宇宙狂時代~SF宝島~

万卜人

文字の大きさ
24 / 107
シャル・ウイ・ダンス?

3

しおりを挟む
 ミューズ人の楽隊がさっと手にした楽器を構え、室内にモーツァルトの管弦楽が響き渡る。
 四本腕のゴロス人の給仕が、優雅な仕草でワインをシルバーとキャシーの食卓に用意し、グラスに静かに注ぎ入れた。
 ロココ様式の部屋に、天井からはシャンデリア。壁にはおそらく複製であろう泰西名画が幾枚も飾られている。
 さらに念入りなことに、窓には立体映像でどこかの宮殿の庭園の昼間の映像が映し出され、ここがシルバーの戦艦内部である現実を忘れさせる。
 演奏する楽隊も、ゴロス人の給仕も、服装は共に十七世紀フランスの古風なもので、シルバー自身も、その時代の貴族の服装に着替えていた。
 音楽が始まると、ぞろぞろと貴族の衣装を身に纏った男女が現れ、優雅な仕草で踊り始めた。
 ここで違和感を主張している人間は、キャシーだけである。
 ワイン・グラスを目の高さに上げ、シルバーは思い切り香りを吸い込み、一口含むとゴロス人の給仕に頷いて見せた。給仕は頷き返し、ワインの瓶を置いて引き下がる。
 キャシーは用心深く手をつけようとしない。その様子を見てシルバーは笑顔を見せた。
「何も余計なものは入れてはおりませんぞ! 第一、高貴なワインにそのような薬を入れるなど、わたくしが許しません!」
 肩を竦め、キャシーは手にしたグラスをぐっと一息に飲み干した。シルバーに向けてグラスを突き出す。
「もう一杯!」
「お見事!」
 シルバーは感嘆した声をあげ、キャシーのグラスになみなみと注ぎ入れた。今度はキャシーは味わって呑み始める。
 踊っている男女に目をやる。
「全員が原型なのね。〝種族〟のカップルは、一組もいないわ」
 シルバーは大きく頷いた。
「さよう、この《鉄槌》において、原型はわたくしの賓客となっております。彼らは、わたくしの希望なのですよ」
 シルバーの言葉に、キャシーは目を細めた。
「相変わらず、諦めないつもりね。あれが不可能だってこと、どうしたら、あんたが悟るのかしら?」
 シルバーは苦く笑った。
「不可能であることは、まだ証明されておりません。不可能の証明がなされない限り、わたくしは断固、諦めませんよ。そのためには、キャシーさん、あなたの協力が是非とも必要なのです。判ってくれませんか?」
 キャシーは首を振った。
「お祖父ちゃんは、そんな目的のために、あたしにあれ・・を残してくれた訳じゃない。ここにいる原型の人たち……それに、全銀河系に存在する総ての原型の人たちに残したのよ。あなただけの物ではないわ」
 シルバーは失望したようだったが、顔には出さなかった。
 キャシーは窓を見て笑った。
「晩餐にしては時刻が間違っていない? 窓の外は昼間よ」
「おお!」とシルバーは弾かれたように顔を挙げ、手を上げてゴロス人の給仕を呼びつけた。耳を近寄せたゴロス人に何か囁く。ゴロス人は頷き、窓の側へ早足で移動した。
 窓の側のパネルを開き、内部の機械を顕わにする。機械を調整すると、いきなり窓の景色が早送りされた。
 青空に浮かんでいる雲が見る見る飛び去り、太陽が地平線に沈んで夕方の景色になり、更には夜を迎える。星が煌くようになって、ゴロス人は機械の操作を停めた。
「あの景色は一日二十四時間をエンドレスにしておりますからな、時刻を飛ばすことはできんのですよ」
 シルバーは楽隊に向け、ぱちりと指を鳴らして合図する。
 楽隊がそれまで演奏していたメヌエットから、テンポが速いポルカに変えた。踊りを踊っていた男女は曲目に合わせ、手を打ち鳴らし、足で床を踏み鳴らしてリズムを刻む。
 浮き浮きとリズムに合わせていたシルバーはキャシーに囁いた。
踊っていただけませんかシャル・ウイ・ダンス?」
「いやよ! 誰が、あんたなんかと!」
 キャシーは言下に拒否した。
 落胆もせず、シルバーは立ち上がった。
「そうですか……それでは!」
 ずい、と踊りの輪の真ん中に飛び出し、独りで踊り出す。まわりのカップルたちは歓迎し、輪になってシルバーを取り囲み、両手を打って拍子をとった。女性たちは次々とシルバーに近寄り、手を繋いでくるくると回転するダンスを踊る。シルバーは楽しそうであった。
 キャシーは面白くなさそうに、ぐいぐいとワインを開けていく。
「ひくっ!」としゃっくりがこぼれた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...