがあるのだが、それは言わないでほしい。

 とにかく、そうして俺は数々の戦場を渡り歩き、様々な経験を積んだ。
 そして、現実の非情さを思い知らされた。

 戦場で仲良くなった者が翌日死んでいるなどということは日常茶飯事。

 その場の任務で協力関係にあった者が裏切ったこともあれば、助けようとした少女が目の前で惨殺されたこともある。

 いつしか俺は多くを助けるために少数を諦める、そんな判断をするようになっていた。

 サーシャはそんな俺を見て少し悲しげに笑って『そんなものさ……』と言っていたのをよく覚えている。

 今、自分の行っていることは英雄ヒーローのやることではない。

 そう理解していながら、しかし俺にはすでにどうすることもできないままに日々は過ぎて行った。

 そして、ガキだった俺が何とかベテランと呼ばれる位まで成長した頃。


――――そのツケは唐突にやってきた。


 それはなんの変哲もない、いつも通りの任務だった。

 化け物を倒す、ただそれだけの単純な任務。

 狩るだけの簡単なお仕事というやつだ。

 違ったことはただ一つだけ、その化け物の中に、俺を庇った師匠が取り込まれてしまったことだけである。

 彼女は取り込まれると悟った瞬間、俺にこう言った。


―――私ごとコイツを殺れ、と。


 もちろん俺は彼女を救おうと手を尽くした。
 だが、あまり時間は無かった。
 この時、化け物はすでに町の近くまで迫っていたのだ。

 これ以上時間かければ町の人が巻き込まれ、多くの人が犠牲になる。

 確信があった。
 故に俺は……

――――サーシャごとその化け物を切り裂いた。

 結果、化け物から町は守られた。
 師匠―――サーシャの命と引き換えに……。




 俺はサーシャを失った後も魔術師の傭兵として幾多の任務をこなしていった。

 ただ淡々と、淡々と、淡々と―――。

 無感動、かつ、無慈悲。
 感情らしきものの一切は存在せず、ただ一つそこには表情の無い顔で、それらの仕事をただの事務仕事であるかのように片付けていく自分がいるだけ……。

 そうして任務をこなしているうちに、俺は気がつけば裏の世界でもある程度名の知れる者となり、師匠の後釜と言われるほどに成長していた。

 やっと目標であった者の背中に追いつき、俺の幼いころからの理想まであと一歩というところまで来たのだ。

だが、そんな俺の心の中には何故か、ずっと空虚な穴が開いたままだった。

 理由はわからない。
 だが何かが腑に落ちない。
 決定的な何かがポッカリと抜け落ちてしまったかのような、そんな感覚。

 どうすればその穴を埋められるのか?
 いったい俺に何が足りないのか?

 それだけが、どうしてもわからなかった。




 そんな思いを胸に抱えたまま、日々を過ごし続けていたある日、俺は新たな任務を受けた。
 内容は化け物に襲われた村を救えというものだ。
 俺は早速現場に向かったが、しかしそこはすでに地獄絵図と化していた。

 最早手遅れだったのだ。
 村からは火の手が上がり、村に侵入した化け物どもはその村の住人達を食い散らかし、村中に鮮血どころか、臓物が散らかっている。
 それどころか、襲われたもの達がまた新たな化け物となり、他の者を襲う……そんな光景。

 だが、そんなものもすでに見慣れていた俺は、いつものように淡々と、淡々と、淡々と、元は人であった何かを切り裂いていった。

 すると、奇跡的にも、生存者を発見した。
 女の子だ。
 彼女は大粒の涙を流しながら目の前の、今にも自分に襲い掛からんとしている化け物を見て、『お母さん、お母さん!!』と叫んでいる。
 恐らくあれは彼女のお母さんだったものなのだろう。
 しかし……あれではもう手遅れだ。

 そう瞬時に判断した俺は、化物に変貌した母親から、彼女を守るため、躊躇なくソレを両断した。

 化け物を一瞬にして処理した俺は『もう大丈夫だよ?』と、そう言って女の子を安心させてあげようと後ろを振り向いたその時。


――――ドサッ


 鈍い打撃音、女の子が自分の元へと走ってきていたのだ。

 その光景だけ見れば、女の子が恐怖から開放された安心とともに走り寄ってきたようにも見えるかもしれない。

 実際、確かに事実彼女は走り寄ってきていた。

 違ったことはただ一つだけ。

 その手には刃物がにぎられていたということだ。


『え……?』


―――俺の脇腹には、彼女の持っていたナイフの刃が根元まで刺さっていた。


『よくも……よくもお母さんを! お母さんを殺したなッ!!』


 彼女は大粒の涙を流しながらそう叫ぶ。
 その叫びには多大な憎しみの感情が込められていた。

 そう、俺は即座に諦め、あれをただの化け物と判断したがしかし、彼女の中では、あんな姿になっても……未だにあれはお母さんだったのだ。


――――ズッ


 女の子は刃物を俺の体から勢いよくひきぬいた。

 俺は自分の脇腹から鮮血が溢れだすその光景を、ただただ無感動に眺める。

 流れる血液に現実味はない。
 それらはまるで絵の具のように、地面を赤黒く染め上げていく。

 やがて、俺は倒れ、空を見上げる。

 しかし、それすらも満足には叶わない。

 女の子は膝立ちになると、刃物を逆手に持ち替え、それを再び俺に突き立てた。


『よくもよくもよくもよくもよくもよくも……よくもぉぉぉおおッ!』


 その時、俺ははじめて自分満たされなかった理由を知った。


―――俺は……勘違いしていたのだ。


 俺は彼女のように、サーシャのようにただ合理的に少数を切り捨て、より多くの者を助けるような、そんな者になりたかったわけじゃない。

 本当の彼女がどのような人物で、どのようなあり方をしていたかなど関係ない。

 ただ、あの時、自分にとっての・・・・・・・サーシャがそうであったように、


――――俺も誰かの英雄ヒーローであり続けたい、ただそれだけだったのだ。


 そのためには、安易に誰かを見捨ててはいけなかったのだと、その誰かを救うためにも全力を尽くさなければならなかったのだと、今になってやっと気づいたのだ。
 
 もしも、まだやり直せるのであれば、次こそは……。


――――しかし、全てはもはや手遅れだった。


 俺の意識はさらに深い深い暗闇の中へと沈んでいく。

 やがて光は見えなくなり、完全にその暗闇の中へと取り込まれると、何もかもを間違え、全てを後悔しながら俺こと、御神みかみ 雄星ゆうせいは50年の人生に幕を閉じた。











 ―――――はずだった。


 この時の俺は想像もしていなかった。

 まさか俺がこの後、見知らぬ世界に転生するなどとは……。


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