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森は生きている
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森の隙間に、真っ赤な衣服をまとった人間がひとり、倒れている。
悲鳴はその人物があげたらしい。
つるりとした坊主頭に、真っ赤なローブを身にまとっている。その人物は、パックのムカデが近づくと顔を上げた。
「あんたは……」
パックはその顔に見覚えがあった。
あの法務官という奴だ!
真っ赤な法衣を身にまとった男は、パックの顔を認めて、かすかな笑みを浮かべた。身動きが辛いのか、ちょっとした動作をするたび苦痛の表情が浮かぶ。
「この森は……生きておる……こんな森が……ゴラン皇国の領土にあったとは、知らんじゃった……」
ごほごほと咳き込む。
「大丈夫かい? 怪我してるんじゃないのか?」
「放っておいてくれ!」
というのが法務官の答えだった。
ちらり、と憎しみの色が浮かぶ。
パックはマリアを見た。マリアはうなずいた。
さっとムカデから地面に降りると、かがみこみ、倒れている法務官をかかえあげた。
「なにをする……かまわんでくれ……」
弱々しく呻くが、抵抗する力はない。マリアは法務官をかかえたまま、ムカデに乗り込んだ。
「放っておいてもいいんだけどね。目の前で死にかけているのを黙ってみてちゃ、後生が悪いや」
そう言うとムカデを動かした。
「どこか、休める場所があるといいんだけどな……。あんた、あんなところで何してたんだ?」
「お前を尾行していたのだ」
法務官の答えに、パックは「えっ!」と驚いた。
「お前を尾行して、あの森に来た途端、森の木々に襲われた! 不覚じゃった……いったい、この森の正体はなんだ! なぜ、人間を襲う?」
「それより、なぜぼくを尾行していたのか、聞きたいな」
「お前の目的を探るためじゃ……いったい、帝国の人間がこんなところで何をしている……?」
「ミリィって女の子を探すためさ」
「女の子?」
「そうさ、おれの幼なじみなんだ。それがどういうわけか、この国に連れ去られたふしがある。どうにか会えないかと思って、やってきたのさ」
法務官は頭をふった。
「信じるものか! お前はスパイに違いない……そんな、女の子を探しにわざわざ……馬鹿馬鹿しい……」
「信じないのはあんたの勝手だ! ぼくはスパイなんて柄じゃないぞ」
「その金色の娘はなんじゃ? それにこのムカデに似た機械……お前は〝男爵〟の一味なのか?」
これで〝男爵〟という名前を聞くのは二回目だ。パックは法務官をふり返った。
「その〝男爵〟ってのは何だ? なんでぼくと関係あると思うんだ?」
ふっと法務官は皮肉な笑みを浮かべた。
「お前は〝男爵〟の一味に違いないわ……いまに馬脚をあらわす……」
ぶつぶつとつぶやくと、がくと前のめりになる。顔色が土気色に変わっていた。
パックは叫んだ。
「いけねえ! 気絶しやがった!」
前方に視界がひらけ、明るくなっていた。森の出口だ! パックはムカデの速力を上げた。
「パック様、家があります!」
マリアがささやいた。
パックはうなずいた。
その言葉どおり、森の出口に一軒のちいさな家があった。だれか人が住んでいるのか、屋根の煙突からは白い煙が立ち昇っている。
「おーい! 誰かいないか? けが人がいるんだ!」
パックの叫びに、家のドアが開かれ、中から人が現れた。
その顔を見てパックは叫んだ。
「きみ……!」
現れたのはひとりの少女だった。
ファングだった。
悲鳴はその人物があげたらしい。
つるりとした坊主頭に、真っ赤なローブを身にまとっている。その人物は、パックのムカデが近づくと顔を上げた。
「あんたは……」
パックはその顔に見覚えがあった。
あの法務官という奴だ!
真っ赤な法衣を身にまとった男は、パックの顔を認めて、かすかな笑みを浮かべた。身動きが辛いのか、ちょっとした動作をするたび苦痛の表情が浮かぶ。
「この森は……生きておる……こんな森が……ゴラン皇国の領土にあったとは、知らんじゃった……」
ごほごほと咳き込む。
「大丈夫かい? 怪我してるんじゃないのか?」
「放っておいてくれ!」
というのが法務官の答えだった。
ちらり、と憎しみの色が浮かぶ。
パックはマリアを見た。マリアはうなずいた。
さっとムカデから地面に降りると、かがみこみ、倒れている法務官をかかえあげた。
「なにをする……かまわんでくれ……」
弱々しく呻くが、抵抗する力はない。マリアは法務官をかかえたまま、ムカデに乗り込んだ。
「放っておいてもいいんだけどね。目の前で死にかけているのを黙ってみてちゃ、後生が悪いや」
そう言うとムカデを動かした。
「どこか、休める場所があるといいんだけどな……。あんた、あんなところで何してたんだ?」
「お前を尾行していたのだ」
法務官の答えに、パックは「えっ!」と驚いた。
「お前を尾行して、あの森に来た途端、森の木々に襲われた! 不覚じゃった……いったい、この森の正体はなんだ! なぜ、人間を襲う?」
「それより、なぜぼくを尾行していたのか、聞きたいな」
「お前の目的を探るためじゃ……いったい、帝国の人間がこんなところで何をしている……?」
「ミリィって女の子を探すためさ」
「女の子?」
「そうさ、おれの幼なじみなんだ。それがどういうわけか、この国に連れ去られたふしがある。どうにか会えないかと思って、やってきたのさ」
法務官は頭をふった。
「信じるものか! お前はスパイに違いない……そんな、女の子を探しにわざわざ……馬鹿馬鹿しい……」
「信じないのはあんたの勝手だ! ぼくはスパイなんて柄じゃないぞ」
「その金色の娘はなんじゃ? それにこのムカデに似た機械……お前は〝男爵〟の一味なのか?」
これで〝男爵〟という名前を聞くのは二回目だ。パックは法務官をふり返った。
「その〝男爵〟ってのは何だ? なんでぼくと関係あると思うんだ?」
ふっと法務官は皮肉な笑みを浮かべた。
「お前は〝男爵〟の一味に違いないわ……いまに馬脚をあらわす……」
ぶつぶつとつぶやくと、がくと前のめりになる。顔色が土気色に変わっていた。
パックは叫んだ。
「いけねえ! 気絶しやがった!」
前方に視界がひらけ、明るくなっていた。森の出口だ! パックはムカデの速力を上げた。
「パック様、家があります!」
マリアがささやいた。
パックはうなずいた。
その言葉どおり、森の出口に一軒のちいさな家があった。だれか人が住んでいるのか、屋根の煙突からは白い煙が立ち昇っている。
「おーい! 誰かいないか? けが人がいるんだ!」
パックの叫びに、家のドアが開かれ、中から人が現れた。
その顔を見てパックは叫んだ。
「きみ……!」
現れたのはひとりの少女だった。
ファングだった。
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