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第五話 狂熱のシリーズ構成
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三人は思わず顔を見合わせる。市川は、自分の言葉に、不意に不安が込み上げるのを感じた。
「そうだよ……。おれたち、この町の地理についちゃ、何にも知らないんだ」
その時、甲高い子供の声がして、全員ギョッとなった。
「親爺さん!」
明らかに、山田に向けて掛けられた言葉だ。山田は当惑したように、きょろきょろと辺りを見回す。通行人を掻き分け、一人の少年が真っ直ぐ走ってくる。
「ああ……、ありゃ、最初の酒場にいた、ボーイじゃないか!」
市川は少年の顔を見て、思い出した。名前は確か「ランス」といったはずだ。山田の役割は酒場の親爺で、ランス少年は孤児という設定だ。山田も少年の顔を見て、思い出したようだった。
少年は山田に駆け寄ると、心配そうな表情を浮かべ、口を開いた。
「親爺さん。どうしちゃったんです? 昨夜、いきなり消えちまって……。心配したんですよ!」
山田は無言で首の後ろを撫でていた。どう答えていいか、迷っているらしい。
やがて大きく息を吸うと、少年に話し掛けた。
「いや、済まんな。実は、ちょっと一言では説明できないんだが、おれはこの二人と王宮へ出かけ、兵士募集に応じようと思っている」
少年の瞳が、驚きにまん丸になった。
「本気ですか? 親爺さん。店はどうするんです?」
山田は探り探り、といった口調になった。
「店は……ああ、お前に任せるよ。ええと、店には……調理人が他にもいる……よな?」
ランス少年はあやふやに頷く。
「そりゃあ、ベータさんもいるし、アルファ姐さんだって……。でも、親爺さんの店なんですよ。それを放り出してだなんて!」
ベータにアルファか……。なんて適当な命名なんだ!
市川は心中、密かに呆れ果てた。名前の出た二人については、市川は心当たりはない。多分、名前だけの存在なのだ。
真剣に山田の顔を見上げている少年を見ているうち、市川の頭上に電球が点った。市川は素早く視線を上げ、自分の頭上に点っている電球を確認した。アニメの……いや漫画の、名案が閃いた時の表現だ!
「ランス……」
市川に声を掛けられ、少年は吃驚したような目を向ける。
「おれたち、この町……なんだっけ?」と市川は山田に質問の矛先を向ける。山田は短く「ドーデン」と答えた。
ああ、そうだった、と市川は小さく笑う。自分は作画監督のせいか、町の名前とか、建物の名前は覚えにくい。キャラクターの名前ならすぐ覚えるのだが。
山田は美術設定をしているから、地名や建物の名称はすぐに出てくるのだ。市川は再び少年に向かって話し掛けた。
「おれたち、このドーデンの町についちゃ、さっぱり不案内なんだ。それで、君に案内して貰えないかと……」
こっそり山田を見ると「それ、いい考えだぞ!」とニッコリしている。市川は期待を込めて言葉を続けた。
「君、王宮への道案内、できるかな?」
ランス少年は不審そうな顔を山田に向けた。なぜ山田が道案内しないのだろうと思っているのだ。しかし山田は、すっ呆けて頷く。
「ランス。頼む」
山田にまともに頼まれ、ランスは素直に頷いた。中々、性格の良い子供のようだ。
「判りました、こっちです!」
くるりと背を向け、小走りに道案内を買って出てくれる。三人は意気揚々と、ランスの後に従った。
「そうだよ……。おれたち、この町の地理についちゃ、何にも知らないんだ」
その時、甲高い子供の声がして、全員ギョッとなった。
「親爺さん!」
明らかに、山田に向けて掛けられた言葉だ。山田は当惑したように、きょろきょろと辺りを見回す。通行人を掻き分け、一人の少年が真っ直ぐ走ってくる。
「ああ……、ありゃ、最初の酒場にいた、ボーイじゃないか!」
市川は少年の顔を見て、思い出した。名前は確か「ランス」といったはずだ。山田の役割は酒場の親爺で、ランス少年は孤児という設定だ。山田も少年の顔を見て、思い出したようだった。
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「親爺さん。どうしちゃったんです? 昨夜、いきなり消えちまって……。心配したんですよ!」
山田は無言で首の後ろを撫でていた。どう答えていいか、迷っているらしい。
やがて大きく息を吸うと、少年に話し掛けた。
「いや、済まんな。実は、ちょっと一言では説明できないんだが、おれはこの二人と王宮へ出かけ、兵士募集に応じようと思っている」
少年の瞳が、驚きにまん丸になった。
「本気ですか? 親爺さん。店はどうするんです?」
山田は探り探り、といった口調になった。
「店は……ああ、お前に任せるよ。ええと、店には……調理人が他にもいる……よな?」
ランス少年はあやふやに頷く。
「そりゃあ、ベータさんもいるし、アルファ姐さんだって……。でも、親爺さんの店なんですよ。それを放り出してだなんて!」
ベータにアルファか……。なんて適当な命名なんだ!
市川は心中、密かに呆れ果てた。名前の出た二人については、市川は心当たりはない。多分、名前だけの存在なのだ。
真剣に山田の顔を見上げている少年を見ているうち、市川の頭上に電球が点った。市川は素早く視線を上げ、自分の頭上に点っている電球を確認した。アニメの……いや漫画の、名案が閃いた時の表現だ!
「ランス……」
市川に声を掛けられ、少年は吃驚したような目を向ける。
「おれたち、この町……なんだっけ?」と市川は山田に質問の矛先を向ける。山田は短く「ドーデン」と答えた。
ああ、そうだった、と市川は小さく笑う。自分は作画監督のせいか、町の名前とか、建物の名前は覚えにくい。キャラクターの名前ならすぐ覚えるのだが。
山田は美術設定をしているから、地名や建物の名称はすぐに出てくるのだ。市川は再び少年に向かって話し掛けた。
「おれたち、このドーデンの町についちゃ、さっぱり不案内なんだ。それで、君に案内して貰えないかと……」
こっそり山田を見ると「それ、いい考えだぞ!」とニッコリしている。市川は期待を込めて言葉を続けた。
「君、王宮への道案内、できるかな?」
ランス少年は不審そうな顔を山田に向けた。なぜ山田が道案内しないのだろうと思っているのだ。しかし山田は、すっ呆けて頷く。
「ランス。頼む」
山田にまともに頼まれ、ランスは素直に頷いた。中々、性格の良い子供のようだ。
「判りました、こっちです!」
くるりと背を向け、小走りに道案内を買って出てくれる。三人は意気揚々と、ランスの後に従った。
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