リアルVRMMOなんてこんなもん~異世界に転移した私、なのに異世界で最強魔法が使えないってどういうこと!?~

Len

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第1話 始まりなんてそんなもん~チート級魔法クリエイターの私、異世界に現る~

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 20XX年、とあるウイルスが猛威を振るった。
そのウイルスは瞬く間に広がり、世界中で流行し多くの死者を出した。
各国政府は感染予防のため、外出制限と学校の授業も企業の業務も全てインターネットを利用したリモートワーク導入を決定した。
それにより、多くの人々は個別に隔離される形となった。

 人間は孤独に耐えられるほどできたモノではない。
大多数の人間が人同士の繋がりを求め、さまざまなコミュニケーションツールが開発されていった。
VRMMO『VRHARヴラハー』もまたそんな人間の欲求から生まれたひとつだ。
最古のVRMMOというわけではないが、最新のVRゲームの良いシステムをどんどん取り入れ、常に最新のゲームに負けないほどの遊びやすさとユーザーフレンドリーを誇っていた。

***

 VRHARの統合ロビーのちょうど真ん中で彼女は突っ立っていた。
見た目はファンタジー世界にいそうな少し肉付きが良い露出が少ない女盗賊のようであるが、
正確に言えば"彼女"ではない。
女性型アバターを操る男性のVRユーザーの『七条ななじょう 英二えいじ
ユーザーネームは『エッジ』である。

「遅いな。」

 ただポツリと他のユーザーには聞こえないようエッジは呟く。
別にこの統合ロビーに用があるわけじゃない。
ここで待っていれば知り合いが来るだけだ。
エッジはこのゲームを始めた時からの友人であるユーザーネーム『クロム』を待っていた。

「すまない! 待たせた!」

 遠くから男性の声が聞こえる。
その姿はエッジの1/4程の身長で、アニメチックにデフォルメされた顔に体付き、頭部には狐の耳、腰には狐のしっぽがついた獣人というよりもマスコットのようだ。

「新しいアバターのセッティングに時間がかかってしまったんだ。」

「マジか、VRHAR未対応モデルか?」

 クロムの用意したアバターはここ最近話題沸騰のアバターで
別のVRMMOで使用することを前提としたパッケージで売られているのだが、どうやらワザワザVRHAR向けに手直ししたらしい。

「どうだ、可愛いだろ。」

 そう言ってクロムは腰についたしっぽを見せつけるように尻をエッジに向けて振る。
確かに可愛いが、躊躇なく行われるその行為にエッジは逆に恥ずかしさすら覚えた。

「今日はどこのワールドにいくんだ?確か前にいったところだったよな?」

「あぁ、前回と同じ『魔都まとシンジュク』だ。あそこのバーでまた駄弁ろう。」

 そう言ってクロムは得意げにしっぽを振りながら笑う。
エッジは『魔都シンジュク』へのポータルを開くと我先にクロムがその中へと飛び込み、追うようにエッジも飛び込んでいく。


***

魔都まとシンジュク』

 もしシンジュクが魔界に飲み込まれたならをテーマに作られた(※部屋のようなもの)であり
渦の中心にある巨大な塔を中心に、ネオンの看板が立ち並ぶ歓楽街のような街並みが広がっている。
現実世界でのシンジュクをモデルにしていることもあり、現実にも存在する店の看板がチラホラ見受けられる。
二人はそんなシンジュクの中にある唯一入ることができるお店の中でも駄弁るのが日課なのだ。

 二人はそのバーに備え付けられているグラスを勝手に手に取り
店内にある酒瓶から勝手に注ぎ、飲み始める。

「カンパーイ。」

 当然だがこれもワールドの演出であり、実際に酒を飲んでいるわけではない。
酒の入ったグラスはアバターの口元に当てると酒が消えるギミックになっており、言ってしまえば二人がやっていることは『ごっこ遊び』にすぎないのだが、この儀式を通すと不思議と気分が良くなり、口も軽くなるというものなのだ。

