アレリエールの塔

古鳥とり

文字の大きさ
上 下
11 / 14
第3章「死神と少女」

第3節

しおりを挟む
目が覚めると、髭男がいた。

「さあ、これで記憶が戻っただろう。どうだ?」

先ほどまで見ていた夢は、全てわたしの記憶。自分でも確信があった。

「何か言ってみろ、獣。」

「記憶が、戻りました。」

「よし、ではルナウェルを殺せ。」

やはり、この髭男があの事件を画策した張本人か。

「殺すのなら、なぜ生かしておいたのですか。」

わたしは理由を問う。

「隣国との政略結婚に使おうと思ったのさ。だが、伝承の塔が現れた以上、そんな些事どうでもよい。」

男はため息交じりに答えた。

「あの日の依頼の続きだ。早く殺してこい。」

「嫌だと言ったら。」

「ん?どうした、まさか従者になって情でも移ったか?」

男は笑い声をあげた。

「こいつぁ傑作だぜ。殺しの一族が王女に同情とは。ルナウェルの家族を、我が兄を、お前らが殺したのだぞ。」

それを企てたのはお前だろう。

「わたしは人を殺したことなどありません。」

誓ってこの手で命を奪ったことはない。

「嘘をつくな。トルヴァメソール家の人間が。」

煩い。わたしは軍師だ。非情なトルヴァメソール家の人間だ。

「はい。今から嘘になります。」

わたしは男に斬りかかった。男も抜刀し、わたしの剣をはじき返す。

「ふん、所詮は獣だな。お前らなぞ貴族を剥奪されて当たり前だ。」

わたしは自分が許せない。でも、トルヴァメソール家に依頼をしたこの男も同罪だ。刺し違えてでも殺す。

ルナウェルをこれ以上、悲しませない。わたしは自分の怒りを制御できなかった。この呪われた剣術を覚えていてよかった。

トルヴァメソール家から代々伝わる、殺しの一族の剣術だ。

物心ついた頃から両親に無理矢理覚えさせられたものだが、これのおかげでわたしは殺気を感じ取る力が強く、どこの流派にも負けない力を発揮できる。わたしは連撃を繰り出す。

「ちぃ。手間のかかる獣だ。おいアンドラス、アセクラを呼んでこい。反逆罪でこいつを始末させろ。」

「はい、かしこまりました。」

アンドラスと呼ばれた側近と思われる部下は返事をすると消えた。

「時間の無駄だ。さっさと塔に向かう騎士団を結成するぞ。ついでにルナウェルも暗殺部隊も向かわせるか。」

髭男はニヤリと笑って消えると同時にアセクラ隊長が現れた。

「貴様が反逆者か。やはりな、残念だ。」

ここを抜けるにはアセクラ隊長を倒すしかないのか。

「貴様の名前を知らなくて良かったよ。」

そう言って、アセクラ隊長は剣を引き抜いた。

「すみません。通らせてもらいます。」

わたしも剣を抜き、一気に距離をつめて斬りかかる。鈍い金属音が何度も何度も響き渡る。アセクラ隊長の腕前はすさまじく、わたしの攻撃が一切通らない。

「どうした、こんなところにいていいのか。」

アセクラ隊長の表情は変わらない。

「なぜですか。」

「ルナウェル様にもそろそろ刺客が行っている頃だろう。」

「アセクラ隊長はそれでいいのですか。」

あんなにルナウェルのことを思っていたではないか。

「私はこの国に忠誠を誓った身だ。そして、先王家は今の王家ではない。」

そうして重い一撃が繰り出され、わたしの剣を空へ飛ばした。

「ならば、答えは簡単だろう。」

アセクラ隊長の一撃が体勢を崩したわたしの体に飛んでくる。これをよけるのは不可能だ。わたしは死を覚悟する。

次の瞬間、鮮血が飛び散り、鈍い金属音が床に響いた。しかし、わたしに痛みはない。

咄嗟に閉じてしまった目を開けると、アセクラ隊長の体は背後から剣が貫かれていた。そして、一切の音を立てずに彼は現れた。

「話は聞かせてもらった。」

彼の姿には見覚えがある。二度も剣を交えたのだ、忘れるはずがない。

「レージス。」
しおりを挟む

処理中です...