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第十話 リテーク出しの逆襲!
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行きはゆっくりだったが、帰りはあっという間だった。悪魔に急き立てられているかのように、新庄は無茶苦茶に鞭を振り回し、遠慮会釈なく、馬の尻を激しく叩く。
白目を剥き出し、口からは泡を噴き出して、馬は全力で走っていく。馬車の内部は、がたごとと前後左右、上下に揺さぶられ、市川は必死になって内部の吊り革に縋りついた。
騎馬隊長が、市川が担ぎ込んだマントの中身に注意を向けた。捲り上げ、驚きの声を上げる。
「なんと! エリカ姫ではないか! 人質にしたのだな?」
騎馬隊長の賛辞の声に、市川は軽く頷いた。本当は人質にするつもりはない。しかし、今は、隊長の勘違いを正すつもりはなかった。
城下町の緩やかな坂道を下り、不意に視界が開け、目の前に草原が広がる。
緑の絨毯に、細長いドーデン帝国の紋章をつけた、巨大な飛行船が横たわっている。風に動かされないよう、船首と船尾から、地面に繋留索が地面に突き刺さっている。
馬車が停止すると、騎馬隊長は部下を叱咤し、大急ぎで繋留索を地面から引き抜く作業に入った。
市川は馬車から地面に飛び降り、バートル国の王宮を見やった。城下町に続く道から、追撃の部隊が迫ってきている。
追撃部隊は、重装騎兵だった。甲冑つきの乗馬に、跨る騎兵もまた分厚い装甲の鎧に全身を固めている。手にしているのは、巨大な槍で、全員が頑丈そうな盾を持っている。
騎兵の後ろから、奇妙な一団が追走してくる。杖を手にし、身に纏っているのは、頭巾つきの、真っ黒なマントである。こちらも乗馬だったが、装甲のない、裸馬である。
あの一団は、自分がキャラクター設定したものだ。もし、設定が、変更されていないのなら、ちょっとヤバイ……!
市川は山田に声を掛けた。
「なあ、山田さん。バートル国の設定をやるとき、魔法が使える設定にした、って言っていたよな? あいつら、おれの設定した魔法使いたちだぞ。本当に魔法が使えるのか?」
山田は呆然と、市川の見ている先を注目して、頷いていた。
「ああ、確かに魔法が使える設定にしようと、おれは言った。だけど、そりゃ設定だけだぞ。木戸さんが、おれの設定を採用するとは限らない……。第一、ドーデン国の科学技術と、魔法がどう両立するんだ?」
言い合いするうち、バートル国の軍団は急接近してくる。作業を続けている騎馬隊長は、迫ってくる敵兵に、歯を剥き出し、唸った。
「きゃつら! 戦うつもりか? 全員、迎撃の用意──っ!」
作業を続けている兵士を残し、他の騎馬隊の兵士は、飛行船の後甲板に殺到した。
後甲板の扉が開くと、内部にずらりと二輪車が整列している。
騎馬隊とはいえ、通常の装備は、二輪車を馬替わりとしている。本物の馬を、飛行船に乗船させるわけには行かない。馬はひどく敏感な生き物で、飛行船に乗せて運ぶのは、実に困難である。
ばりばりばり! と、けたたましい騒音を撒き散らし、二輪車の群れが飛行船の甲板から飛び出した。
ドーデン帝国では、蒸気機関が主流であるが、二輪車は内燃機関を使っている。というより、市川がそう設定したのである。
サイド・バルブの4ストローク・エンジン。単気筒五百㏄。点火方式は白金プラグの常時点火を採用している。エンジン形式は、十九世紀末にしては進歩しすぎである。が、そこは目を瞑ってご勘弁を願いたい。