「どうよ、仕事は順調か?」

「まぁ、ぼちぼちかな。そっちは?」

「俺は問題ないぜ。毎日楽しく遊んで暮らしてる。」

「いいねぇ。羨ましいよ。」

 エッジもクロムも社会人だ。
ウイルスが流行る前は普通に出社して働いていた。
二人とも会社の同僚達と飲みに行くのが大好きだった。
しかし今は違う。

 ウイルスのせいで会社はリモートワークになり、同僚達は出社の必要がなくなった。
つまり、飲み会をする機会はなくなったのだ。
もちろんオンライン上での飲み会は続いているものの、やはりリアルの飲み会に勝るモノはない。

 二人はよりリアルに近い接触を目指すためにVR機器を購入したのだが、同僚達は購入することはなかった。
そんな近しい境遇の二人がVRHARで出会い、仲良くなるのは時間のかかることではなかった。

「最近、副業始めたんだよね。」

「えっ!? お前、いつの間に!!」

「いやいや、本当に大したことないんだよ。」

 クロムは照れくさそうに頭を掻きながら答える。

「仕事が終わった後、デリバリーの仕事をしてる。運動にもなるし金になっていいぞ。」

「料理の配達って奴?」

「そうそれなんだよ。オレってば器用だからなんでもできちゃうのな。」

 クロムは自慢げに胸を張る。
そんないつものように他愛もない話を楽しいそうにする二人。
このままいつものように駄弁って終わりかと思われたが
そのバーに異変が起きた。

***

 エッジとクロムのHMDヘッドマウントディスプレイに映る映像がカクつく。
そして手と頭の動きが鈍くなる。

「あれ? なんかおかしくないか?」

「そうだな、なんだこれ?」

 それは二人のPCに大容量のデータが送られてきたことによる遅延ラグ
指し示す意味は、概ねが他のユーザーが入ってきたこと、そのアバターの容量が無遠慮に多いということだ。
だが、この『魔都シンジュク』の入室設定は『プライベート』
つまり指定したフレンドユーザー以外は入ってくることができないはずなのだが……。

 バーの扉が開くと同時に店内に霧が立ち込める。
エッジもクロムもゆっくりと扉の方を向き、侵入者の姿を拝もうとする。

 そこにいたのは少女。
金色でフワリとしたロングの髪に、青い瞳。
髪の同化したような金色のリボンに黒いベレー帽。
白を基調とした服装、靴はヒールが高く、少しばかり大人びた雰囲気を出している。
まるでアニメのキャラクターをそのまま立体化したような姿だ。

 その少女の姿をジロジロ見ながらクロムが言う。

「誰だよ、プライベートワールドだぞ、ここは。」

 クロムは少し苛立ちを露わにして言う。

「チーターかよ、無視だ無視。」

 エッジも同様にそう言って目の前の少女を無視しようとする。

 この『VRHAR』におけるチーターとはワールドの入室設定を無視して入ってきたり、他人のアバターを勝手にコピーすることが出来るらしい。
らしいというのはまだその実態がはっきりとしていないためだ。
ともかくプライバシーを侵害してきて不愉快であるため、当然嫌われている。
他にも、アバターに過剰なデータを詰め込み、大容量にすることも好まれていない。
また、他人の視界を強制的にジャックしてエフェクトを見せつけのも迷惑である。

