蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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理想宮

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 帝国軍の主力は何事もなくロロ村に迫った。途中、予想された共和国軍の抵抗はなかった。ということは、敵は撤退を始めたということである。
「敵軍は撤退を始めたようですな。斥候の報告でも、大規模な移動が確認されております」
 ふむ、とギャンはうなずいた。撤退は予想されていたが、これほど無抵抗とは予想外だった。もうすこし骨のあるやつらかと思っていたが、これでは当てが外れた。
 しかし、と部下のひとりの報告にギャンは耳を澄ませた。
「気になることがひとつ。敵軍は巨大な戦車を保有しているようです。これが殿軍となって撤退の最後に立ちはだかっている模様です」
「巨大戦車? それはどんなものだ?」
 にわかに興味をおぼえ、ギャンは身体を乗り出した。
「それが……まるで城か、戦艦のような巨大さで、報告によりますと主砲を四門もそろえ、人員は百名近いという報告です。信じがたい報告ですが、複数の斥候が同じことを報告しておりますので、事実と思われます」
「なんで、そんな巨大な戦車を造ったんだろうな?」
「判りません。戦争の常識からは外れております。そんな巨大戦車をひとつ作るより、十台の通常戦車を作ったほうが機動力が増すはずですからな」
 部下は苦笑した。ギャンはうなずいた。
 まあいい。その戦車が実在するなら、おれの戦いも目立つことができる。
 ギャンは部下に命令した。
「よし、ともかくロロ村に急行することだ。全軍、進撃を命じろ!」
 はっ、と部下はきびきびと応じた。
 ロロ村の入り口近くで終結していた帝国軍は、ギャンの指令により動き出した。
 ギャンは待機していた鉄人兵に乗り込み、作動スイッチを入れた。
 ぐおおお……!
 野獣の咆哮のような音を立て、鉄人兵に命が吹き込まれる。
 全軍は進撃を開始した。
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