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サンディ
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新聞社に、ミリィを攫った空飛ぶ白球のことについて、広告を頼んで数日たった。
新聞に、記事が掲載されるのはまださきのことというので、その間、パックはせっせと街へムカデでくりだし、人々に聞いて回ることにした。ロボットのマリアを乗せたパックのムカデは、いつでも街の注目を浴びていた。
サンディもくっついてくる。
彼女は街のあれこれが珍しく、なにか目にとまるとパックに尋ねる。
「ね、あれはなに?」
「あれって、なんだい」
「ほら、鉄の柱にくっついているガラスの……」
「街灯だよ」
「街灯ってなあに?」
「だから、夜になるとあれが光るんだ」
そう説明してやると、サンディはああ、とうなずいた。
「あれがそうなの。夜になると街のなかでともって、とても綺麗だと思っていたの。そうか、街灯っていうのね」
「夜になるとって……家から見えたのかい」
「そうよ、窓から街が見渡せて……」
サンディははっ、と口をつぐんだ。喋りすぎた、といった様子だ。
「ねえ、きみの家はどこにあるんだい?」
そう尋ねたパックに、サンディは顔を真っ赤にさせそっぽを向いた。
家のことについて話題を向けると、かならず彼女は話したくないという素振りを見せることにパックは気づいていた。
まあいい、とパックはここは引くことにした。無理押しはよくない。
こうして街に繰り出し、人々に聞いて回る日々が続くが、はかばかしい成果はあがってこなかった。
人々はパックの運転するムカデに興味をしめすが、パックの質問には、みな一様に首をふった。
だんだん、パックはこのボーラン市にいても、ミリィの行方について、手がかりを得ることは無理なんじゃないかと思い始めてきた。
やっぱり黙ってでも、ひとりで北の方向へ進んだほうが良いのかも。
と、いきなりサンディが大声をあげた。
「ねえ、パック! あれ、あれを見て!」
なんだと目をやると、壁になにかポスターが貼られている。それをサンディは夢中になって指さしている。
ムカデを止め、よく見るとサーカス団の宣伝だ。
〝近日中、キオのサーカス団来演〟
とある。
サーカス団の名前なのか、おおきく「キオ」とあり、空中ブランコや、ライオンの火の輪くぐり、ピエロのおどけた仕草などの絵が、極彩色で描かれている。見ているだけで、わくわくしそうな絵柄である。
「ねっ、サーカス団よ! 見て見て!」
「わかってるよ、それが何か?」
気のないパックの返事に、サンディは信じられないというように首をふった。
「あたし、一度で良いからサーカスを見たいと思っていたの。ね、サーカスが来たら一緒に見に行かない?」
パックはあきれた。
まったくこのサンディという女の子は天真爛漫というか、能天気というか……。
「そんな暇ないよ。おれはとにかくミリィの行方を捜す方法がないか、それしか考えられないんだ」
「あら、サーカスにはいろんなお客がくるのよ。その人たちに、なにか知っているか聞いてみるのは無駄じゃないと思うんだけど」
彼女の提案に、パックはあ! と思った。
そうか……。
パックはポスターを真剣に見つめていた。
新聞に、記事が掲載されるのはまださきのことというので、その間、パックはせっせと街へムカデでくりだし、人々に聞いて回ることにした。ロボットのマリアを乗せたパックのムカデは、いつでも街の注目を浴びていた。
サンディもくっついてくる。
彼女は街のあれこれが珍しく、なにか目にとまるとパックに尋ねる。
「ね、あれはなに?」
「あれって、なんだい」
「ほら、鉄の柱にくっついているガラスの……」
「街灯だよ」
「街灯ってなあに?」
「だから、夜になるとあれが光るんだ」
そう説明してやると、サンディはああ、とうなずいた。
「あれがそうなの。夜になると街のなかでともって、とても綺麗だと思っていたの。そうか、街灯っていうのね」
「夜になるとって……家から見えたのかい」
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サンディははっ、と口をつぐんだ。喋りすぎた、といった様子だ。
「ねえ、きみの家はどこにあるんだい?」
そう尋ねたパックに、サンディは顔を真っ赤にさせそっぽを向いた。
家のことについて話題を向けると、かならず彼女は話したくないという素振りを見せることにパックは気づいていた。
まあいい、とパックはここは引くことにした。無理押しはよくない。
こうして街に繰り出し、人々に聞いて回る日々が続くが、はかばかしい成果はあがってこなかった。
人々はパックの運転するムカデに興味をしめすが、パックの質問には、みな一様に首をふった。
だんだん、パックはこのボーラン市にいても、ミリィの行方について、手がかりを得ることは無理なんじゃないかと思い始めてきた。
やっぱり黙ってでも、ひとりで北の方向へ進んだほうが良いのかも。
と、いきなりサンディが大声をあげた。
「ねえ、パック! あれ、あれを見て!」
なんだと目をやると、壁になにかポスターが貼られている。それをサンディは夢中になって指さしている。
ムカデを止め、よく見るとサーカス団の宣伝だ。
〝近日中、キオのサーカス団来演〟
とある。
サーカス団の名前なのか、おおきく「キオ」とあり、空中ブランコや、ライオンの火の輪くぐり、ピエロのおどけた仕草などの絵が、極彩色で描かれている。見ているだけで、わくわくしそうな絵柄である。
「ねっ、サーカス団よ! 見て見て!」
「わかってるよ、それが何か?」
気のないパックの返事に、サンディは信じられないというように首をふった。
「あたし、一度で良いからサーカスを見たいと思っていたの。ね、サーカスが来たら一緒に見に行かない?」
パックはあきれた。
まったくこのサンディという女の子は天真爛漫というか、能天気というか……。
「そんな暇ないよ。おれはとにかくミリィの行方を捜す方法がないか、それしか考えられないんだ」
「あら、サーカスにはいろんなお客がくるのよ。その人たちに、なにか知っているか聞いてみるのは無駄じゃないと思うんだけど」
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そうか……。
パックはポスターを真剣に見つめていた。
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