河童戦記

万卜人

文字の大きさ
110 / 124
御門の巻

しおりを挟む
「あれは何でしょう?」
「〈御門〉だ。どうやら、あれが〈御門〉の正体らしいな」
 会話をしているのは、松田玲子大尉と、吉村啓介中佐の二人である。この騒ぎに二人は〈南蛮茶店〉の二階から外へ飛び出し、御所の騒ぎを見に来たのだった。二人とも南蛮人としての変装は忘れている。
「あの黒雲が、ですか? とても人間には見えませんが」
「監察宇宙軍の情報部から、さっき連絡があった。それによると〈御門〉は、殖民船の記憶装置に転写された擬似人格らしい。殖民船から外へ出るため、あのような身体を必要としたのだろう」
「あれが──ですか? いったい、あれは何です?」
極小構成単位ナノ・マシーン反復部分集合フラクタル構造体だ。部分が全体を現し、全体は部分でもある……実に巧妙な設計だ!」
 その時、二輪車の爆音いななきが近づいてきて、二人は騒音の方向に目を向けた。跨っているのは、木戸甚左衛門だ。
 甚左衛門は大尉と中佐に気付き、二輪車を止めて声を掛ける。
「お二人さん、いったいこんなところで何しているんだ?」
 中佐は大声を上げた。
「あんたこそ! 例の南蛮人のことは、どうなった?」
「それどころじゃないっ! あれの……」と甚左衛門は顎で黒雲を指し示す。
「おかげで、てんやわんや、天手鼓舞トレメンダス・ダンシングの大騒ぎさ。上総ノ介の部下が大分やられちまったらしい。ありゃ、なんだ?」
「どうやら、あれが〈御門〉の正体らしい。御所から這い出してきたのだ」
 中佐の言葉を聞いた甚左衛門は、ごくり、と唾を呑みこんだ。一瞬、狡猾そうな表情が浮かぶ。
「そうか……そんなこっちゃないかと思っていたがね……とすると、だ。御所は空っぽってわけか?」
 甚左衛門の表情に気付かず、中佐は無意識に返事をしていた。
「ああ……そうだろうな。どうやら〈御門〉は、殖民船の機構を利用していたらしいが……」
 中佐の言葉に、甚左衛門は敏感に反応した。
「殖民船?」
「言ってなかったかな。あの〈御舟〉と呼ばれるものが、この星に最初に舞い降りた殖民船なんだよ」
「なんとっ!」
 甚左衛門の顔が興奮で真赤に染まる。頬の傷跡だけが、白く浮かび上がった。
「そうかっ! 有り難しっ!」
 言い終わるや否や、甚左衛門は二輪車の梶棒をぐいっと回し、その場で旋回して、御所へ突っ込んでいった。
 大尉と中佐は呆気に取られ、甚左衛門の背中を見送っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

処理中です...