84 / 107
地球の管理人
4
しおりを挟む
「話が抽象的になってきたな。おれは神学論争が嫌いだ。この銀河系に、地球人しか知的生命体が存在しない? それがどうした! 何が問題なのだ?」
《大校母》は悠揚と落ち着いている。
「そなたは〝ドレイクの方程式〟なる公式を、ご存知でしょうか?」
シルバーは「知らん!」と短く答えるのみだった。
「それは、このような方程式です」
《大校母》が合図すると、部下が空中に公式を表示させた。それは
N =[R*]×[fp]×[ne]×[fl]×[fi]×[fc]×[L]
というものだった。
「最初のNは、銀河系で存在する知的生命体による文明の数。つまり宇宙人の数です。もし、銀河系で存在する知的生命体が地球人のみなら、これは〝1〟となりましょう。その場合に重要なのは、最後の[L]なのです。これは存在する文明の存続時間を表します。すなわち文明の寿命! その他のパラメーターのほとんどは判明しておりますので、最初のNが1なら、最後のLもまた、自ずから導き出されます。その長さは約、一万年と算出されました」
シルバーは眉を寄せた。
「一万年……そいつは……」
《大校母》は重々しく頷く。
「そう……。地球人が文明らしきものを形にして、すでに一万年近くを経過しております。つまり、地球人の文明は寿命を迎えつつあるのです!」
シルバーは高笑いを上げる。
「ははははは! そうか、地球人の文明は、滅びの時期を迎えているのか! そいつは結構だ! しかし、人類は銀河系全部に殖民して、その数も誰にも数え切れないほどだ。一〇の十乗の、そのまた十乗の、さらに十乗を掛けて、そして……ええい! おれにも判らんくらい、人類というのはこの銀河系に蔓延っておる! それらが一斉に滅びると言うのかね? 馬鹿馬鹿しい!」
《大校母》は、あくまで冷静だった。
「〝ドレイクの方程式〟が発表されたとき、地球には原型しかいませんでした。超空間航法が発見され、銀河系に人類が次々と殖民するようになって〝種族〟が生まれたのです。すなわち、この公式で滅びる可能性があるのは、原型の地球人ということになります」
シルバーは口許の笑いを消した。
「原型が……?」
「そうです! 原型は現在、衰亡の真っ只中にいるのです。もし原型の人々がこの銀河系から姿を消したら、どうなるでしょう? 超空間ジェネレーターは、原型の人間にのみ、起動されます。もし原型が姿を消したら、超空間ジェネレーターは役立たずの、無用の長物と化すのです。そうなったら、銀河系を支配する無数の〝種族〟たちの危機です! それは、断固として防がなくてはなりませぬ。絶対に!」
シルバーは空中に投影されているホログラフィーに顎をしゃくる。
「それがこれと、どう関わるのだ?」
「超空間ジェネレーターは、なぜ原型にしか起動させることができないのでしょう? それは今の宇宙の物理定数が、原型の人間の観測によって生まれ出てきたと考えられているからです。宇宙の〝ビッグ・バン〟により最初の宇宙が誕生した瞬間、様々な物理定数は決定されましたが、それは元々、原型の人間が知性を持ち、宇宙を観測したことによる結果なのです。因果関係は、ここでは逆転しています。観測者がいなければ、宇宙は存在しない。その観測者は原型であるがゆえに、宇宙の物理定数は決まっている……。ならば、その観測者が変化すれば、宇宙の物理定数も変化するのではないか、というのが妾の予想でした」
シルバーは呆気に取られていた。
「そんな馬鹿な! 《大校母》。お前は神学論争どころか、完全な神秘主義に陥っているぞ! 正気じゃない……」
《大校母》はシルバーの非難に、まるで取り合おうとしない。それどころか、身内から湧き上がる使命感に溢れている。
「充分な数の原型の脳が必要なのです。今ある数では全然、足りませぬ。少なくとも十億! 誤差の範囲を考慮に入れれば、五十億の原型の脳が必要なのです。それらを幾つもの惑星に配置させ、宇宙を観測させます。しかし、その観測は、妾の設定した新たな物理定数を引き寄せる観測でなければなりませぬ。そうすれば、数世紀……いや、数十世紀のうちには結果が現れるでしょう……。その宇宙は〝種族〟のみで構成された、原型を必要としない宇宙! 素晴らしいではありませんか! 衰えた古い種族である原型は滅び、我ら新たな〝種族〟が原型の手を借りずとも、超空間ジェネレーターを駆使できることになるのです!」
聞いているシルバーは、怒りが静かに満ちてくるのを感じていた。
「原型のいない宇宙……。《大校母》よ、それがお前の望みなのか?」
その時、管理センターの部下が計器を覗き込み、鋭く叫んだ。
「《大校母》さま! 岩の固まりの近くの空間に変化が! 超空間波が観測されます!」
「何だとっ!」
