蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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総督府

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 翌日、ギャンの案内で内務大臣、陸軍、海軍両大臣がテスラ博士の研究室に招待された。
 研究室に入った三人は、目の前の光景にあっけにとられていた。
「これが……そうか……」
 あまりの驚きに、言葉も出ない。
 それは巨大な人型の機械であった。つまりロボットである。
 身長五メートルはあるだろうか。
 どっしりとした足は大地を踏みしめ、長い両腕は金属の輝きに照明を跳ね返している。
「まだ試作品だがな……動作は保証するよ」
 テスラ博士は誇らしげに自分の作品を手の平で叩いた。ぱんぱんという金属特有の反響音が研究室にひびいた。
 その人型の兵器は恐ろしげな印象をあたえるよう、デザインも工夫されている。手首にはごつごつとした棘のついたリングをはめ、顔はいかつくどことなくゴリラを思わせる。
「動かしてみましょうか?」
 そう言いながらギャンは梯子をかけ、ロボットの胸にのぼった。胸の前が両側に扉のように開き、内部に人間が乗り込めるような座席が出現した。ギャンはその座席にのぼり、ベルトをかけた。
 胸の扉が閉まるが、視界が確保されるよう覗き窓がついている。その窓からギャンは首をつきだした。
「少しさがっててください」
 その声に、全員あわてて後ずさる。
 ぶるるるるん……。
 エンジンの始動音がして、ロボットの関節からしろい蒸気がふきだした。
 しゅっ、しゅっ、しゅっ!
 ばしゅーっ!
 もうもうと蒸気が湧き出し、みなわっと驚きの声をあげた。
 ぶるぶる……とロボットの全身が震えだした。
 ぐっと片足をあげ、一歩踏み出した。
 ずしいぃん……!
 もう一歩!
 ずしいぃん……!
 踏み出すたび、地響きがする。
 ずしずしと大地を踏みしめ、ロボットは研究所の出口へと向かう。
「扉を開けてくれ!」
 ギャンの声に、待機していた兵士があわてて扉を開いた。
 どすん、どすんとロボットの歩きにつれあたりの機械が揺れている。
 三人の大臣は走り出した。
 研究所の外に、廃棄処分になっていた旧式の蒸気装甲車が停めてあった。
 ロボットはその前に立ち止まると、手をふりあげた。
 ぶーん、と音を立てふりまわし装甲車のまんなかにふりおろす。
 ぐわしゃ!
 ものすごい音を立て、装甲車は一撃でぺしゃんこになってしまった。
 もう一度!
 今度は地面にめりこんだ。
 ロボットは両腕を伸ばし、スクラップになった装甲車を持ち上げる。
 ぶん、と放り投げる。
 どしゃ、とスクラップは地面に投げ出され、何度かバウンドした。やっと停まったときは、原型を失っていた。完全なくず鉄である。
 ぼうぜんとして言葉もなかった大臣たちはやっとわれに返った。
「すごい……なんという威力だ!」
 陸軍大臣がつぶやいた。
 それに海軍大臣も同意した。
「まったくだ、あんな兵器があれば、わが軍は無敵といっていい!」
 大臣たちは感銘をうけていた。
 だがテスラ博士は首をふった。
「だが、これを戦争に使うには問題がある!」
 なぜだ、という目つきにテスラ博士は肩をすくめた。
「乗り手がおらんのじゃよ」
「乗り手?」
「これを操縦することができるのは、いまのところギャン少尉しかおらん。ほかのものがあれに乗り込むと、揺れで正気を保つことすら難しい有様じゃ! 大量生産にはいるには、その問題を解決しなければならん」
 ふうむ……と、陸軍大臣は顎をなでた。きっとテスラ博士に向き直り、口を開いた。
「博士、ぜひこの鉄人兵団は完成させなければならん! 予算はいくらでもつぎこむ。なんとしても実用化してもらいたい」
 判った、とテスラ博士はうなずいた。
 デモンストレーションが終わり、大臣らが帰った後苦々しげな顔つきなってロボットを見上げた。
「どうしたんです? なにか不満でも?」
 ギャンが問いかけると首をふった。
「いや、なんでもない」
 そうですか、とギャンは肩をすくめた。
 まあ、今回はこんなものだろう。総督府のこと、ゴラン神聖皇国のこと、そしてこの鉄人兵団のことを披露できたのは上出来にはいる。これによって、ギャン少尉という名前は大臣たちの胸に深く刻まれたはずだ。あとは待望の、共和国との戦争によって、ギャン自身が活躍して英雄となる道が残されている。
 ギャンには自信があった。
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