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地球の管理人
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「話が抽象的になってきたな。おれは神学論争が嫌いだ。この銀河系に、地球人しか知的生命体が存在しない? それがどうした! 何が問題なのだ?」
《大校母》は悠揚と落ち着いている。
「そなたは〝ドレイクの方程式〟なる公式を、ご存知でしょうか?」
シルバーは「知らん!」と短く答えるのみだった。
「それは、このような方程式です」
《大校母》が合図すると、部下が空中に公式を表示させた。それは
N =[R*]×[fp]×[ne]×[fl]×[fi]×[fc]×[L]
というものだった。
「最初のNは、銀河系で存在する知的生命体による文明の数。つまり宇宙人の数です。もし、銀河系で存在する知的生命体が地球人のみなら、これは〝1〟となりましょう。その場合に重要なのは、最後の[L]なのです。これは存在する文明の存続時間を表します。すなわち文明の寿命! その他のパラメーターのほとんどは判明しておりますので、最初のNが1なら、最後のLもまた、自ずから導き出されます。その長さは約、一万年と算出されました」
シルバーは眉を寄せた。
「一万年……そいつは……」
《大校母》は重々しく頷く。
「そう……。地球人が文明らしきものを形にして、すでに一万年近くを経過しております。つまり、地球人の文明は寿命を迎えつつあるのです!」
シルバーは高笑いを上げる。
「ははははは! そうか、地球人の文明は、滅びの時期を迎えているのか! そいつは結構だ! しかし、人類は銀河系全部に殖民して、その数も誰にも数え切れないほどだ。一〇の十乗の、そのまた十乗の、さらに十乗を掛けて、そして……ええい! おれにも判らんくらい、人類というのはこの銀河系に蔓延っておる! それらが一斉に滅びると言うのかね? 馬鹿馬鹿しい!」
《大校母》は、あくまで冷静だった。
「〝ドレイクの方程式〟が発表されたとき、地球には原型しかいませんでした。超空間航法が発見され、銀河系に人類が次々と殖民するようになって〝種族〟が生まれたのです。すなわち、この公式で滅びる可能性があるのは、原型の地球人ということになります」
シルバーは口許の笑いを消した。
「原型が……?」
「そうです! 原型は現在、衰亡の真っ只中にいるのです。もし原型の人々がこの銀河系から姿を消したら、どうなるでしょう? 超空間ジェネレーターは、原型の人間にのみ、起動されます。もし原型が姿を消したら、超空間ジェネレーターは役立たずの、無用の長物と化すのです。そうなったら、銀河系を支配する無数の〝種族〟たちの危機です! それは、断固として防がなくてはなりませぬ。絶対に!」
シルバーは空中に投影されているホログラフィーに顎をしゃくる。
「それがこれと、どう関わるのだ?」
「超空間ジェネレーターは、なぜ原型にしか起動させることができないのでしょう? それは今の宇宙の物理定数が、原型の人間の観測によって生まれ出てきたと考えられているからです。宇宙の〝ビッグ・バン〟により最初の宇宙が誕生した瞬間、様々な物理定数は決定されましたが、それは元々、原型の人間が知性を持ち、宇宙を観測したことによる結果なのです。因果関係は、ここでは逆転しています。観測者がいなければ、宇宙は存在しない。その観測者は原型であるがゆえに、宇宙の物理定数は決まっている……。ならば、その観測者が変化すれば、宇宙の物理定数も変化するのではないか、というのが妾の予想でした」
シルバーは呆気に取られていた。
「そんな馬鹿な! 《大校母》。お前は神学論争どころか、完全な神秘主義に陥っているぞ! 正気じゃない……」
《大校母》はシルバーの非難に、まるで取り合おうとしない。それどころか、身内から湧き上がる使命感に溢れている。
「充分な数の原型の脳が必要なのです。今ある数では全然、足りませぬ。少なくとも十億! 誤差の範囲を考慮に入れれば、五十億の原型の脳が必要なのです。それらを幾つもの惑星に配置させ、宇宙を観測させます。しかし、その観測は、妾の設定した新たな物理定数を引き寄せる観測でなければなりませぬ。そうすれば、数世紀……いや、数十世紀のうちには結果が現れるでしょう……。その宇宙は〝種族〟のみで構成された、原型を必要としない宇宙! 素晴らしいではありませんか! 衰えた古い種族である原型は滅び、我ら新たな〝種族〟が原型の手を借りずとも、超空間ジェネレーターを駆使できることになるのです!」
聞いているシルバーは、怒りが静かに満ちてくるのを感じていた。
「原型のいない宇宙……。《大校母》よ、それがお前の望みなのか?」
その時、管理センターの部下が計器を覗き込み、鋭く叫んだ。