 二人はその少女を無視して駄弁りに戻ろうとする。

「あの……。」

 二人の予想に反して、少女は話しかけてきた。

「……。」
「……。」

 二人は少女の方を見ないまま黙る。

「あ、あの、助けてください!」

「……はぁ。」

 エッジは面倒くさそうにため息をつく。
クロムも同じ気持ちらしく、眉間にシワを寄せているかはわからないが、腕を組んでいる。

「なに?」

 明らかに不機嫌そうな口振りに、少女は怯えてしまった。
それでも勇気を振り絞って声を出す。

「私、今、追われてます!匿ってください!!」

「いや、知らんがな。」
「なんで俺らがそんなことをせにゃならん。」

 二人は冷たい口調で突き放す。

「そんなロールプレイはダチとやれよ。」
「アバター重いんだよ。エフェクト切れよ。」

「??? す、すいません……でも、お願いします。」

 必死に食い下がる。
だが二人は取り合わない。
少女は諦めきれず、自分の身の上話をし始める。

「私は、『ルチア』と言います。あなた達で言うところの異世界の住人です。」

「はい、カット。」

「えっ?」

 突然話を遮られ、困惑するルチア。
エッジは呆れたようなポーズで指摘する。

「なにが、『異世界の住人』だよ。
このゲームはユーザー同士が好きなアバターでわちゃわちゃするだけのゲームなんだから、そういう設定はいらないんだよ。」

「そ、そう言われましても……。」

 しかしクロムは続きが気になるようで、話を続けさせようとする。

「実は私は新しい魔法の開発、研究をしていて、そこで完成した新しい魔法が、魔王を名乗るモンスターに目をつけられました! それで私は魔王の追ってから逃れるためのこの『異世界へ転移する魔法』を使って逃げてきました。でも、私はこの世界を何も知りません。だからどうか……」

「まって、今異世界転移って言った?」

「えっ!?」

 再び話の腰を折られる。

「きいたか、異世界転移だってよ! 異世界転移! マジかよ!!」

 クロムは大興奮で、目を輝かせながら話す。
ルチアはわけもわからず、キョトンとしてしまう。
そんなことは気にせず彼はさらにまくしたてる。

! 最近流行りのジャンルじゃん! 増えたよなぁ異世界転生だの転移ものってさぁ!」

 エッジはあまり興味なさそうにしながら、相槌を打つ。

「まぁそうだな。」

「お前ってば、そういうジャンルの作品好きじゃなかったよな。オレはハマってたんだけどな。悲しいなぁ。寂しいなぁ。仲間になって欲しかったなぁ。」

 二人が勝手に盛り上がる中、ルチアは置いてけぼりにされていた。
クロムが急に冷静になり、彼女に聞く。

「んで、結局あんたはオレらに何がしてほしいんだ?助けて欲しいのか?それとも遊んでほしいのか?ハッキリしてくれないか?」

「それは……その、私を助けてくれると嬉しいですが……。」

 ルチアはクロムの圧に押されながらもなんとか答える。

「異世界転移したんだろ?だったら追ってだってこれないだろ。」

 エッジがそう言うと、クロムも首を縦に振る。

「確かに。」

「いえ、それが……。」

言い淀むルチアを見て、二人は察したか、彼女を煽る。

「あー、わかった。そこまで設定を考えてなかったんだな。」
「おいおい、しっかりしろよ。」

「うぅ……。」

 図星なのか、ルチアは涙目になっている。
二人の表情は変化していないが、声ぶりからして笑っている。

「いいですか!私は本当に困っているんです!」

「はいはい。」

「聞いてください。」

「うんうん。」

 もはやルチアを子ども扱いする二人。
彼女はすでに半泣き、いやほぼ泣いていると言ってもいいくらいの状態になっていた。

「あの……。」

 ついに我慢の限界が来たのか、涙を流し始める。

「あの……私、追われてて……怖くて……もう嫌なの……お願い……匿って……。」

 その言葉を聞いた二人は顔を見合わせる。

「すごいな、本当に涙みたいなエフェクトが出てる。」

「本当だ。すげぇな。」

 泣くルチアの顔をすごいすごいと見る二人。
二人にとっては彼女も何者かが操作している大容量のアバターとしてしか見ておらず、感情移入などはしていなかった。
彼女自身は焦りと悲しみとで冷静になることもできず、子供のようにただ泣き続けていた。
そのときである、再びバーの扉が開かれた。

