蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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侵攻

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 ロロ村が見えてくると、ホルンの胸騒ぎはおさまった。
 よかった、まだロロ村には共和国軍は進攻していないようだ。
 自分の家に馬車を止めさせ、荷物を運び入れていると、ブルンが例の蒸気トラクターを運転してきた。あいかわらず息子のダストンが旗をふって先導している。ブルンはホルンの姿を認めると、あわててトラクターを停車させた。
「ホルン、帰ってきたか!」
「やあ、ブルン。久しぶりだな」
「噂じゃ、総督府への道が帝国軍によって通行止めになっているということだが、通れたのかね?」
「いや、噂じゃない。本当だ。総督府には行けないよ。おれは裏道を通ってきたんだ。それに通行止めしているのは帝国軍じゃない。共和国軍だ」
 ホルンの言葉にブルンは目を丸くした。
「共和国軍?」
「そうだ、総督府に旗が揚がっていた。おそらく共和国軍の連中は、帝国の武器、弾薬を奪うために襲ったんだろう。これから村の連中を集めてくれないか。対策を協議しないといかん」
「対策?」
「そうだ、いつ共和国の連中がこっちに来ないとも限らん。もしそうなったら、どうするかみなで考えないと」
 ブルンは口をすぼめた。
「物騒な話しだな」
 よしきた、とブルンは胸を張り、トラクターを再び動かし始めた。
 しゅっ、しゅっと蒸気の音を立てトラクターが遠ざかると、ホルンはメイサの家のドアをノックした。
 かちゃり、と音がしてドアが開き、メイサが顔を見せた。
 ホルンはメイサの顔を見て痛ましく思った。
 メイサはすっかりやつれ、こころなしかふくよかな顔もやせて見える。
 ホルンの顔を見上げ、彼女の顔に一瞬希望のひかりがさした。
「あの……ミリィは?」
 ホルンは首をよこにふった。
「いいや、まだだ。しかし手がかりはつかめた」
 メイサはホルンの背後を確かめた。
「そう、パックは一緒じゃないの?」
「ああ。パックはミリィを探すために、ボーラン市に残った。仕事を見つけ、金をためたらミリィを探す旅に出るつもりだ」
 そう……と、メイサは肩を落とした。
 ホルンはメイサの肩をつかんだ。
「元気を出せ! きっとパックはミリィを連れて帰ってくるよ」
 触れたメイサの肩がやせて、手に骨の感触がはっきり伝わった。
「ありがとう……」
 ぼそりとつぶやくと、メイサは家の中へ戻っていった。
 ドアが閉まり、ホルンは首をふった。
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