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8歳の春
ちょっと同一人物か疑う
「………久しぶり、だな。」
「お久しぶりです。ナチオルド子爵令息様。」
「もう子爵令息じゃないから、そう呼ばないでくれ。ジェームズと。」
モリス市長のパートナーになったというのならば、少しは大人しくなったのだろう。
そう考えて素直に出迎えてやれば、布に包まれた何かを抱えた元子爵令息………もといジェームズはムッとした表情でそう言われる。
人間、根本は変わらないのかと呆れそうになるが、貴族という立ち位置に拘っていた男だから馬鹿にされているように感じているのだろう。
難儀な人だ。
「手洗い場、借りる。」
「どうぞ。場所、覚えてますよね。」
「ああ。」
そして変な所で素直。
以前、手洗いうがいがルールだと言ったことを覚えているのだろう。
何かを抱えたまま、洗面所に手洗いうがいをしに行った。
あの布の中に、スライム種の赤ん坊が居るのだろう。
………ちょっと、気になる。
「ああ。ジェームズ、ちょっと。」
「えらそっ………まぁ、良いが………なんだ。」
洗面所に入る前にちょいちょいと手招きしてやれば、嫌そうな顔をしながらも素直にウィルの方へと来た。
多分、根が素直なのだろう。
貴族という重責のメッキが剝がれればこんなものかと思いながらも、準貴族のパートナーにしてはいやに素直な態度に他人事ながら心配になってしまう。
なんというか、誘拐されそう………。
アムルの方がまだ警戒心が強い。
「うちにも、アンタと似たような違うような事情の奴が居るから、騒ぐなよ。」
「どういうことだ。」
「見れば分かる。アーサーの養子だ。」
ウィルの言葉に、ジェームズは疑問に思いながらも頷いた。
良く分からないが、驚いたらいけないらしい。
そう思っているのがありありと分かる表情をしたジェームズは、再び洗面所に向かった。
ウィルはその背中を見ながら、唖然としてしまう。
あの人は、こんなにも幼かったのかと………。
「ひ、一人で出歩かせるなよ………。」
誰に言う訳でもなく、ウィルはぽつりと呟いた。
ジェームズが乗って来た馬車にはモリス市長のエンブレムが付いていたし、終わり次第すぐに連れて帰れるようにと停車しているままなので大丈夫だろうと思う。
それに、ジェームズは元騎士だ。
最後に会った時と体形が変わってないように見えるので、未だに鍛えているのだろう。
仮に暴漢に襲われたとしても、自分自身で処理は出来るだろう。
騎士時代はまるで手負いの猫妖精のように手当たり次第に威嚇しまくっていた男だったのだ。
大丈夫な………筈。
「あ。タオル。」
布の中に居るであろうスライム種も洗うかもしれない。
そうなると拭くものが必要だろう。
ウィルはそう思い、洗面所へと急いだ。
「ジェームズ、拭くもの………」
「ああ。必要だろうと思って、持って来てる。大丈夫だ。」
だが予想外にも、ジェームズはちゃんと準備をしていたらしい。
多少ぎこちなく危なっかしい手付きではあるが、しっかりと小さなスライム種を洗って拭いている。
「グリーンスライムと、クリアスライムか。手伝おう。」
「ああ、ありがとう。この子達のことで相談があってな。」
素直に礼を言われて、ちょっとゾワッとする。
だがそれを表情に出すと絶対に面倒なことになるので、ウィルはそれをけして悟られないようにクリアスライムの方に手を伸ばした。
知らない人だからだろう。
ちょっと嫌そうにボディを捩ってジェームズの腕を登ろうとしている。
可愛い。
「大丈夫。拭いてもらったら、また抱っこするから。」
ジェームズはイヤイヤとするクリアスライムのボディを優しく撫でて、宥めてやった。
その顔は、どう見ても“親”だった。
「お久しぶりです。ナチオルド子爵令息様。」
「もう子爵令息じゃないから、そう呼ばないでくれ。ジェームズと。」
モリス市長のパートナーになったというのならば、少しは大人しくなったのだろう。
そう考えて素直に出迎えてやれば、布に包まれた何かを抱えた元子爵令息………もといジェームズはムッとした表情でそう言われる。
人間、根本は変わらないのかと呆れそうになるが、貴族という立ち位置に拘っていた男だから馬鹿にされているように感じているのだろう。
難儀な人だ。
「手洗い場、借りる。」
「どうぞ。場所、覚えてますよね。」
「ああ。」
そして変な所で素直。
以前、手洗いうがいがルールだと言ったことを覚えているのだろう。
何かを抱えたまま、洗面所に手洗いうがいをしに行った。
あの布の中に、スライム種の赤ん坊が居るのだろう。
………ちょっと、気になる。
「ああ。ジェームズ、ちょっと。」
「えらそっ………まぁ、良いが………なんだ。」
洗面所に入る前にちょいちょいと手招きしてやれば、嫌そうな顔をしながらも素直にウィルの方へと来た。
多分、根が素直なのだろう。
貴族という重責のメッキが剝がれればこんなものかと思いながらも、準貴族のパートナーにしてはいやに素直な態度に他人事ながら心配になってしまう。
なんというか、誘拐されそう………。
アムルの方がまだ警戒心が強い。
「うちにも、アンタと似たような違うような事情の奴が居るから、騒ぐなよ。」
「どういうことだ。」
「見れば分かる。アーサーの養子だ。」
ウィルの言葉に、ジェームズは疑問に思いながらも頷いた。
良く分からないが、驚いたらいけないらしい。
そう思っているのがありありと分かる表情をしたジェームズは、再び洗面所に向かった。
ウィルはその背中を見ながら、唖然としてしまう。
あの人は、こんなにも幼かったのかと………。
「ひ、一人で出歩かせるなよ………。」
誰に言う訳でもなく、ウィルはぽつりと呟いた。
ジェームズが乗って来た馬車にはモリス市長のエンブレムが付いていたし、終わり次第すぐに連れて帰れるようにと停車しているままなので大丈夫だろうと思う。
それに、ジェームズは元騎士だ。
最後に会った時と体形が変わってないように見えるので、未だに鍛えているのだろう。
仮に暴漢に襲われたとしても、自分自身で処理は出来るだろう。
騎士時代はまるで手負いの猫妖精のように手当たり次第に威嚇しまくっていた男だったのだ。
大丈夫な………筈。
「あ。タオル。」
布の中に居るであろうスライム種も洗うかもしれない。
そうなると拭くものが必要だろう。
ウィルはそう思い、洗面所へと急いだ。
「ジェームズ、拭くもの………」
「ああ。必要だろうと思って、持って来てる。大丈夫だ。」
だが予想外にも、ジェームズはちゃんと準備をしていたらしい。
多少ぎこちなく危なっかしい手付きではあるが、しっかりと小さなスライム種を洗って拭いている。
「グリーンスライムと、クリアスライムか。手伝おう。」
「ああ、ありがとう。この子達のことで相談があってな。」
素直に礼を言われて、ちょっとゾワッとする。
だがそれを表情に出すと絶対に面倒なことになるので、ウィルはそれをけして悟られないようにクリアスライムの方に手を伸ばした。
知らない人だからだろう。
ちょっと嫌そうにボディを捩ってジェームズの腕を登ろうとしている。
可愛い。
「大丈夫。拭いてもらったら、また抱っこするから。」
ジェームズはイヤイヤとするクリアスライムのボディを優しく撫でて、宥めてやった。
その顔は、どう見ても“親”だった。
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