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Chapter1.人でなし
1-4.その選択権は皆無
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──何やら、あの女性軍人の母親は若くして夫を喪い寡婦になったらしい。
そうして、このザフィーア修道院に娘……あの女性軍人を連れてやってきたという。喋り方からしてシュタール人。きっと国を跨いだのだと分かるが、彼女は詳しい事情を話さなかった。
語らぬ事は聞かず慈愛の心で受け入れる。それが修道院のあり方だ。
そして、彼女の母親はこの修道院で修道女となった。しかし、修道女となった母親は四十代半ばで病に倒れ急逝。それから暫くして親戚がやって来て、当時十五歳だった娘を引き取ったという。
それからて数年後、彼女はシュタール軍に入り技術者になったのだと……。
「あの子はとても立派ですよ。今では准士官だそうで。軍に入ってから、修道院に毎年寄付金を送ってくれたものです。ですが、軍法を破ってまで、兵器を匿うだの正気の沙汰とも思えません。当然、私も断ったのですがね。それでも、旧知の友の娘。私にも思い入れがあって、願いの一つくらい聞いてあげたくなったもので……」
つまり、定期的に寄付金を送られてきたので上手く断れなかったのだろうと直ぐに理解する。
しかし、軍法破りを幇助するなど流石にまずいだろう。
アルマは心底呆れて目を細めた。
いや、本当に院長はどこまでも人情あって優しいとは思う。だが、そこに自分を巻き込まないで貰いたい。そう思うが面と向かって言えやしない。
「つまり……火曜の私に頼む理由は、超常力が他のエーデルヴァイスよりも優れているからですか。万が一にも彼が攻撃した時に、私なら自衛出来るからって事ですよね」
もうまどろっこしいのも面倒なので、思ったままを訊けば院長は黙って頷いた。
「それって危険を伴うって意味じゃないですか。相手はアルギュロス最悪の兵器ですよ。超常力なんて滅多に使うものじゃないですし、私の力が機甲に対抗出来るかなんて分かりませんよ。寧ろ、私に危険が無いって保証はあります? それに修道院や孤児院の子供達に害が無いとは言い切れません。いくら人のように話せるとはいえ、危ないに決まってるじゃないですか」
今からでも、断るべきだ。と、結論をピシャリとアルマは言わんとするが、院長は直ぐに言葉を遮った。
「……彼は人と変わらぬ感情を持っています。廃棄が決まった事を不憫に思ったのでしょう。彼女は匿って欲しいと願ったのです。彼は戦の最前線に立ち続け、心に影を落とした影響で重度の不眠を患っています。終戦までにその緩和も出来たらとの事です」
廃棄とはつまり……〝殺せ〟と言う事か。アルマは一瞬にして背筋が凍り付いた。
「貴女が、超常力を抑制出来るのと同じ。彼も力を抑える事が出来ます。貴女に頼るのは万が一の為です。機甲は水や電気に弱いそう。貴女は彼の弱点である雷の超常力を扱う事が出来る……充分に太刀打ち出来るだろうと、エーデルヴァイスをよく知る彼女からそう説得させられました」
──無敵の軍とはいえ、神に祈る場を土足で踏み入る訳がない。それにここは霊峰の神秘が残る地。ここで匿えば追われる事もなく済む。終戦を迎えたら、永久中立国のフェルゼン公国に彼を亡命させるらしい。と、院長は重々しく唇を動かして語り続けた。
あまりに重苦しくも、真摯な口調だったのでアルマは返す言葉も見当たらない。
「でも……」
あまりに唐突だ。どうして自分が。それに、隠蔽幇助なんてどうにかしている。と続けて言葉を出したいが、喉をつっかえて言葉なんか出やしない。
「……貴女には悪いとは思っています。アルマに大きな負担が掛からぬよう、私も責任を持って確と援助します」
