蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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教皇

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 案内棒にみちびかれ、一同は聖堂の通路をどんどん進んでいった。途中、だれにも出会わなかった。案内棒は、ひと気のない通路を選んでいるのかもしれなかった。歩くミリィは、聖堂の広さにあらためて驚いていた。
 石造りの通路の壁にはところどころ松明が置かれ、あたりをほの明るく照らしている。松明に使われているのは獣脂らしく、脂が燃える匂いがミリィの鼻をうった。
 いったいいまが昼間なのか、夜なのか、聖堂をさ迷ううちさっぱりわからなくなる。なにしろ窓というのがひとつもなく、松明の明かりだけがたよりである。分かれ道にくると〝案内棒〟はちょっと空中でとまり、すぐにあたらしい方向を指し示してくれる。
 ミリィの鼻が生臭い匂いをとらえていた。
「なに、この匂い?」
 ミリィはその匂いに眉をしかめた。いがらっぽく、ねばりつくようなその匂いは、奇妙に不快感をともなっていた。
「血の匂いだ……」
 ヘロヘロがつぶやく。その言葉にミリィはぎょっとなった。
 気がつくと足もとがぬるぬるとしている。視線を落としたミリィは総毛だった。
 にちゃにちゃとした黒っぽい粘液が石の床にひろがっている。ヘロヘロを見ると、かれはうなずいた。
「そうだ、これは血だ。まだ乾いてはいないな。流されて半日くらいだろう」
「ケイ!」
 叫んだミリィにヘロヘロは首をふった。
「いいや、まだそんな時間がたってはいない。ほかの人間の血だろう」
 あたりを見わたしたミリィの背中にぞわぞわとした寒気がはしる。
 床といわず、壁といわずあらゆるところに飛び散った血がくろぐろとこびりつき、層をなしている。乾いた血の跡は、てらてらとした光沢を見せ、そうとうに大量の血が流されていることをしめしていた。
 ふとミリィは耳をすませた。
 聞こえる。
 かすかなすすり泣きの声。
 ほそく、高い声。どうやら泣いているのは女のようだ。
 かすかだが、石造りの壁に反響してはっきりと聞こえてくる。
 ケイの名前を叫ぼうとするミリィの口を、ホーバンが背後から手をまわして塞いだ。
「馬鹿! 大声をだすつもりか?」
 ミリィの耳もとにささやいた。切迫したその声の調子に、ミリィは口をふさがれたまま必死にうなずいてみせた。判った、という合図だ。ふっと肩の力をぬき、ホーバンはミリィの口から手をはなした。
「行ってみよう、音をたてるなよ!」
 腰をかがめ、足音をしのばせ歩く。ミリィもまた足音をたてないようついていく。
 このあたりは松明の明かりもなく、あたりは真の闇といってよかった。
 足先を床におろすと、足の裏ににちゃりとした粘液がこびりついてくる。その正体を知っているミリィは、こみあげてくる吐き気と必死に戦っていた。注意しないと、つるりと滑りそうである。
 さらに進むと通路は奇妙な変化を見せはじめた。いままではかっちりとした平面で構成されていたのが、うねうねとなにか生物の内臓のような不規則な形になってきたのである。さらに床や天井、壁から植物の根のようなものが行く手をふさぎ、ひどく歩きづらい。
 やがて前方にほのかな明かりが見えてきた。
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