***

 入ってきたのは見るからに悪を体現したような漆黒の鎧を身に着けた人間。
人間に見えるがその兜の奥からは生気を感じさせない、その鎧の色に負けないほどの闇が見える。
その姿をみたルチアは、全身で恐怖を感じ取り、動悸が激しくなる。

「見つけましたぞルチア殿、ずいぶんと手こずらせてくれましたねぇ。」

 漆黒の鎧はそう言ってゆっくりとこちらに向かってくる。
怯えるルチア。

「あなたは……魔王の三剣が一人『漆黒の魔追跡人シャドーストーカー』バルデム・ダークネス!」

「いかにも。」

「なぜここに……。」

「貴方が逃走のために放った魔法、このバルデム、再現することぐらい造作も無いこと。」

「そんな……!」

 ルチアの問いに、自信満々に応える。
彼女は魔王の配下が現れたことに絶望しかけていた。
だが、クロムとエッジはそうではなかった。
むしろ興味津々と言わんばかりに、話を聞く。
特にクロムは先程までの態度とは一変していた。

「見てみろよあのアバター! オレ、ああいう厨二っぽいキャラ好きなんだよなぁ。」

 クロムの目の前にいるアバターは彼の理想とするキャラクター像そのものでもあった。
彼は再び興奮気味になる。

 ルチアはクロムが何を言っているのか理解できなかった。

 一方のエッジは無言のまま、興味無さそうにしていた。

「そこのレディ達、少々静かにしていただけますかな? 静かにしていただければ貴方達には被害は加えたりはいたしませんよ。」

 興奮するクロムを恐怖でパニックになった女性だと勘違いしているのか、優しい口調で言う。
エッジはその言葉を鼻で笑う。
ルチアは震えながら、その光景を見ていた。

「さあ来てもらいましょうかルチア殿! 我が魔王様のためにその命、捧げてもらおう!」

 バルデムがルチアに近づき腕を掴む。

「イヤァー!」

 その行為に思わず悲鳴をあげるルチア。

 しかし、バルデムの手は何もつかむことができず
虚しく空を切るだけだった。

 バルデムは何が起きたかわからなかったのか、もう一度ルチアを見る。
彼女も何が起こったかわからず驚きは恐怖を吹き飛ばしてしまっていた。
再びつかもうとするバルデムであったが
やはりその手は何もつかむことができなかった。

「なんだと!?」

 今度は動揺するバルデム。
ルチアも試しにバルデムの手に触れようとしてみるが
同様にその手は何も掴むことができなかった。

「貴様! このような時間稼ぎにしかならないような魔法をいつまで続けるつもりか!」

 バルデムは声を荒げる。
ルチアもわけがわからなくなっていた。

「当たり前だろ、ここはVRゲームの世界なんだからな。」
「そうそう、このVRHARに触覚センサー非対応だからな。そもそもそんなデバイスあんのか?」

 エッジとクロムは平然と答える。
ルチアは二人の会話を聞いているうちに、だんだん落ち着きを取り戻してきた。

「え……と……っ。」

 現状を自分の中で解釈しようし、思考するルチア。
バルデムも同様に実際に自分のスキル、魔法を放とうとしてみる。
バルデムの手のひらから飛び出した青い閃光の矢はエッジを貫くが、これといって何もおこらない。

「なんだよこのエフェクト、うっとうしい。」

 何発も試すもエッジの命を奪うことも痛みも与えることもできない、まるで自分の周りを飛び回る蚊のようにうっとうしがる。
言葉を発さずに困惑するバルデム、そして思考の末、自分の中の応えを見つけ出したルチアが口を開く。
バルデムは彼女の言葉に耳を傾ける。

