河童戦記

万卜人

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源二の巻

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「待て!」
 急いで甚助は制止した。
 山寺の屋根、煙り抜きに人影を認めていた。
 あれは……源二だ!
 手に弓を持っていた。
 源二は屋根に立ち上がり、きりきりきりと弓を引き絞る。
 一杯に引くと、
 ちょう!
 とばかりに一矢を放つ。
 次の瞬間、ぎゃあと叫び声を上げ、一人の男が仰け反った。胸に深々と矢が突き刺さっている。
 わっ、と男たちは浮き足立った。慌てて弓を取り、矢を番える。と思ったら、もう矢を放っている。矢はひょろひょろと飛んで、屋根に力なく突き刺さった。
 馬鹿者どもめが……。
 甚助は苦りきった。
 源二は屋根に上がっている。上から下へ矢を放てば威力も倍増する。反対に低いところから矢を放っても、中々命中するものではないことは、戦の常識だ。それくらい、知らぬ者がないのか?
 屋根の源二は次々と矢を番え、充分に引き絞ったところで放っている。放たれるたび、次々と悲鳴が上がる。
 その姿を見上げ、あらためて甚助は見惚れていた。
 さすがは、猿の源二! 敵ながら、天晴れである。
 しかし、ここは感心している場合でもない。甚助はそろりと立ち上がり、杉木立を楯に、じりじりと移動し始めた。
 源二の振る舞いに疑念が生じていた。
 あまりに派手すぎる。なにか、他の狙いがあるような……。
 ぐさりと突き刺さった敵の矢を、源二は掴むと弓に番えた。
 ぐっと引き絞り、放つ。
 上がる悲鳴。
「返し矢だ!」
「返し矢にやられた!」
 恐怖の声が上がる。
 古来、返し矢は、必ず命中する、恐るべき矢であると言われている。
 浮き足立つ連中の背後から甚助は叫んだ。
「火矢を放て!」
 甚助の声で、男たちは救われたように火矢の用意を始めた。
 屋根の源二が叫ぶ。
「甚助、やはり、お前か!」
 甚助を狙って弓を引き絞った。
 かつ! と、甚助の隠れている杉の幹に矢が突き刺さった。一瞬、甚助が頭を下げなかったら殺られていたところだ。
 へっ、と甚助はあざ笑った。
 もう源二の手に矢は尽きている。返し矢をしたのが、その証拠だ。
 だが、源二はまだ奥の手を持っていた。
 懐に手を入れる。
 なにをするつもりだ?
 と、源二は懐のなにかを手に一杯に掴み、ぱっと空中に投げ上げた。
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