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【ツッパリ・ランド】
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手当たり次第に、世之介は【ツッパリ・ランド】の屋台を渉猟した。とにかく、目に入る食べ物を次から次へとひっ攫い、口に目一杯むしゃむしゃ詰め込む行為に専念した。
一抱えもありそうな大きな碗を見つけ、世之介はその中に食べ物を手当たり次第ぽんぽん放り込む。屋台で食べ物を提供しているのは、捻じり鉢巻の傀儡人や、杏萄絽偉童たちだ。
山盛りにした碗を「よっこらしょ」と持ち上げ、世之介は空き地を見つけて、座り込んだ。
巨大な碗を抱え込んで食べ始める。食べ物だけではなく、飲み物も同じくらい手にしている。
ガツガツと食らい始める世之介を、茜は感に堪えないといった表情で見詰めた。
「よく食べるわねえ」
「腹が減ってるんだ!」
世之介は短く叫ぶと、すぐ食事の続きに取りかかる。今は一瞬でも、食べる時間が惜しい。
世之介の胃は、際限ない食欲で、消化すべき食物を要求している。たちまち、碗が空っぽになる。
「次だ!」
立ち上がると世之介は【ツッパリ・ランド】を駆け回り、再び碗に食物を山盛りにして戻ってくる。
助三郎は感心して見ていた。
「まったくもって、羨ましい……。我々は賽博格の身体になってからは、人間らしい食欲を、とんと覚えなくなって久しい。いや、世之介さんの健啖は、見ていて気持ちが良いですな」
同じことを、この場にいた他の人間も思ったようだった。世之介が次から次へと食べ物を飲み込んでいくのを見て、次第に見物人が増えてくる。
あっという間に碗を空にする世之介に、狂送団の団員、女たちが気を利かして食糧を手渡しで運んでくる。世之介は座り込んだまま、運ばれる食事をぺろりと平らげた。
ようやく空腹が満たされたころには、世之介の周りには、空の食器が山のようにうず高く積まれていた。
げぷっ、と息を吐き出し、世之介は立ち上がった。充分に食事を詰め込み、もうこれで矢でも鉄砲でも、槍でも刀でも、蒟蒻問答でも酢豆腐でも、それに饅頭と熱いお茶でも怖くないという気分である。
見物人から賛嘆の声と、拍手が沸き上がった。
「凄えや! 二十人……いや、三十人分は胃の中に収めたぜ!」
番長星では大食いもまた、尊敬の的となる。その場に集まった男女の瞳には、憧憬すら浮かんでいた。
世之介は何の気なしに、集まった連中の顔ぶれに目をやった。
と、その視線がある一点に急速に集中した。
あいつは!
物も言わず、世之介は群衆を掻き分け、早足で見覚えのある顔に向かって突進した。相手は、ギクリと身を強張らせる。
「お前!」
叫んで世之介は駆け足になった。相手は世之介の物凄い勢いに驚き、逃げ腰になる。キョトキョトと落ち着きなく視線が彷徨い、どうしようか思案しているようである。
しかし番長星特有の論理に支配され、ぐっと背を反らせると、世之介を待ち受ける。
「なっ、何でえ……!」
声が掠れている。聞いているだけで、こちらが窒息しそうな、耳障りな声音。ツルツルに剃り上げた、まん丸な頭。
隆志であった。
世之介の顔をまじまじと、穴の空くほど見詰める隆志の表情に、ふと疑念が湧く。世之介は鋭く質問する。
「お前、隆志とかいったな?」
世之介の言葉に、隆志はうろたえた。
「何で、俺の名前を知っている?」
ははあ、と世之介は頓悟した。
隆志は世之介をまるっきり、見知らぬ相手と誤解している。無理もない、今の世之介は隆志が見知っている当時の世之介ではない。隆志が連れてきた風祭とかいう賽博格バンチョウを、助三郎と格乃進がやっつけたときは、世之介は〝伝説のガクラン〟を身に着けていなかった。
あの後、〝伝説のガクラン〟を身に着けた世之介は、頭髪が金髪に染まり、リーゼントの髪形になって、人相ががらりと変貌している。