二輪車の爆音に、バートル国の騎馬は足並みを乱した。薄青い排気を棚引かせ、二輪車の列は急角度で騎馬隊の前面を横切る。
馬は一斉に驚き、棹立ちになった。騎馬隊長は勝利感に、目を煌かせる。
「抜刀──っ!」
隊長の号令に、全員が剣を抜き放つ。日差しを、刀身がきらきらと眩しく反射した。
二輪車部隊の中には、側車をつけたサイド・カーも含まれている。サイド・カーに座った兵士は、歩兵銃を構えた。
どかーんっ! と、吃驚するほど巨大な銃声が響き渡り、バートル国の重装騎兵に向かって放たれる。音の割りに、銃弾はそれほど威力は無さそうで、敵騎兵の分厚い装甲は、弾を弾き返した。
が、頭部を銃撃された兵士は、衝撃で脳味噌が揺すぶられたのか、くらくらっと眩暈を起こしたように落馬してしまった。跳ね返したとしても、衝撃はかなりあると見え、敵は怯んでいる。
バートル国の騎兵は銃を装備していない。一方的な戦いになるかと思われたが、後方に控えていたマントの一団が奇妙な手つきを始めた。
指先を開き、頭巾に覆われた奥の眼差しは鋭かった。口許が動き、何やらぶつぶつと呟いているようである。
全員、杖を持っている。杖の握りには、大きな宝石が埋め込まれていた。その宝石が、燦然とした光を放った!
轟っ──!
宝石の内部から、何かエネルギーが放たれ、空中をオレンジ色の火球が飛んだ。
火球は空中を真っ直ぐ飛ぶと、ドーデン側の地面に突き刺さるように落下する。
ぐおおおっ! と、地面に落下した火球が膨れ上がり、ドーデン騎兵隊を薙いだ。見守る市川まで熱波が達した。気のせいか、眉毛がちりちりと焦げるようだった。
わあっ! と悲鳴を上げ、二輪車を操縦していた騎馬隊の兵士が火達磨になった。
別の杖を持つマントの男が、再び杖を振るう。
ばりばりばりっ! と、杖の先端から紫電が放出され、オゾンの匂いが、つん、と鼻腔を抉る。
味方は、瞬時に大混乱に陥った!
白目を剥き出し、口からは泡を噴き出して、馬は全力で走っていく。馬車の内部は、がたごとと前後左右、上下に揺さぶられ、市川は必死になって内部の吊り革に縋りついた。
騎馬隊長が、市川が担ぎ込んだマントの中身に注意を向けた。捲り上げ、驚きの声を上げる。
「なんと! エリカ姫ではないか! 人質にしたのだな?」
騎馬隊長の賛辞の声に、市川は軽く頷いた。本当は人質にするつもりはない。しかし、今は、隊長の勘違いを正すつもりはなかった。
城下町の緩やかな坂道を下り、不意に視界が開け、目の前に草原が広がる。
緑の絨毯に、細長いドーデン帝国の紋章をつけた、巨大な飛行船が横たわっている。風に動かされないよう、船首と船尾から、地面に繋留索が地面に突き刺さっている。
馬車が停止すると、騎馬隊長は部下を叱咤し、大急ぎで繋留索を地面から引き抜く作業に入った。
市川は馬車から地面に飛び降り、バートル国の王宮を見やった。城下町に続く道から、追撃の部隊が迫ってきている。
追撃部隊は、重装騎兵だった。甲冑つきの乗馬に、跨る騎兵もまた分厚い装甲の鎧に全身を固めている。手にしているのは、巨大な槍で、全員が頑丈そうな盾を持っている。
騎兵の後ろから、奇妙な一団が追走してくる。杖を手にし、身に纏っているのは、頭巾つきの、真っ黒なマントである。こちらも乗馬だったが、装甲のない、裸馬である。
あの一団は、自分がキャラクター設定したものだ。もし、設定が、変更されていないのなら、ちょっとヤバイ……!
