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Study13.もう一度会いたい
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ラケルが学院寮を去ってから早いこと二日が経過した。
退院後の晩と言えば、幾度か部屋を叩扉する音が聞こえたものだが、ストロベリーは対応する事が出来なかった。きっと、レヴィもファラも心配していたに違いない。だが、何も話す気分にはなれなかった。食事の時間になっても食堂に行く気力さえ沸かず、寮母は部屋の前までトレーに食事を乗せて朝晩運んでくれたが今も未だ礼を言えていない。
……そう、ストロベリーあれっきり部屋に閉じ籠もっていた。
風呂にも入るし寝もする。食事も取るが無気力だった。それにあれ以来オブも姿を眩ませてしまい退院後の晩から見かけていない。いったいどこに行ってしまったのやら……ストロベリーはカーテンの隙間から降り注ぐ淡い陽光に目を細めて再び眠りについた。
それから幾許か時を経て、目を覚ました時には日は暮れていた。
いつまでもこんな生活を送っていたらいけないだろう。落ち込んでいる場合ではないだろう。そうは思うが上手い事、身体も動かず頭も回らなかった。
それでもなけなしの力で起き上がると、いつの間に戻ってきたのやら……オブが自分の足元で丸まってジッとストロベリーの方を睨むように見つめていた。
『お前いつまでそうしてるんだよ。心配してくれてる友達の事を少しは考えろよ』
響く低い声は紛れもなく双子の兄の声。まだ話せたのか──という事にも驚嘆してしまったが、今までどこに行っていたのかという疑問がたちまち沸き立った。
「……オブ、どこに行ってたの?」
『塞ぎ込んで湿ったい雰囲気が漂った場所はどうにも居づらいからな。姿を眩まして寮の中うろついてただけだ』
その言葉に狼狽えると、オブは追い打ちをかけるように『人に心配をかけさせるな』と厳しく言い放った。
「分かってる。ちゃんとお礼も言うし、二日も塞ぎ込んだのは謝るもの。迷惑をかけたって自覚だってちゃんとある」
分かり切っている事を指摘されたのだから腹立たしささえ込み上げてきた。オブを追ってこうなったのに……とさえ思ってしまうが、あの状況は間違いなく誰も悪く無かった。しかし、一方的に怒られる事が何だか腑に落ちない。ストロベリーは愛想無く鼻を鳴らした。
『分かれば良い』
「ねぇ……それより本当に貴方、私の兄のオブなの。どうして話せるの?」
未だ腹の虫はおさまらぬまま。目もくれずに訊けば彼はぴょこぴょことストロベリーの腰元まで近付いて彼女の顔を見上げた。
『お前、今更そこを疑うか? なら試してみろ』
「……屋敷の住所は?」
『シードリングズ、ブロッサム通りDー2』
「それじゃあ、私達の家庭教師の名前は?」
『レイ・カミーユ。美丈夫な癖に愛想皆無な眼鏡』
「じゃあ遺品整理の時に見つけたけど、部屋のクローゼットの奥深くにオブが隠してたいかがわしい本のタイトルは?」
仕返しだ。と、ばかりに目を細めて訊いてやるとオブは一歩二歩と後ずさりをして長い耳をピクピクと動かした。
『──言うか馬鹿!』
そんな反応を見る限り、これは間違いなく兄だろうと分かってしまう。
何だか妙に安堵を覚えて、ストロベリーは笑みを溢してしまうと未だカリカリと怒るオブは後ろ脚を叩き付けブゥブゥと鼻を鳴らし始めた。
「うん。そうだよね。間違いなく私の兄に違いない」
『だから言っただろ。あとな俺は随分前からお前に話しかけてた。俺の言葉なんぞお前に聞こえてないだけだったみたいだがな』
──多分、教会の悪ガキに捕まえられた直後くらいから話しかけてるわ。なんて、言い添えて。オブはプイとそっぽを向いた。
「そうだった……の?」
『だから、お前のおやすみのキスを全力で拒んだだろ? 兎に角な、こんな事にお前やあの女装野郎を巻き込んだ件においては謝っておく』
──悪かったよ。と、静かに告げてオブは一つ溜息を落とした。
「ねぇ、どうしてそんな姿になったの? ラケルのお姉さんのレイチェル……青い鳥ともオブはお祭りで会ったよね。その時、何か話をしたの?」
『いや……別に。”こんにちは”なんて気さくに挨拶されたもんだから挨拶を返しただけだ。声は本当あの女装野郎の作り声とそっくりだったな』
──それはもう交互に聞いたら判別出来ない程に。なんて、付け足して。オブはストロベリーを見上げた。
『それで、こんな姿になった理由なぁ……それは俺にもよく分かってない。ただ、あの白い梟の所為だとしか言いようがない』
「じゃあ、順を追って今までの事を全部話してくれる? これがもし呪いならば、解決の手がかりになるかも知れないよね?」