と、《大校母》とシルバーが同時に叫び返す。
《大校母》は悠揚と落ち着いている。
「そなたは〝ドレイクの方程式〟なる公式を、ご存知でしょうか?」
シルバーは「知らん!」と短く答えるのみだった。
「それは、このような方程式です」
《大校母》が合図すると、部下が空中に公式を表示させた。それは
N =[R*]×[fp]×[ne]×[fl]×[fi]×[fc]×[L]
というものだった。
「最初のNは、銀河系で存在する知的生命体による文明の数。つまり宇宙人の数です。もし、銀河系で存在する知的生命体が地球人のみなら、これは〝1〟となりましょう。その場合に重要なのは、最後の[L]なのです。これは存在する文明の存続時間を表します。すなわち文明の寿命! その他のパラメーターのほとんどは判明しておりますので、最初のNが1なら、最後のLもまた、自ずから導き出されます。その長さは約、一万年と算出されました」
シルバーは眉を寄せた。
「一万年……そいつは……」
《大校母》は重々しく頷く。
「そう……。地球人が文明らしきものを形にして、すでに一万年近くを経過しております。つまり、地球人の文明は寿命を迎えつつあるのです!」
シルバーは高笑いを上げる。
「ははははは! そうか、地球人の文明は、滅びの時期を迎えているのか! そいつは結構だ! しかし、人類は銀河系全部に殖民して、その数も誰にも数え切れないほどだ。一〇の十乗の、そのまた十乗の、さらに十乗を掛けて、そして……ええい! おれにも判らんくらい、人類というのはこの銀河系に蔓延っておる! それらが一斉に滅びると言うのかね? 馬鹿馬鹿しい!」
《大校母》は、あくまで冷静だった。
「〝ドレイクの方程式〟が発表されたとき、地球には原型しかいませんでした。超空間航法が発見され、銀河系に人類が次々と殖民するようになって〝種族〟が生まれたのです。すなわち、この公式で滅びる可能性があるのは、原型の地球人ということになります」
シルバーは口許の笑いを消した。
「原型が……?」
「そうです! 原型は現在、衰亡の真っ只中にいるのです。もし原型の人々がこの銀河系から姿を消したら、どうなるでしょう? 超空間ジェネレーターは、原型の人間にのみ、起動されます。もし原型が姿を消したら、超空間ジェネレーターは役立たずの、無用の長物と化すのです。そうなったら、銀河系を支配する無数の〝種族〟たちの危機です! それは、断固として防がなくてはなりませぬ。絶対に!」
シルバーは空中に投影されているホログラフィーに顎をしゃくる。
「それがこれと、どう関わるのだ?」
「超空間ジェネレーターは、なぜ原型にしか起動させることができないのでしょう? それは今の宇宙の物理定数が、原型の人間の観測によって生まれ出てきたと考えられているからです。宇宙の〝ビッグ・バン〟により最初の宇宙が誕生した瞬間、様々な物理定数は決定されましたが、それは元々、原型の人間が知性を持ち、宇宙を観測したことによる結果なのです。因果関係は、ここでは逆転しています。観測者がいなければ、宇宙は存在しない。その観測者は原型であるがゆえに、宇宙の物理定数は決まっている……。ならば、その観測者が変化すれば、宇宙の物理定数も変化するのではないか、というのが妾の予想でした」
シルバーは呆気に取られていた。
「そんな馬鹿な! 《大校母》。お前は神学論争どころか、完全な神秘主義に陥っているぞ! 正気じゃない……」
《大校母》はシルバーの非難に、まるで取り合おうとしない。それどころか、身内から湧き上がる使命感に溢れている。
「充分な数の原型の脳が必要なのです。今ある数では全然、足りませぬ。少なくとも十億! 誤差の範囲を考慮に入れれば、五十億の原型の脳が必要なのです。それらを幾つもの惑星に配置させ、宇宙を観測させます。しかし、その観測は、妾の設定した新たな物理定数を引き寄せる観測でなければなりませぬ。そうすれば、数世紀……いや、数十世紀のうちには結果が現れるでしょう……。その宇宙は〝種族〟のみで構成された、原型を必要としない宇宙! 素晴らしいではありませんか! 衰えた古い種族である原型は滅び、我ら新たな〝種族〟が原型の手を借りずとも、超空間ジェネレーターを駆使できることになるのです!」
聞いているシルバーは、怒りが静かに満ちてくるのを感じていた。
「原型のいない宇宙……。《大校母》よ、それがお前の望みなのか?」
その時、管理センターの部下が計器を覗き込み、鋭く叫んだ。
「《大校母》さま! 岩の固まりの近くの空間に変化が! 超空間波が観測されます!」
「何だとっ!」
と、《大校母》とシルバーが同時に叫び返す。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる