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第五章 願い望んだ終わる夢
5-23.願い望んだ終わる夢Ⅰ
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その身体の大半は錆に侵されている。顔面は既に半分以上がガサガサと腐食しており、金色に輝く無機質な眼球。しかしそれはとてつもなく力強く、並々ならぬ生への執着をたたえていた。
『ああ嫌だ、眩しくてたまらないや』
『気持ちが高ぶる程に面白いけど、心地悪い空気だなぁ』
『酷い臭いだ、それになんて醜いんだ』
後からやってきた夜の者たちは次々に文句を言うが、アイリーンに向き合った獅子の姿の者はその姿を確認するなりギョロギョロとした目を止めて、ニヤニヤと笑む。
『やーやー王子様。ジア・ル・トーにようこそ。君、おれたちの事がちゃんと見えるよね』
「ああ。間違いなく俺よりあんたたちの方がおっかねぇ見た目だから、まじまじ見たくないが……ばっちり見えてるぜ。で、あんたたちが夜の者か?」
烈しく燃える炎の前に立つのは、これも人と呼んでよいかも分からない見てくれのおぞましい姿の男だった。
身体は錆び付き、その顔の半分は金属質な骨組みが剥き出しになり腐食している。
「ああ。ついでに王子様って柄でもねぇんだよ。ジャスパーって呼んでくれ」
軽い調子で言うと彼は、易々と崩れた塔を上り、アイリーンと同じ高さで夜の者たちと向き合った。
『そうジャスパー。でもね、おれたちは見ての通り今忙しいんだ』
「そーかよ。まぁあんたが俺たちに同じ呪いかけたお陰かな。お互いにここまで酷い有様になって、その子の心の声が筒抜けになってよ」
ジャスパーは顎でアイリーンを示す。
『ああ……君らってもう、そういう宿命だしね。同じ祝福をかけているんだもん。この極限の状態で魂が共鳴して互いが分かるんだろうね』
「分かりやすい解説どうも。で、俺たちにこんな素晴らしい程に惨たらしい贈り物を授けてくれたあんたにお願いがあるんだが、俺の願いを叶えてくれないか?」
その言葉に夜の者は長い首を捻った。
『いいけど……二百年くらい待ってくれないかな。お姫様も願いを言っていたんだよ。両方はさすがに無理、面倒臭い』
「んな、時間を人間が生きてる訳ねぇだろボケ!」
『ボケ……』
言われた言葉に驚いたのか、夜の者は素っ頓興な声をあげるが、唇にニヤニヤとした笑みをのせる。
「っていうか。この子はここで、あんたに直接願ったのか?」
『いいや直ではないね。願いを聞いたのは彼女の深い意思の中。君の為にも魂を消滅させて欲しいって言ったね』
「へぇ……」
目を細めるジャスパーの反応を不審に思ったのだろうか。
否、彼の心の内があまりに予想外だった所為か、夜の者は面白そうに目を丸く開いて彼を射貫く。
『君、全然悲しんでないね? このお姫様の事が好きじゃないの? っていうか、なんで怒ってるの』
「怒って当たり前だろ。好きに決まってるだろ! 愛してるからこそ、相談もなしに手前勝手な決断されりゃ腹立つんだよ!」
──一緒じゃなきゃ意味がない。俺の為だのそんな自己犠牲クソくらえだ。
ジャスパーがそう吐き捨てると、夜の者はどことなく納得したように頷いた。
『……で、ならばどうして君の願いを優先するべきなの?』
「簡単な事だ。その子には理性がない。深い意識の中って現実では直接は言ってないだろ。そういう事だ。あんた、理性のある俺の願い優先出来ねぇか?」
ジャスパーの言葉に、夜の者はやれやれと仕方なしにと頷いた。
『分かったよ、じゃあお姫様の願いは一度白紙に戻そう。……で、君の望みって?』
訊かれてジャスパーはニヤリと狡猾に笑んだ。
『ああ嫌だ、眩しくてたまらないや』
『気持ちが高ぶる程に面白いけど、心地悪い空気だなぁ』
『酷い臭いだ、それになんて醜いんだ』
後からやってきた夜の者たちは次々に文句を言うが、アイリーンに向き合った獅子の姿の者はその姿を確認するなりギョロギョロとした目を止めて、ニヤニヤと笑む。
『やーやー王子様。ジア・ル・トーにようこそ。君、おれたちの事がちゃんと見えるよね』
「ああ。間違いなく俺よりあんたたちの方がおっかねぇ見た目だから、まじまじ見たくないが……ばっちり見えてるぜ。で、あんたたちが夜の者か?」
烈しく燃える炎の前に立つのは、これも人と呼んでよいかも分からない見てくれのおぞましい姿の男だった。
身体は錆び付き、その顔の半分は金属質な骨組みが剥き出しになり腐食している。
「ああ。ついでに王子様って柄でもねぇんだよ。ジャスパーって呼んでくれ」
軽い調子で言うと彼は、易々と崩れた塔を上り、アイリーンと同じ高さで夜の者たちと向き合った。
『そうジャスパー。でもね、おれたちは見ての通り今忙しいんだ』
「そーかよ。まぁあんたが俺たちに同じ呪いかけたお陰かな。お互いにここまで酷い有様になって、その子の心の声が筒抜けになってよ」
ジャスパーは顎でアイリーンを示す。
『ああ……君らってもう、そういう宿命だしね。同じ祝福をかけているんだもん。この極限の状態で魂が共鳴して互いが分かるんだろうね』
「分かりやすい解説どうも。で、俺たちにこんな素晴らしい程に惨たらしい贈り物を授けてくれたあんたにお願いがあるんだが、俺の願いを叶えてくれないか?」
その言葉に夜の者は長い首を捻った。
『いいけど……二百年くらい待ってくれないかな。お姫様も願いを言っていたんだよ。両方はさすがに無理、面倒臭い』
「んな、時間を人間が生きてる訳ねぇだろボケ!」
『ボケ……』
言われた言葉に驚いたのか、夜の者は素っ頓興な声をあげるが、唇にニヤニヤとした笑みをのせる。
「っていうか。この子はここで、あんたに直接願ったのか?」
『いいや直ではないね。願いを聞いたのは彼女の深い意思の中。君の為にも魂を消滅させて欲しいって言ったね』
「へぇ……」
目を細めるジャスパーの反応を不審に思ったのだろうか。
否、彼の心の内があまりに予想外だった所為か、夜の者は面白そうに目を丸く開いて彼を射貫く。
『君、全然悲しんでないね? このお姫様の事が好きじゃないの? っていうか、なんで怒ってるの』
「怒って当たり前だろ。好きに決まってるだろ! 愛してるからこそ、相談もなしに手前勝手な決断されりゃ腹立つんだよ!」
──一緒じゃなきゃ意味がない。俺の為だのそんな自己犠牲クソくらえだ。
ジャスパーがそう吐き捨てると、夜の者はどことなく納得したように頷いた。
『……で、ならばどうして君の願いを優先するべきなの?』
「簡単な事だ。その子には理性がない。深い意識の中って現実では直接は言ってないだろ。そういう事だ。あんた、理性のある俺の願い優先出来ねぇか?」
ジャスパーの言葉に、夜の者はやれやれと仕方なしにと頷いた。
『分かったよ、じゃあお姫様の願いは一度白紙に戻そう。……で、君の望みって?』
訊かれてジャスパーはニヤリと狡猾に笑んだ。
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