ストロベリーが尋ねると、オブは直ぐに頷いた。
退院後の晩と言えば、幾度か部屋を叩扉する音が聞こえたものだが、ストロベリーは対応する事が出来なかった。きっと、レヴィもファラも心配していたに違いない。だが、何も話す気分にはなれなかった。食事の時間になっても食堂に行く気力さえ沸かず、寮母は部屋の前までトレーに食事を乗せて朝晩運んでくれたが今も未だ礼を言えていない。
……そう、ストロベリーあれっきり部屋に閉じ籠もっていた。
風呂にも入るし寝もする。食事も取るが無気力だった。それにあれ以来オブも姿を眩ませてしまい退院後の晩から見かけていない。いったいどこに行ってしまったのやら……ストロベリーはカーテンの隙間から降り注ぐ淡い陽光に目を細めて再び眠りについた。
それから幾許か時を経て、目を覚ました時には日は暮れていた。
いつまでもこんな生活を送っていたらいけないだろう。落ち込んでいる場合ではないだろう。そうは思うが上手い事、身体も動かず頭も回らなかった。
それでもなけなしの力で起き上がると、いつの間に戻ってきたのやら……オブが自分の足元で丸まってジッとストロベリーの方を睨むように見つめていた。
『お前いつまでそうしてるんだよ。心配してくれてる友達の事を少しは考えろよ』
響く低い声は紛れもなく双子の兄の声。まだ話せたのか──という事にも驚嘆してしまったが、今までどこに行っていたのかという疑問がたちまち沸き立った。
「……オブ、どこに行ってたの?」
『塞ぎ込んで湿ったい雰囲気が漂った場所はどうにも居づらいからな。姿を眩まして寮の中うろついてただけだ』
その言葉に狼狽えると、オブは追い打ちをかけるように『人に心配をかけさせるな』と厳しく言い放った。
「分かってる。ちゃんとお礼も言うし、二日も塞ぎ込んだのは謝るもの。迷惑をかけたって自覚だってちゃんとある」
分かり切っている事を指摘されたのだから腹立たしささえ込み上げてきた。オブを追ってこうなったのに……とさえ思ってしまうが、あの状況は間違いなく誰も悪く無かった。しかし、一方的に怒られる事が何だか腑に落ちない。ストロベリーは愛想無く鼻を鳴らした。
『分かれば良い』
「ねぇ……それより本当に貴方、私の兄のオブなの。どうして話せるの?」
未だ腹の虫はおさまらぬまま。目もくれずに訊けば彼はぴょこぴょことストロベリーの腰元まで近付いて彼女の顔を見上げた。
『お前、今更そこを疑うか? なら試してみろ』
「……屋敷の住所は?」
『シードリングズ、ブロッサム通りDー2』
「それじゃあ、私達の家庭教師の名前は?」
『レイ・カミーユ。美丈夫な癖に愛想皆無な眼鏡』
「じゃあ遺品整理の時に見つけたけど、部屋のクローゼットの奥深くにオブが隠してたいかがわしい本のタイトルは?」
仕返しだ。と、ばかりに目を細めて訊いてやるとオブは一歩二歩と後ずさりをして長い耳をピクピクと動かした。
『──言うか馬鹿!』
そんな反応を見る限り、これは間違いなく兄だろうと分かってしまう。
何だか妙に安堵を覚えて、ストロベリーは笑みを溢してしまうと未だカリカリと怒るオブは後ろ脚を叩き付けブゥブゥと鼻を鳴らし始めた。
「うん。そうだよね。間違いなく私の兄に違いない」
『だから言っただろ。あとな俺は随分前からお前に話しかけてた。俺の言葉なんぞお前に聞こえてないだけだったみたいだがな』
──多分、教会の悪ガキに捕まえられた直後くらいから話しかけてるわ。なんて、言い添えて。オブはプイとそっぽを向いた。
「そうだった……の?」
『だから、お前のおやすみのキスを全力で拒んだだろ? 兎に角な、こんな事にお前やあの女装野郎を巻き込んだ件においては謝っておく』
──悪かったよ。と、静かに告げてオブは一つ溜息を落とした。
「ねぇ、どうしてそんな姿になったの? ラケルのお姉さんのレイチェル……青い鳥ともオブはお祭りで会ったよね。その時、何か話をしたの?」
『いや……別に。”こんにちは”なんて気さくに挨拶されたもんだから挨拶を返しただけだ。声は本当あの女装野郎の作り声とそっくりだったな』
──それはもう交互に聞いたら判別出来ない程に。なんて、付け足して。オブはストロベリーを見上げた。
『それで、こんな姿になった理由なぁ……それは俺にもよく分かってない。ただ、あの白い梟の所為だとしか言いようがない』
「じゃあ、順を追って今までの事を全部話してくれる? これがもし呪いならば、解決の手がかりになるかも知れないよね?」
ストロベリーが尋ねると、オブは直ぐに頷いた。
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