市川は山田に声を掛けた。
「なあ、山田さん。バートル国の設定をやるとき、魔法が使える設定にした、って言っていたよな? あいつら、おれの設定した魔法使いたちだぞ。本当に魔法が使えるのか?」
山田は呆然と、市川の見ている先を注目して、頷いていた。
「ああ、確かに魔法が使える設定にしようと、おれは言った。だけど、そりゃ設定だけだぞ。木戸さんが、おれの設定を採用するとは限らない……。第一、ドーデン国の科学技術と、魔法がどう両立するんだ?」
言い合いするうち、バートル国の軍団は急接近してくる。作業を続けている騎馬隊長は、迫ってくる敵兵に、歯を剥き出し、唸った。
「きゃつら! 戦うつもりか? 全員、迎撃の用意──っ!」
作業を続けている兵士を残し、他の騎馬隊の兵士は、飛行船の後甲板に殺到した。
後甲板の扉が開くと、内部にずらりと二輪車が整列している。
騎馬隊とはいえ、通常の装備は、二輪車を馬替わりとしている。本物の馬を、飛行船に乗船させるわけには行かない。馬はひどく敏感な生き物で、飛行船に乗せて運ぶのは、実に困難である。
ばりばりばり! と、けたたましい騒音を撒き散らし、二輪車の群れが飛行船の甲板から飛び出した。
ドーデン帝国では、蒸気機関が主流であるが、二輪車は内燃機関を使っている。というより、市川がそう設定したのである。
サイド・バルブの4ストローク・エンジン。単気筒五百㏄。点火方式は白金プラグの常時点火を採用している。エンジン形式は、十九世紀末にしては進歩しすぎである。が、そこは目を瞑ってご勘弁を願いたい。
二輪車の爆音に、バートル国の騎馬は足並みを乱した。薄青い排気を棚引かせ、二輪車の列は急角度で騎馬隊の前面を横切る。
馬は一斉に驚き、棹立ちになった。騎馬隊長は勝利感に、目を煌かせる。
「抜刀──っ!」
隊長の号令に、全員が剣を抜き放つ。日差しを、刀身がきらきらと眩しく反射した。
二輪車部隊の中には、側車をつけたサイド・カーも含まれている。サイド・カーに座った兵士は、歩兵銃を構えた。
どかーんっ! と、吃驚するほど巨大な銃声が響き渡り、バートル国の重装騎兵に向かって放たれる。音の割りに、銃弾はそれほど威力は無さそうで、敵騎兵の分厚い装甲は、弾を弾き返した。
が、頭部を銃撃された兵士は、衝撃で脳味噌が揺すぶられたのか、くらくらっと眩暈を起こしたように落馬してしまった。跳ね返したとしても、衝撃はかなりあると見え、敵は怯んでいる。
バートル国の騎兵は銃を装備していない。一方的な戦いになるかと思われたが、後方に控えていたマントの一団が奇妙な手つきを始めた。
指先を開き、頭巾に覆われた奥の眼差しは鋭かった。口許が動き、何やらぶつぶつと呟いているようである。
全員、杖を持っている。杖の握りには、大きな宝石が埋め込まれていた。その宝石が、燦然とした光を放った!
轟っ──!
宝石の内部から、何かエネルギーが放たれ、空中をオレンジ色の火球が飛んだ。
火球は空中を真っ直ぐ飛ぶと、ドーデン側の地面に突き刺さるように落下する。
ぐおおおっ! と、地面に落下した火球が膨れ上がり、ドーデン騎兵隊を薙いだ。見守る市川まで熱波が達した。気のせいか、眉毛がちりちりと焦げるようだった。
わあっ! と悲鳴を上げ、二輪車を操縦していた騎馬隊の兵士が火達磨になった。
別の杖を持つマントの男が、再び杖を振るう。
ばりばりばりっ! と、杖の先端から紫電が放出され、オゾンの匂いが、つん、と鼻腔を抉る。
味方は、瞬時に大混乱に陥った!
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