「《大校母》さま! 岩の固まりの近くの空間に変化が! 超空間波が観測されます!」
「何だとっ!」
と、《大校母》とシルバーが同時に叫び返す。
《大校母》は悠揚と落ち着いている。
「そなたは〝ドレイクの方程式〟なる公式を、ご存知でしょうか?」
シルバーは「知らん!」と短く答えるのみだった。
「それは、このような方程式です」
《大校母》が合図すると、部下が空中に公式を表示させた。それは
N =[R*]×[fp]×[ne]×[fl]×[fi]×[fc]×[L]
というものだった。
「最初のNは、銀河系で存在する知的生命体による文明の数。つまり宇宙人の数です。もし、銀河系で存在する知的生命体が地球人のみなら、これは〝1〟となりましょう。その場合に重要なのは、最後の[L]なのです。これは存在する文明の存続時間を表します。すなわち文明の寿命! その他のパラメーターのほとんどは判明しておりますので、最初のNが1なら、最後のLもまた、自ずから導き出されます。その長さは約、一万年と算出されました」
シルバーは眉を寄せた。
「一万年……そいつは……」
《大校母》は重々しく頷く。
「そう……。地球人が文明らしきものを形にして、すでに一万年近くを経過しております。つまり、地球人の文明は寿命を迎えつつあるのです!」
シルバーは高笑いを上げる。
「ははははは! そうか、地球人の文明は、滅びの時期を迎えているのか! そいつは結構だ! しかし、人類は銀河系全部に殖民して、その数も誰にも数え切れないほどだ。一〇の十乗の、そのまた十乗の、さらに十乗を掛けて、そして……ええい! おれにも判らんくらい、人類というのはこの銀河系に蔓延っておる! それらが一斉に滅びると言うのかね? 馬鹿馬鹿しい!」
《大校母》は、あくまで冷静だった。
「〝ドレイクの方程式〟が発表されたとき、地球には原型しかいませんでした。超空間航法が発見され、銀河系に人類が次々と殖民するようになって〝種族〟が生まれたのです。すなわち、この公式で滅びる可能性があるのは、原型の地球人ということになります」
シルバーは口許の笑いを消した。
「原型が……?」
「そうです! 原型は現在、衰亡の真っ只中にいるのです。もし原型の人々がこの銀河系から姿を消したら、どうなるでしょう? 超空間ジェネレーターは、原型の人間にのみ、起動されます。もし原型が姿を消したら、超空間ジェネレーターは役立たずの、無用の長物と化すのです。そうなったら、銀河系を支配する無数の〝種族〟たちの危機です! それは、断固として防がなくてはなりませぬ。絶対に!」
シルバーは空中に投影されているホログラフィーに顎をしゃくる。
「それがこれと、どう関わるのだ?」
「超空間ジェネレーターは、なぜ原型にしか起動させることができないのでしょう? それは今の宇宙の物理定数が、原型の人間の観測によって生まれ出てきたと考えられているからです。宇宙の〝ビッグ・バン〟により最初の宇宙が誕生した瞬間、様々な物理定数は決定されましたが、それは元々、原型の人間が知性を持ち、宇宙を観測したことによる結果なのです。因果関係は、ここでは逆転しています。観測者がいなければ、宇宙は存在しない。その観測者は原型であるがゆえに、宇宙の物理定数は決まっている……。ならば、その観測者が変化すれば、宇宙の物理定数も変化するのではないか、というのが妾の予想でした」
シルバーは呆気に取られていた。
「そんな馬鹿な! 《大校母》。お前は神学論争どころか、完全な神秘主義に陥っているぞ! 正気じゃない……」
《大校母》はシルバーの非難に、まるで取り合おうとしない。それどころか、身内から湧き上がる使命感に溢れている。
「充分な数の原型の脳が必要なのです。今ある数では全然、足りませぬ。少なくとも十億! 誤差の範囲を考慮に入れれば、五十億の原型の脳が必要なのです。それらを幾つもの惑星に配置させ、宇宙を観測させます。しかし、その観測は、妾の設定した新たな物理定数を引き寄せる観測でなければなりませぬ。そうすれば、数世紀……いや、数十世紀のうちには結果が現れるでしょう……。その宇宙は〝種族〟のみで構成された、原型を必要としない宇宙! 素晴らしいではありませんか! 衰えた古い種族である原型は滅び、我ら新たな〝種族〟が原型の手を借りずとも、超空間ジェネレーターを駆使できることになるのです!」
聞いているシルバーは、怒りが静かに満ちてくるのを感じていた。
「原型のいない宇宙……。《大校母》よ、それがお前の望みなのか?」
その時、管理センターの部下が計器を覗き込み、鋭く叫んだ。
「《大校母》さま! 岩の固まりの近くの空間に変化が! 超空間波が観測されます!」
「何だとっ!」
と、《大校母》とシルバーが同時に叫び返す。
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