隆志の表情に、微かに理解の色が浮かぶ。ゆっくりと首を振った。
「そんな、まさか……。おめえが、あいつな訳、あるもんか!」
「ところが、お前の言う、あいつなんだ。俺は、但馬世之介。思い出したか?」
世之介は一歩、ぐっと隆志に近づいた。ゆっくりと声を押し出し、両目にあらん限りの力を込めて睨みつける。視線の力で、隆志の両足を地面に縫い付ける気迫である。
世之介の凝視を浴び、隆志の両足が、カクカクと震え出す。
「風祭ってやつは、どうした? 一緒じゃないのか?」
ぺろり、と隆志は分厚い唇を舐めた。顔一面に、大量の汗がぶあっ、と吹き出す。
「し、知らねえ……。あの後、風祭さんは、【ウラバン】に身体を元通りにしてもらうために、別れたんだ」
隆志の視線が、ちらりと動く。視線の先を追った世之介は、頷いた。
「【リーゼント山】か? 風祭は、あそこへ行ったんだな?」
「そ、そうだ……。おい、お前、いったいあの後、何があったんだ? あの時のお前とは、まるっきり別人じゃないか?」
世之介はニヤリと笑いかけると、ぐいっと背中を廻して、金の刺繍を見せ付けた。
「こいつが何か、知っているか?」
隆志は、驚きに仰け反った。
「〝伝説のガクラン〟! ま、まさか、おめえが、そいつを手に入れたとは!」
隆志の叫びに、その場にいた全員が凝固した。
「〝伝説のガクラン〟!」
その場の全員が、同じ言葉を呟いた。
世之介は隆志の胸倉を掴んだ。
「教えろ! 【ウラバン】には、どうやって会えるんだ?」
「それなら、俺が教えてやろう……」
背後からの声に、世之介は隆志の胸倉から手を離し、さっと振り向いた。
一抱えもありそうな大きな碗を見つけ、世之介はその中に食べ物を手当たり次第ぽんぽん放り込む。屋台で食べ物を提供しているのは、捻じり鉢巻の傀儡人や、杏萄絽偉童たちだ。
山盛りにした碗を「よっこらしょ」と持ち上げ、世之介は空き地を見つけて、座り込んだ。
巨大な碗を抱え込んで食べ始める。食べ物だけではなく、飲み物も同じくらい手にしている。
ガツガツと食らい始める世之介を、茜は感に堪えないといった表情で見詰めた。
「よく食べるわねえ」
「腹が減ってるんだ!」
世之介は短く叫ぶと、すぐ食事の続きに取りかかる。今は一瞬でも、食べる時間が惜しい。
世之介の胃は、際限ない食欲で、消化すべき食物を要求している。たちまち、碗が空っぽになる。
「次だ!」
立ち上がると世之介は【ツッパリ・ランド】を駆け回り、再び碗に食物を山盛りにして戻ってくる。
助三郎は感心して見ていた。
「まったくもって、羨ましい……。我々は賽博格の身体になってからは、人間らしい食欲を、とんと覚えなくなって久しい。いや、世之介さんの健啖は、見ていて気持ちが良いですな」
同じことを、この場にいた他の人間も思ったようだった。世之介が次から次へと食べ物を飲み込んでいくのを見て、次第に見物人が増えてくる。
あっという間に碗を空にする世之介に、狂送団の団員、女たちが気を利かして食糧を手渡しで運んでくる。世之介は座り込んだまま、運ばれる食事をぺろりと平らげた。
ようやく空腹が満たされたころには、世之介の周りには、空の食器が山のようにうず高く積まれていた。
げぷっ、と息を吐き出し、世之介は立ち上がった。充分に食事を詰め込み、もうこれで矢でも鉄砲でも、槍でも刀でも、蒟蒻問答でも酢豆腐でも、それに饅頭と熱いお茶でも怖くないという気分である。
見物人から賛嘆の声と、拍手が沸き上がった。
「凄えや! 二十人……いや、三十人分は胃の中に収めたぜ!」
番長星では大食いもまた、尊敬の的となる。その場に集まった男女の瞳には、憧憬すら浮かんでいた。
世之介は何の気なしに、集まった連中の顔ぶれに目をやった。
と、その視線がある一点に急速に集中した。
あいつは!
