蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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追跡

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 ぱかか……ぱかか……と、リズミカルなギャロップで数頭の馬が近づいてくる。その馬には、全身を甲冑でかためた兵士がまたがっていた。
 重装騎兵である。
 全身に甲冑をまとい、馬もまた面頬、胸当てを装着している。騎兵たちは、肩紐をつけ長い銃身をもった長銃を背負っていた。
 やがて距離が縮まると、兵士は背中の長銃を引き抜いて、パックに狙いをつけた。
 銃身の先が喇叭のように広がっている。いわゆるマスケット銃、あるいはフリント・ロックと呼ばれる形式の長銃だ。
 ぱあん……ぱあん……と、銃口が火花をちらした。
 ひゅん!
 かすかな音を立て銃弾が発射され、ちかくの地面にちいさな土ぼこりをたてた。
「冗談じゃない! やつら、本気だ」
 パックは青ざめた。
「逃げたほうがいいでしょう」
 マリアは冷静にささやいた。言われるまでもなく、パックはムカデの速度を上げた。
 がっしゅ、がっしゅとムカデの蒸気機関が逞しいシリンダーの音を立て、がちゃがちゃと六対の足が地面をかける。
 ぱん、ぱんと発射音が聞こえる。
 
 ちゅーん……。
 
 音が金属的に長く尾を引くのは、銃弾が近くを通過した証拠である。
 
 きいーん……!
 
 ついにムカデの金属の外皮に銃弾が命中した。パックは焦った。
 銃弾がやんだ。
 なんだろうとパックはふりむいた。
 すると騎兵たちは長銃の先に弾をこめている。先籠め式の、単発銃なのだ。弾を転がしこみ、火薬を流しこみ、それを棒でつついて固める工程が必要な旧式の銃である。火皿に発火用の火薬をいれ、それを火打石で点火する。
 しかし距離は縮まっている。
 騎兵たちは装填を済ませると、ふたたびパックに狙いをつけた。
 もう、騎兵たちひとりひとりの顔が見分けられるほどに近づいている。
 その先頭に、アンガスの町で見たゴラン皇国兵士の隊長の顔をパックは認めていた。
 あれから追いかけてきたのか!
 パックはぞっとなった。
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