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番宣・その五
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いよいよ最終話だ!
木戸は感慨深く、「最終話」と大書きされた絵コンテ用紙に向かい合った。
さらさらと鉛筆が走り、絵コンテが描画されていく。すでに木戸の脳裏には、最終話についての細かな場面がびっしりと詰め込まれていた。あとは頭の中の画面を、絵コンテ用紙に書き写すだけである。
と、鉛筆の動きが止まった。
木戸の顔が上がり、机に貼られた「蒸汽帝国」のキャラクター表に向かった。
視線は、どうしてもエリカ姫のキャラクターに吸いつけられる。木戸が若き頃、恋した田中絵里香そっくりのキャラクターである。木戸は今でも、恋心に胸を焦がしている。
エリカ姫の隣には、主要登場人物のキャラクター。市川、三村、山田、新庄、洋子そっくりのキャラクターが貼られている。
それを眺め、木戸の疑念は確信に変わっていた。
あいつら「蒸汽帝国」の世界で、楽しく冒険をしてやがるんだ。おれは、あいつらの行動を、丸ごと書き写しているだけなんだ!
おれの絵里香と一緒に!
ぎりぎりと木戸は鉛筆を握りしめた。
何としても、絵里香に会いたい! おれには、その権利がある。なぜなら、エリカ姫のキャラクターは、木戸のデザインなのだ。
木戸の思考が、猛烈に回転した。
ある考えが、じんわりと浮かんでくる。
あいつらが「蒸汽帝国」の世界に呼び寄せられたのなら、おれだって飛び込める可能性があるのではないか……。無茶な考えだとは重々承知しているが、今の現状も、狂っているには違いない。
狂気には、狂気だ!
木戸は今まで書き上げた絵コンテ用紙をぐしゃぐしゃと手の中に握り潰し、ぽいと屑篭に投げ捨てた。
新たな一枚を取り上げ、鉛筆を握る。
頭の中の画面を振り払い、木戸は自分自身のアイディアを捻り出す。初めてのオリジナル展開に、木戸の脳味噌は絞り上げられ、悲鳴を訴えていた。
が、やるしかない!
──何をおっぱじめるつもりなんや……。
木戸は、ぎくりと身を強張らせる。
〝声〟だ!
このところ、さっぱり話しかけてこなかったが、〝声〟が木戸を監視しているのは、はっきりと感じていた。
木戸が自分の考えで絵コンテを進め始め、泡を食ったのだろう。
──やめなはれ! あんたは、そんなガラじゃおまへんで……。素直に、最初のストーリー通りに描けばよろしいのや! あんたには、オリジナルのストーリーを作り出す能力は、これっぽちもあらへんのや!
「うるせえ……」
木戸は低く唸り声を上げた。歯を食い縛り、悪戦苦闘しつつ、絵コンテ用紙を自分の中から湧き出てきたカットで埋めていく。
完全に自分のアイディアだけで場面を思い浮かべるという作業に、木戸の額からびっしりと汗が噴き出る。
背を丸め、机に齧りつくようにして、木戸は鉛筆の先をごりごりと彫りこむように、絵コンテ用紙に押しつけた。
力を込めすぎ、何度も鉛筆の先が折れた。折れると、鉛筆削りにがりがりと先を突っ込んで尖らせ、再び仕事を続ける。
数カットを描いただけで、先が続かず、作業は何度も中断された。
が、木戸は諦めず、絵コンテを書き進めていた。
もはや執念のみが、木戸の指先を動かしていた。
木戸は感慨深く、「最終話」と大書きされた絵コンテ用紙に向かい合った。
さらさらと鉛筆が走り、絵コンテが描画されていく。すでに木戸の脳裏には、最終話についての細かな場面がびっしりと詰め込まれていた。あとは頭の中の画面を、絵コンテ用紙に書き写すだけである。
と、鉛筆の動きが止まった。
木戸の顔が上がり、机に貼られた「蒸汽帝国」のキャラクター表に向かった。
視線は、どうしてもエリカ姫のキャラクターに吸いつけられる。木戸が若き頃、恋した田中絵里香そっくりのキャラクターである。木戸は今でも、恋心に胸を焦がしている。
エリカ姫の隣には、主要登場人物のキャラクター。市川、三村、山田、新庄、洋子そっくりのキャラクターが貼られている。
それを眺め、木戸の疑念は確信に変わっていた。
あいつら「蒸汽帝国」の世界で、楽しく冒険をしてやがるんだ。おれは、あいつらの行動を、丸ごと書き写しているだけなんだ!
おれの絵里香と一緒に!
ぎりぎりと木戸は鉛筆を握りしめた。
何としても、絵里香に会いたい! おれには、その権利がある。なぜなら、エリカ姫のキャラクターは、木戸のデザインなのだ。
木戸の思考が、猛烈に回転した。
ある考えが、じんわりと浮かんでくる。
あいつらが「蒸汽帝国」の世界に呼び寄せられたのなら、おれだって飛び込める可能性があるのではないか……。無茶な考えだとは重々承知しているが、今の現状も、狂っているには違いない。
狂気には、狂気だ!
木戸は今まで書き上げた絵コンテ用紙をぐしゃぐしゃと手の中に握り潰し、ぽいと屑篭に投げ捨てた。
新たな一枚を取り上げ、鉛筆を握る。
頭の中の画面を振り払い、木戸は自分自身のアイディアを捻り出す。初めてのオリジナル展開に、木戸の脳味噌は絞り上げられ、悲鳴を訴えていた。
が、やるしかない!
──何をおっぱじめるつもりなんや……。
木戸は、ぎくりと身を強張らせる。
〝声〟だ!
このところ、さっぱり話しかけてこなかったが、〝声〟が木戸を監視しているのは、はっきりと感じていた。
木戸が自分の考えで絵コンテを進め始め、泡を食ったのだろう。
──やめなはれ! あんたは、そんなガラじゃおまへんで……。素直に、最初のストーリー通りに描けばよろしいのや! あんたには、オリジナルのストーリーを作り出す能力は、これっぽちもあらへんのや!
「うるせえ……」
木戸は低く唸り声を上げた。歯を食い縛り、悪戦苦闘しつつ、絵コンテ用紙を自分の中から湧き出てきたカットで埋めていく。
完全に自分のアイディアだけで場面を思い浮かべるという作業に、木戸の額からびっしりと汗が噴き出る。
背を丸め、机に齧りつくようにして、木戸は鉛筆の先をごりごりと彫りこむように、絵コンテ用紙に押しつけた。
力を込めすぎ、何度も鉛筆の先が折れた。折れると、鉛筆削りにがりがりと先を突っ込んで尖らせ、再び仕事を続ける。
数カットを描いただけで、先が続かず、作業は何度も中断された。
が、木戸は諦めず、絵コンテを書き進めていた。
もはや執念のみが、木戸の指先を動かしていた。
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それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
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