物も言わず、世之介は群衆を掻き分け、早足で見覚えのある顔に向かって突進した。相手は、ギクリと身を強張らせる。
「お前!」
叫んで世之介は駆け足になった。相手は世之介の物凄い勢いに驚き、逃げ腰になる。キョトキョトと落ち着きなく視線が彷徨い、どうしようか思案しているようである。
しかし番長星特有の論理に支配され、ぐっと背を反らせると、世之介を待ち受ける。
「なっ、何でえ……!」
声が掠れている。聞いているだけで、こちらが窒息しそうな、耳障りな声音。ツルツルに剃り上げた、まん丸な頭。
隆志であった。
世之介の顔をまじまじと、穴の空くほど見詰める隆志の表情に、ふと疑念が湧く。世之介は鋭く質問する。
「お前、隆志とかいったな?」
世之介の言葉に、隆志はうろたえた。
「何で、俺の名前を知っている?」
ははあ、と世之介は頓悟した。
隆志は世之介をまるっきり、見知らぬ相手と誤解している。無理もない、今の世之介は隆志が見知っている当時の世之介ではない。隆志が連れてきた風祭とかいう賽博格バンチョウを、助三郎と格乃進がやっつけたときは、世之介は〝伝説のガクラン〟を身に着けていなかった。
あの後、〝伝説のガクラン〟を身に着けた世之介は、頭髪が金髪に染まり、リーゼントの髪形になって、人相ががらりと変貌している。
隆志の表情に、微かに理解の色が浮かぶ。ゆっくりと首を振った。
「そんな、まさか……。おめえが、あいつな訳、あるもんか!」
「ところが、お前の言う、あいつなんだ。俺は、但馬世之介。思い出したか?」
世之介は一歩、ぐっと隆志に近づいた。ゆっくりと声を押し出し、両目にあらん限りの力を込めて睨みつける。視線の力で、隆志の両足を地面に縫い付ける気迫である。
世之介の凝視を浴び、隆志の両足が、カクカクと震え出す。
「風祭ってやつは、どうした? 一緒じゃないのか?」
ぺろり、と隆志は分厚い唇を舐めた。顔一面に、大量の汗がぶあっ、と吹き出す。
「し、知らねえ……。あの後、風祭さんは、【ウラバン】に身体を元通りにしてもらうために、別れたんだ」
隆志の視線が、ちらりと動く。視線の先を追った世之介は、頷いた。
「【リーゼント山】か? 風祭は、あそこへ行ったんだな?」
「そ、そうだ……。おい、お前、いったいあの後、何があったんだ? あの時のお前とは、まるっきり別人じゃないか?」
世之介はニヤリと笑いかけると、ぐいっと背中を廻して、金の刺繍を見せ付けた。
「こいつが何か、知っているか?」
隆志は、驚きに仰け反った。
「〝伝説のガクラン〟! ま、まさか、おめえが、そいつを手に入れたとは!」
隆志の叫びに、その場にいた全員が凝固した。
「〝伝説のガクラン〟!」
その場の全員が、同じ言葉を呟いた。
世之介は隆志の胸倉を掴んだ。
「教えろ! 【ウラバン】には、どうやって会えるんだ?」
「それなら、俺が教えてやろう……」
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