真っ直ぐに視線を向けて言われるので、もはや肯定する他が無かった。否、気圧されてしまったという方が正しいだろう。困惑しつつ頷くと、院長は安堵した顔をする反面、心底申し訳無さそうに詫びを入れた。
そうして、このザフィーア修道院に娘……あの女性軍人を連れてやってきたという。喋り方からしてシュタール人。きっと国を跨いだのだと分かるが、彼女は詳しい事情を話さなかった。
語らぬ事は聞かず慈愛の心で受け入れる。それが修道院のあり方だ。
そして、彼女の母親はこの修道院で修道女となった。しかし、修道女となった母親は四十代半ばで病に倒れ急逝。それから暫くして親戚がやって来て、当時十五歳だった娘を引き取ったという。
それからて数年後、彼女はシュタール軍に入り技術者になったのだと……。
「あの子はとても立派ですよ。今では准士官だそうで。軍に入ってから、修道院に毎年寄付金を送ってくれたものです。ですが、軍法を破ってまで、兵器を匿うだの正気の沙汰とも思えません。当然、私も断ったのですがね。それでも、旧知の友の娘。私にも思い入れがあって、願いの一つくらい聞いてあげたくなったもので……」
つまり、定期的に寄付金を送られてきたので上手く断れなかったのだろうと直ぐに理解する。
しかし、軍法破りを幇助するなど流石にまずいだろう。
アルマは心底呆れて目を細めた。
いや、本当に院長はどこまでも人情あって優しいとは思う。だが、そこに自分を巻き込まないで貰いたい。そう思うが面と向かって言えやしない。
「つまり……火曜の私に頼む理由は、超常力が他のエーデルヴァイスよりも優れているからですか。万が一にも彼が攻撃した時に、私なら自衛出来るからって事ですよね」
もうまどろっこしいのも面倒なので、思ったままを訊けば院長は黙って頷いた。
「それって危険を伴うって意味じゃないですか。相手はアルギュロス最悪の兵器ですよ。超常力なんて滅多に使うものじゃないですし、私の力が機甲に対抗出来るかなんて分かりませんよ。寧ろ、私に危険が無いって保証はあります? それに修道院や孤児院の子供達に害が無いとは言い切れません。いくら人のように話せるとはいえ、危ないに決まってるじゃないですか」
今からでも、断るべきだ。と、結論をピシャリとアルマは言わんとするが、院長は直ぐに言葉を遮った。
「……彼は人と変わらぬ感情を持っています。廃棄が決まった事を不憫に思ったのでしょう。彼女は匿って欲しいと願ったのです。彼は戦の最前線に立ち続け、心に影を落とした影響で重度の不眠を患っています。終戦までにその緩和も出来たらとの事です」
廃棄とはつまり……〝殺せ〟と言う事か。アルマは一瞬にして背筋が凍り付いた。
「貴女が、超常力を抑制出来るのと同じ。彼も力を抑える事が出来ます。貴女に頼るのは万が一の為です。機甲は水や電気に弱いそう。貴女は彼の弱点である雷の超常力を扱う事が出来る……充分に太刀打ち出来るだろうと、エーデルヴァイスをよく知る彼女からそう説得させられました」
──無敵の軍とはいえ、神に祈る場を土足で踏み入る訳がない。それにここは霊峰の神秘が残る地。ここで匿えば追われる事もなく済む。終戦を迎えたら、永久中立国のフェルゼン公国に彼を亡命させるらしい。と、院長は重々しく唇を動かして語り続けた。
あまりに重苦しくも、真摯な口調だったのでアルマは返す言葉も見当たらない。
「でも……」
あまりに唐突だ。どうして自分が。それに、隠蔽幇助なんてどうにかしている。と続けて言葉を出したいが、喉をつっかえて言葉なんか出やしない。
「……貴女には悪いとは思っています。アルマに大きな負担が掛からぬよう、私も責任を持って確と援助します」
真っ直ぐに視線を向けて言われるので、もはや肯定する他が無かった。否、気圧されてしまったという方が正しいだろう。困惑しつつ頷くと、院長は安堵した顔をする反面、心底申し訳無さそうに詫びを入れた。
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