「この世界は……お互いに介入することができない、幽霊のような存在になる世界ってことでは!?」

 ルチアは自分の考えを口にして、自分で納得していた。
その言葉を聞いたバルデムは呆気にとられていた。

「確かにそう解釈できるな。」

 エッジが相槌を打つ。

「まぁ正しくはVRHARの世界なんだけどな。」
と付け加える

 バルデムも冷静になり、改めて状況を理解し始める。
つまり今自分は触れない相手に手を伸ばして、まるでパントマイムをしているかのように滑稽に見える状態になっているということだった。
ルチアが言ったように、お互いに触れることができない、干渉することもできない、これでは魔王様のためにルチアを拐うこともできないと理解した。

「なんということだ……まさかそのようなことが……。」

 バルデムは頭を抱え、悔しそうな表情を、闇の中に浮かべている、そんなふうに見える。
そんな二人をよそにクロムは左腕の腕時計を見る仕草をする。
現実では腕時計はつけていないのだが、VR空間上では左腕に時刻が表示される機能がついているため、クロムはよく時間をみる仕草をするのだ。

「もう11時じゃん、もーそろ寝ないと明日も仕事だし。オレは落ちるわ。」

 そう言ってクロムはエッジ達に手を振る。

「あー、じゃあ俺ももう落ちるわ。」

 その言葉の真髄をルチアはわかっていないが、居なくなるという意味だと感じとり、去ろうとする二人を止めようとする。

「ま、まってください!このまま帰っちゃうんですか!?私達どうなるんですか!?」

 必死に呼び止めるルチアだったが、二人は無視してそのままログアウトしてしまう。
その場に残されたルチアとバルデムは途方に暮れていた。

***

 『魔都シンジュク』に異世界転移してきてしまったルチアとバルデム、
二人はどうやって元の世界に帰還すればいいのか模索していた。

「まて、そもそも異世界転移の魔法なのになぜ元の世界に戻れぬのだ!」

「だ、だってこの魔法はまだ未完成で……転移先はランダムなんです!」

 ルチアは涙目になりながら訴える。
バルデムは頭を抱える。

(そもそもこの魔法を使わせたのはルチア殿を追い込んだ我々魔王軍、さらにその魔法を見よう見まねで再現して使ったのは我……)

 バルデムの『魔法再現マジックリバイバル』のスキルはするのではなく、するものであり、
例え転移先がランダムだったとしても、このように相手を追跡することができるのだ。
その結果、ルチアと同じ異世界に漂流してしまったのである。

 バルデムは考え込む。
自身にも非があることもあり、彼女を責めるのは筋違いであると。
だがしかし、この状況を打破するには、なんとかしなければならないと、思考する。

「ルチア殿、このようなことになったのは我の責任でもある。
いささか都合の良いことを言うのだが、元の世界に戻るまでは休戦、お互いに協定を結ばないか?」

「えっと……」

 バルデムの提案を聞き、ルチアは驚いた。
バルデムの申し出を断る理由もない、協力することで現状を打開できる可能性もありえる。
彼女は少し考える。
そして提案を飲むことにした。

「わかりました、それでお願いします。」

 ルチアはそう答えるしかなかった。
もはや二人は無人島に投げ出された哀れな人間でしかない。
立場も身分も捨てて、お互いに協力し合うことしかできなかった。
こうして彼女と漆黒の魔追跡人は一時的ではあるが、休戦協定を結ぶことにした。

「では、ともにこの杯を用いて乾杯といこうではないか。
先ほどのレディ達の真似ではあるが、やってくれるかな?」

 ルチアはバルデムから色のついた液体が入ったグラスを受け取り、バルデムのグラスに軽く打ち付ける。

「乾杯っ!」

 ルチアもバルデムもお互いを信用していないが、今は生き残るために、協力し合わなければならない。
二人は同時に飲み物を口にする。
しかし、それは味もしなければ液体の感触すら存在しなかった。
そして一瞬の内にその液体らしきものは消え、空のグラスだけが残った。

「……。」

「……。」

喉の乾きこそ感じないが、それを癒やすことすらできない。

「飲み物を飲むことすら許されないのか……この世界は……!」

闇に覆われ見えないバルデムの顔に涙が浮かんでいるのがルチアには見えた気がしたのであった。
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